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伊豆綺談
御蔵島紀行1 名は、虎正
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為朝は、伊豆大島の関船を召し上げて、女護島へと向かうこととなりました。御蔵島まで辿り着き、そこで、島の者達に女護島の話を聞くと、島守を務める大蛇が居るとの話があった。その話を、船に入って、船室の玲にすると、不思議そうに言ってきた。
「ほぉ。大蛇とはのぉ。このあたり一帯は、東海竜王の領域であろうに」
「海に境界はないだろうに、領域があるのか、玲」
「為朝、そう厳密ではないがな、台湾や琉球から西が、我が父西海竜王が領域じゃ」
「その東が東海竜王かい、北と南は」
「肥後あたりより北は北海竜王。南海竜王は越南あたりから南と聞く」
「東海竜王の領域が、一番広いのかい」
「どうなのであろうな、南海は、さらに南にいくと、南北が逆転すると言うしの。かなり大きいとも言えるな」
「南北が逆転とはなんだ」
「このあたりでは、北に行けば、寒くなり、南にいけば暖かくなろう」
「あぁ」
「遥か南に行くとな、南に行けば寒く、北に行くと暖かくなるらしい」
「凄いな、それは、行ってみたい」
子供のように、はしゃいでいた。
「ほんに、為朝は、外ツ国の話を聞くと、良き顔をするのぉ」
「うん、玲。このところ、行ってみたい場所が増える一方じゃ」
「ほほほ、妾も一緒に行っても良いか」
「あぁ、行こう。俺も、玲が一緒だと楽しいしな」
「そうじゃな、為朝とならば、この世界を一周できるやも知れぬ」
「はははは、世界をめぐるか面白いのぉ。しかし、玲。一周というのはできるものなのか」
「さてな、よくは判らぬよ、為朝。天測によればできるハズじゃが、誰も確認したことのない」
「凄いなぁ」
夢見るように、輝く為朝の目が可愛くて、玲は、首筋まで真っ赤に染めて、少し顔を寄せてキスをした。
「すまぬ、為朝。あまりに可愛くて、止まらなかった」
「しかし、世界というのは繋がっているのかぁ、思いつかんなぁ、なんで判るんだ玲」
想像がつかない為朝に、玲が
「難波の天文方によれば、大地は大きな蹴鞠のようなもので、真中が一番暖かいところとなって、北と南は寒くなると言うておったが、妾も、良くはわからぬ」
「落っこちたりせんのかな、玲」
「どうも、蹴鞠の中心に引っ張られているらしいぞ、為朝」
「引っ張られる」
「そうじゃ、為朝。爺様が怒る時と同じでな、周囲のあるものを全て海も風も引き寄せてしまう。その力を解放すれば、引き寄せた風や海が荒れ狂う嵐のようになだれ込むと嵐となる。これが、東海竜王が力じゃな」
「凄まじいものだな、玲。東海竜王の力というのは」
「爺様の力は凄くてな、普段でも暦が狂うのじゃ」
「暦が狂うのか、玲」
「ははは、そうじゃ。よく注意されたものよ、爺様だけは怒らせてならぬとな」
「普段は、竜宮におられぬのか、玲」
「そうじゃな。今の竜宮は、妾達の入れる、表宮と、爺様や父様や婆様が入られている奥宮に分かれておる。奥宮には、妾達は入れぬ」
「奥宮は違うのか」
「為朝は、竜宮に行った男の話をしらぬか、御伽噺では浦島太郎と伝えられておる」
「ほぉ、あれは実際にあったことか」
「そうじゃな、玉手箱はなかったと思うが、奥宮におられた伯母様が、太郎という男に助けられて惚れて、奥宮へ連れ込んだのじゃ」
「ほぉ、積極的な伯母上だったのだな」
