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伊豆綺談
伊豆下田合戦 6. 新たな血筋、支える血筋
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桓武平氏が平朝臣清盛が嫡男重盛が八男宗実。それが俺だ。
父と祖父に言われ、源氏の一姫が婿となり、伊豆守となって平家を繋ぐ。俺は、一姫の婿となって、義父為朝が八幡衆と共に占領した、伊豆国府へと入っていった。
玲母様は、鬼ヶ島の鬼衆を使って、潮釜を拓いた。沖より汲み上げた潮を釜で焚いて塩を造る製塩技法である。一と俺は、玲義母様に頼まれて、伊豆や箱根の山々を巡り、鬼火や狐火を使える者、獣の革や肉を扱える者達を集めていった。
玲義母様は、ミヅチ衆が使う鞍を造る職人を集め、海豚や鰐、鯨の加工を行って、肉の塩漬けや干物といった加工食品、ミヅチ衆が使う鞍や伊豆駒の使う鞍の生産も始めていったのである。沼津には、多くの職人たちが集まって来てくれた。
「武雷」のミヅチ衆は、毎日のように銛漁をおこなって、魚を取っては、湊で売ったりしていた。潮釜から上がった塩も壷や桶に入れられて、売られるようになった。沼津の湊には、晴れた日には、三嶋大社の前に朝市が建てられるようになり、晴れた朝は、駿河や相模、甲斐からも塩や革を買う者達が増えていったのである。
朝市が開かれて、潮釜で作られた塩と共に今朝獲れた魚が売られて、活気溢れる声が響いているのでありました。
「さぁ、誰かないか無いか、十升で百匁」
「買ったぁッ」
壺や桶に入れられた、出来たばかりの粗塩が並んでいた。一升=10文(銅10匁)前後で取引されていました。向こうでは、銛で突かれた大きな魚が、売られて行く姿がありました。
牧之郷は、伊豆駒だけでなく、狩った獣からも革や肉をとって、三嶋大社の専売とした。東海道から坂東に入る入り口となるのが、沼津であり、東に山を越えることで坂東へ入り、坂東から山を越えて、西に行けば沼津を通って、京洛へと向かうことができる。垣田川の杜に石湯屋を築いて宿泊所としたのである。三嶋の朝市を通して、魚や塩が銭や稲で取引が行われていったのである。
玲母様は、伊豆には温泉が多いこともあって、街道沿いに杜湯は無い。石湯屋は、京洛の湯屋と違い、狐火が使える者や鬼火を使う者が老若男女に関係なく拓いたために、六文ではなく三文としていた。湯屋の側に茶屋や飯屋と一緒に建てたことと、愛宕衆やサンカ衆が出入りしていったことで、誰であっても受け入れる石湯屋として知られるようになったのである。
「一。玲義母様は凄いな」
「宗実。玲母様は、あたしの目標でもあるんだぞ」
一が玲義母様の話をする時は、目がキラキラしていて、一日中語り続けるように、玲母様の凄さを語っていくのだった。
伊豆守となった宗実は若いということもあって、国府の仕事は母経子が伊豆介として代行しています。最初の一月は、玲義母が提案して、母経子が整えるという流れが作られ、国府の役人達は忙しそうに駆けまわっていました。玲義母と義父為朝は、一月後には、伊豆大島へと戻っていきましたが、一は、朝市を廻って、国府に出ると、午前中は母経子の手伝いをして、午後からは俺と外を廻るという暮らしを続けていました。俺は、午前は、愛宕衆や鬼衆と稽古をおこない、午後は一や皆で町を廻るという流れが続き、陽が暮れそうな時に、石湯を廻って、一や愛宕衆と湯に入って、館へと戻るのでした。
夜になると、義父為朝や玲義母様が、石湯に訪れて泊まり、ミヅチ衆達と朝を迎えるのが日課となってました。
南天に陽がかかる時に三嶋大社の鐘が鳴ります。午時となったので、井戸で汗を流し、着替えると、一と二人で伊豆駒に沼津の鞍を乗せて出掛けて行くと、愛宕衆や鬼衆が付いて来るのでした。特に鬼衆