「そうじゃな、太郎は、十年ほど奥宮で暮らしておったらしいからな、浮世ならば百年ほど経っていたのだと思う」
「へぇ、時の流れを操れるのか」
「それが、爺様の力よ」
「凄まじいものよな」
話をしながら、島へ着いたが一向に外へ出ようとしない玲の様子に、為朝は、
「なぁ、外を歩いてみぬか、玲」
「ん。いや、妾は、外に出ぬ方が良かろう」
玲は、自分の姿を気にしていた。為朝は、
「嫌だな。俺は、玲と、色んな所を旅したいんだ。船の中だけでは楽しめぬ」
そのまま、玲を抱き寄せて、姫様だっこをすると、そのまま、連れ出した。異国風の衣装に、淡い蒼白い肌は白銀の髪と共に、目立つことこのうえなかった。島の者達が、もの珍しいように、遠巻きに見てて、ヒソヒソと話し声がした。
「「「鬼でねぇか」」」「「「鬼だなぁ、ここらにも来るようになっただか」」」
「鬼じゃないぞ、おれの妻は、竜神の孫姫だ」
鬼だ、鬼だと騒ぐ者達に、怒鳴りつけて言った。
「「「竜神様だと」」」「「ありがたや、ありがたや」」
今度は、膝をついてしまう者が表れる。困ったんで、そのままほっといて、歩き出した。
「この島、半里もなかったろ」
「為朝、どうするのじゃ」
「少し、走るぞ」
「なぁっ」
とっとっとっとと、為朝は、玲を姫様抱っこしながら駆け出した。
風を切るように駆け抜けて、為朝と玲は、
「ふふふ、ほんに、可愛い男じゃ」
笑顔になって、玲が笑って言うと、為朝は
「ん、おれは、可愛いと言われたのは、初めてだぞ」
「そうかの、妾から見ると、為朝は可愛いぞ」
「そっかぁ、可愛いか。むず痒い感じだな、玲」
駆けながら、為朝が少し笑った。
為朝が玲を抱いて、しばらく駆けていくと、山へと続く道に出てきた。
「為朝、妙殿から聞いたのじゃが、御蔵島は、神の蔵なのだそうじゃ、荒らしてはならぬぞ」
「ふぅん。蔵かぁ、玲」
そのまま山へと踏み入れて行こうとすると、ヒュンッ。一本の矢が飛んできた。
「なんじゃぁッ」
木陰より、人影が見え隠れするようにして、矢をつがえていた。
「これより先は、禁足の地じゃ、外ツ島の者は、入ってはならぬ」
「入れば、どうなる」
「討つ」
「なにぃッ」
「ならぬぞ、為朝。神域を侵したは、妾達の方じゃ、まずは降ろせ」
「あぁ」
為朝が、不服そうにしながらも、不貞腐れたように、玲を降ろす。玲は、かしこまりて、拍手を打つ。清冽なる響きが、一円に広がって静寂を呼ぶ。八拍の打ちし後に、祝詞を島へ奉納す。
「そなたは、三島の者か、大和には、葛城が古き祝詞を知る者はおらぬと思っておった」
「ご挨拶が遅れて申し訳ありませぬ。妾は、葛城が一族、渡辺颯が流れ、渡辺弼が娘玲にして、母は西海竜王が嫡女敖優なり」
「ほぉ、最近、竜神が子が増えたと聞いたが、その方達のことか。妾は、伊豆の蔵守が一族の虎正じゃ。そっちの男は、なんじゃ」
「俺は、鎮西八郎為朝じゃ」
「京洛から送られた流人とは、その方か」
「へぇ、俺も有名なんだ」
後手にかばっている女を見て、
「女に手を出すのが、はやいエロ親父と聞いたが、誠のようじゃな」
「な、なにぃッ」
かばわれた、玲は、声をかける
「怒るでない、為朝。そなた達は、島から出られぬのか」
「何か、御用でしょうか」
「この為朝を含めて、男衆の女になって貰えないか」
「ばかな、蔵守は、社を離れることなどできん」
「あんたに勝ったらどうだ」
「なにぃ」
「その梓弓矢で俺は殺せない。それを勝ちとして、おれはあんたが欲しいな」
「ふん。この距離で躱すと言うのか」
「いや、躱すと玲にあたるかも知れんからな、その矢を掴む」
「な、、、そんなことができるものか」
「どうだ、お前の勝ちは、おれの死だ、面白いだろ」
「命を賭けるか、良い。受けよう」
キリキリと、梓弓を絞り上げながら、左足を右足の前にだして、射線をズラす。為朝は、ズラされた射線に右手を合わせて構える。
「ほぉ、言うだけはあるか、これでどうだ」
左足を軸にして、右足を引き込むように、梓弓を構えたまま身体を時計回りに反転させながら右膝をおとして姿勢を下げ、下から射上げるように矢を放つ。正面にいた相手からは、影から梓弓を放ったように見えた。
「はぁッ」
影から放たれた矢が、一直線に為朝の心の蔵をめがけて進んでいくのを、右手で掴むと、突進しながら持ち替えて、相手のこめかみに鏃を立てる。
「どうだい、これで詰み。だろ」
「あ、あぁ。お前の勝ちだ」
二の矢をつがえようとした手が止まり、力が抜けて両膝をついた。
「良い勝負だった、虎正。お前が欲しい」
虎正の顔を上げさせて、口づけをすると、舌を絡めて相手の口腔をすすって、口を離すと虎正は、
「わ、わかった。お前のものになる」
為朝は、そのまま玲と虎正の二人を両手に抱き上げると、
「なぁ、虎正。この島の宝ってなんだ」
「葛城の事代主が鏡だ」
「なに、事代主じゃと。大和に敗れて、このような地に来ておったのか」
「あぁ、三宅に着いて、島娘を嫁とした。ここらの島は、事代主が后島じゃ」
「しかし、事代主は、寂滅したのであろう」
「うん。寂滅したのは、三宅ではないと聞いておるが、どこかは知らぬ。ご神体がこの地に残されたのじゃ」
玲は、興味深そうに聞きながら、どこかで休もうと、周囲を見ながら場所を探していた。
「為朝。あの岩場あたりが良いな、あそこまで行けるか」
湊へ戻る道で、海にでると、目立った岩場に目を止めた玲が為朝に言った。
「造作もない」
岩場へと下りて行くと、玲と虎正を降ろした。
陽が傾いてきたこともあって、食事の支度をしようと、玲が小物籠から、乾飯や竹筒を取り出していた。虎正は、梓弓を構えて、カモメを射落とした。小刀で首を落とし、血抜きを始めた。為朝は、枝を集めに、岩場を登っていた。
そんな為朝の姿を見ながら、梓弓でさらに二羽落として、血抜きを始めた。最初に血抜きをした鳥を、海水で洗って、羽を毟って捌いていった。
虎正が、鳥を捌きながら、ぽつりと
「この梓弓で負けたことは無かったのにな」
「ほほほ、為朝は強いからな、ほんに嫌なら、為朝には悪いが、逃げても良いぞ」
そのように玲が応えると、虎正は、
「男衆の相手とは、今日湊へ着いた、船の男衆を相手にするのか」
玲は、説明を始めた。
「いや、あれよりも大きいがな。そなたが相手をするのは、六人ほどじゃな、妾も良く情を交わした相手よ。良き男共ぞ」
「ま、島守の娘は、祭りではよく狙われるからな、二三人は判るが六人も相手にできるものなのか」
「それゆえに、何人か探しておるのじゃ、妾もきつかった故な」
「為朝は六人の中にはおらんのか」
「為朝に抱かれる時は、女一人ではきついのぉ」
そう、笑うように玲が言うと、虎正は、
「ほんとにエロ親父なんだな」
「ほほほ、ほんにのぉ」
そんなことを言っていると、
「なんか、いないと思って言いたい放題だな」
気配が溶け出る様に顕われて、ドサッと枯れ枝や枯草を降ろすと、為朝がむくれる様に言った。
「なに、妾一人でそなたを相手をするのは、きつい故な。少し虎正にも手伝ってもらおうと言っておっただけじゃ。許せ為朝」
為朝は、腰の火口を出して、枯草に火をつけて種火にして枯れ枝へ火をつけていった。その様子を見ていた虎正が、
「手際が良いな、為朝」
感心したように、虎正が言って来る。小太刀で枝を細く削いで、種火を増やしながら、肉に枝をさして炎の側に並べていった。
「まぁ、俺は、御所だのよりは、九州で暴れていた時の方が面白かったからな。九州では、自分でできないと飯も食えなかったからな」
食事を終えると、虎正は、衣を脱いで、髪を解き、海へ入った。小麦色に焼けた肌は、海水を弾きながら流れていった。解いた黒曜の髪は、流れるように肌へと纏っていった。しなやかな肌に、お椀のような胸乳が少し揺れていった。
玲も、自分の帯を解いて、衣を脱ぎ捨てて、淡い蒼白い肌を晒しながら、海へ入った。白銀の髪は艶やかに煌いて纏い、巨乳と言えそうな大きな胸乳が揺れていた。
「為朝、そなたも禊に付き合え」
「あぁ」
七尺の巨躯に纏った紬を脱ぎ捨てると、筋肉が悠然と流れるように顕われていった。下帯を解き落とすと、一尺あまり剛棒が赤黒くそそり立っていた。
「ひぃっ」
虎正が、顔を手で覆いながら、指の間が開いて、しっかりと目にしながら離せないでいると、背中を抱く様に覆われて、首筋に口吸いをあてられ、耳元で
「心配はいらぬ、妾も一緒じゃし、子の頭よりは小さいぞ」
「ははは、そうか」
為朝が側に来ると、覚悟を決めたように、腕を廻して頭を抱いて、キスを交わして、そのまま愛しむように舌を絡めていった。
淫気を高め、すすりあうように求めあって、背中を玲に支えられるように、足を開いた中へと貫かれていった。
「あぁあっぁあぁッ」
こうして、御蔵島の娘が一人、為朝に奪われたのでありました。これがまぁ、御蔵島に伝わる、為朝伝説の真相なのかも知れません。
「ほぉ。大蛇とはのぉ。このあたり一帯は、東海竜王の領域であろうに」
「海に境界はないだろうに、領域があるのか、玲」
「為朝、そう厳密ではないがな、台湾や琉球から西が、我が父西海竜王が領域じゃ」
「その東が東海竜王かい、北と南は」
「肥後あたりより北は北海竜王。南海竜王は越南あたりから南と聞く」
「東海竜王の領域が、一番広いのかい」
「どうなのであろうな、南海は、さらに南にいくと、南北が逆転すると言うしの。かなり大きいとも言えるな」
「南北が逆転とはなんだ」
「このあたりでは、北に行けば、寒くなり、南にいけば暖かくなろう」
「あぁ」
「遥か南に行くとな、南に行けば寒く、北に行くと暖かくなるらしい」
「凄いな、それは、行ってみたい」
子供のように、はしゃいでいた。
「ほんに、為朝は、外ツ国の話を聞くと、良き顔をするのぉ」
「うん、玲。このところ、行ってみたい場所が増える一方じゃ」
「ほほほ、妾も一緒に行っても良いか」
「あぁ、行こう。俺も、玲が一緒だと楽しいしな」
「そうじゃな、為朝とならば、この世界を一周できるやも知れぬ」
「はははは、世界をめぐるか面白いのぉ。しかし、玲。一周というのはできるものなのか」
「さてな、よくは判らぬよ、為朝。天測によればできるハズじゃが、誰も確認したことのない」
「凄いなぁ」
夢見るように、輝く為朝の目が可愛くて、玲は、首筋まで真っ赤に染めて、少し顔を寄せてキスをした。
「すまぬ、為朝。あまりに可愛くて、止まらなかった」
「しかし、世界というのは繋がっているのかぁ、思いつかんなぁ、なんで判るんだ玲」
想像がつかない為朝に、玲が
「難波の天文方によれば、大地は大きな蹴鞠のようなもので、真中が一番暖かいところとなって、北と南は寒くなると言うておったが、妾も、良くはわからぬ」
「落っこちたりせんのかな、玲」
「どうも、蹴鞠の中心に引っ張られているらしいぞ、為朝」
「引っ張られる」
「そうじゃ、為朝。爺様が怒る時と同じでな、周囲のあるものを全て海も風も引き寄せてしまう。その力を解放すれば、引き寄せた風や海が荒れ狂う嵐のようになだれ込むと嵐となる。これが、東海竜王が力じゃな」
「凄まじいものだな、玲。東海竜王の力というのは」
「爺様の力は凄くてな、普段でも暦が狂うのじゃ」
「暦が狂うのか、玲」
「ははは、そうじゃ。よく注意されたものよ、爺様だけは怒らせてならぬとな」
「普段は、竜宮におられぬのか、玲」
「そうじゃな。今の竜宮は、妾達の入れる、表宮と、爺様や父様や婆様が入られている奥宮に分かれておる。奥宮には、妾達は入れぬ」
「奥宮は違うのか」
「為朝は、竜宮に行った男の話をしらぬか、御伽噺では浦島太郎と伝えられておる」
「ほぉ、あれは実際にあったことか」
「そうじゃな、玉手箱はなかったと思うが、奥宮におられた伯母様が、太郎という男に助けられて惚れて、奥宮へ連れ込んだのじゃ」
「ほぉ、積極的な伯母上だったのだな」
「そうじゃな、太郎は、十年ほど奥宮で暮らしておったらしいからな、浮世ならば百年ほど経っていたのだと思う」
「へぇ、時の流れを操れるのか」
「それが、爺様の力よ」
「凄まじいものよな」
話をしながら、島へ着いたが一向に外へ出ようとしない玲の様子に、為朝は、
「なぁ、外を歩いてみぬか、玲」
「ん。いや、妾は、外に出ぬ方が良かろう」
玲は、自分の姿を気にしていた。為朝は、
「嫌だな。俺は、玲と、色んな所を旅したいんだ。船の中だけでは楽しめぬ」
そのまま、玲を抱き寄せて、姫様だっこをすると、そのまま、連れ出した。異国風の衣装に、淡い蒼白い肌は白銀の髪と共に、目立つことこのうえなかった。島の者達が、もの珍しいように、遠巻きに見てて、ヒソヒソと話し声がした。
「「「鬼でねぇか」」」「「「鬼だなぁ、ここらにも来るようになっただか」」」
「鬼じゃないぞ、おれの妻は、竜神の孫姫だ」
鬼だ、鬼だと騒ぐ者達に、怒鳴りつけて言った。
「「「竜神様だと」」」「「ありがたや、ありがたや」」
今度は、膝をついてしまう者が表れる。困ったんで、そのままほっといて、歩き出した。
「この島、半里もなかったろ」
「為朝、どうするのじゃ」
「少し、走るぞ」
「なぁっ」
とっとっとっとと、為朝は、玲を姫様抱っこしながら駆け出した。
風を切るように駆け抜けて、為朝と玲は、
「ふふふ、ほんに、可愛い男じゃ」
笑顔になって、玲が笑って言うと、為朝は
「ん、おれは、可愛いと言われたのは、初めてだぞ」
「そうかの、妾から見ると、為朝は可愛いぞ」
「そっかぁ、可愛いか。むず痒い感じだな、玲」
駆けながら、為朝が少し笑った。
為朝が玲を抱いて、しばらく駆けていくと、山へと続く道に出てきた。
「為朝、妙殿から聞いたのじゃが、御蔵島は、神の蔵なのだそうじゃ、荒らしてはならぬぞ」
「ふぅん。蔵かぁ、玲」
そのまま山へと踏み入れて行こうとすると、ヒュンッ。一本の矢が飛んできた。
「なんじゃぁッ」
木陰より、人影が見え隠れするようにして、矢をつがえていた。
「これより先は、禁足の地じゃ、外ツ島の者は、入ってはならぬ」
「入れば、どうなる」
「討つ」
「なにぃッ」
「ならぬぞ、為朝。神域を侵したは、妾達の方じゃ、まずは降ろせ」
「あぁ」
為朝が、不服そうにしながらも、不貞腐れたように、玲を降ろす。玲は、かしこまりて、拍手を打つ。清冽なる響きが、一円に広がって静寂を呼ぶ。八拍の打ちし後に、祝詞を島へ奉納す。
「そなたは、三島の者か、大和には、葛城が古き祝詞を知る者はおらぬと思っておった」
「ご挨拶が遅れて申し訳ありませぬ。妾は、葛城が一族、渡辺颯が流れ、渡辺弼が娘玲にして、母は西海竜王が嫡女敖優なり」
「ほぉ、最近、竜神が子が増えたと聞いたが、その方達のことか。妾は、伊豆の蔵守が一族の虎正じゃ。そっちの男は、なんじゃ」
「俺は、鎮西八郎為朝じゃ」
「京洛から送られた流人とは、その方か」
「へぇ、俺も有名なんだ」
後手にかばっている女を見て、
「女に手を出すのが、はやいエロ親父と聞いたが、誠のようじゃな」
「な、なにぃッ」
かばわれた、玲は、声をかける
「怒るでない、為朝。そなた達は、島から出られぬのか」
「何か、御用でしょうか」
「この為朝を含めて、男衆の女になって貰えないか」
「ばかな、蔵守は、社を離れることなどできん」
「あんたに勝ったらどうだ」
「なにぃ」
「その梓弓矢で俺は殺せない。それを勝ちとして、おれはあんたが欲しいな」
「ふん。この距離で躱すと言うのか」
「いや、躱すと玲にあたるかも知れんからな、その矢を掴む」
「な、、、そんなことができるものか」
「どうだ、お前の勝ちは、おれの死だ、面白いだろ」
「命を賭けるか、良い。受けよう」
キリキリと、梓弓を絞り上げながら、左足を右足の前にだして、射線をズラす。為朝は、ズラされた射線に右手を合わせて構える。
「ほぉ、言うだけはあるか、これでどうだ」
左足を軸にして、右足を引き込むように、梓弓を構えたまま身体を時計回りに反転させながら右膝をおとして姿勢を下げ、下から射上げるように矢を放つ。正面にいた相手からは、影から梓弓を放ったように見えた。
「はぁッ」
影から放たれた矢が、一直線に為朝の心の蔵をめがけて進んでいくのを、右手で掴むと、突進しながら持ち替えて、相手のこめかみに鏃を立てる。
「どうだい、これで詰み。だろ」
「あ、あぁ。お前の勝ちだ」
二の矢をつがえようとした手が止まり、力が抜けて両膝をついた。
「良い勝負だった、虎正。お前が欲しい」
虎正の顔を上げさせて、口づけをすると、舌を絡めて相手の口腔をすすって、口を離すと虎正は、
「わ、わかった。お前のものになる」
為朝は、そのまま玲と虎正の二人を両手に抱き上げると、
「なぁ、虎正。この島の宝ってなんだ」
「葛城の事代主が鏡だ」
「なに、事代主じゃと。大和に敗れて、このような地に来ておったのか」
「あぁ、三宅に着いて、島娘を嫁とした。ここらの島は、事代主が后島じゃ」
「しかし、事代主は、寂滅したのであろう」
「うん。寂滅したのは、三宅ではないと聞いておるが、どこかは知らぬ。ご神体がこの地に残されたのじゃ」
玲は、興味深そうに聞きながら、どこかで休もうと、周囲を見ながら場所を探していた。
「為朝。あの岩場あたりが良いな、あそこまで行けるか」
湊へ戻る道で、海にでると、目立った岩場に目を止めた玲が為朝に言った。
「造作もない」
岩場へと下りて行くと、玲と虎正を降ろした。
陽が傾いてきたこともあって、食事の支度をしようと、玲が小物籠から、乾飯や竹筒を取り出していた。虎正は、梓弓を構えて、カモメを射落とした。小刀で首を落とし、血抜きを始めた。為朝は、枝を集めに、岩場を登っていた。
そんな為朝の姿を見ながら、梓弓でさらに二羽落として、血抜きを始めた。最初に血抜きをした鳥を、海水で洗って、羽を毟って捌いていった。
虎正が、鳥を捌きながら、ぽつりと
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「ほほほ、為朝は強いからな、ほんに嫌なら、為朝には悪いが、逃げても良いぞ」
そのように玲が応えると、虎正は、
「男衆の相手とは、今日湊へ着いた、船の男衆を相手にするのか」
玲は、説明を始めた。
「いや、あれよりも大きいがな。そなたが相手をするのは、六人ほどじゃな、妾も良く情を交わした相手よ。良き男共ぞ」
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「それゆえに、何人か探しておるのじゃ、妾もきつかった故な」
「為朝は六人の中にはおらんのか」
「為朝に抱かれる時は、女一人ではきついのぉ」
そう、笑うように玲が言うと、虎正は、
「ほんとにエロ親父なんだな」
「ほほほ、ほんにのぉ」
そんなことを言っていると、
「なんか、いないと思って言いたい放題だな」
気配が溶け出る様に顕われて、ドサッと枯れ枝や枯草を降ろすと、為朝がむくれる様に言った。
「なに、妾一人でそなたを相手をするのは、きつい故な。少し虎正にも手伝ってもらおうと言っておっただけじゃ。許せ為朝」
為朝は、腰の火口を出して、枯草に火をつけて種火にして枯れ枝へ火をつけていった。その様子を見ていた虎正が、
「手際が良いな、為朝」
感心したように、虎正が言って来る。小太刀で枝を細く削いで、種火を増やしながら、肉に枝をさして炎の側に並べていった。
「まぁ、俺は、御所だのよりは、九州で暴れていた時の方が面白かったからな。九州では、自分でできないと飯も食えなかったからな」
食事を終えると、虎正は、衣を脱いで、髪を解き、海へ入った。小麦色に焼けた肌は、海水を弾きながら流れていった。解いた黒曜の髪は、流れるように肌へと纏っていった。しなやかな肌に、お椀のような胸乳が少し揺れていった。
玲も、自分の帯を解いて、衣を脱ぎ捨てて、淡い蒼白い肌を晒しながら、海へ入った。白銀の髪は艶やかに煌いて纏い、巨乳と言えそうな大きな胸乳が揺れていた。
「為朝、そなたも禊に付き合え」
「あぁ」
七尺の巨躯に纏った紬を脱ぎ捨てると、筋肉が悠然と流れるように顕われていった。下帯を解き落とすと、一尺あまり剛棒が赤黒くそそり立っていた。
「ひぃっ」
虎正が、顔を手で覆いながら、指の間が開いて、しっかりと目にしながら離せないでいると、背中を抱く様に覆われて、首筋に口吸いをあてられ、耳元で
「心配はいらぬ、妾も一緒じゃし、子の頭よりは小さいぞ」
「ははは、そうか」
為朝が側に来ると、覚悟を決めたように、腕を廻して頭を抱いて、キスを交わして、そのまま愛しむように舌を絡めていった。
淫気を高め、すすりあうように求めあって、背中を玲に支えられるように、足を開いた中へと貫かれていった。
「あぁあっぁあぁッ」
こうして、御蔵島の娘が一人、為朝に奪われたのでありました。これがまぁ、御蔵島に伝わる、為朝伝説の真相なのかも知れません。
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ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
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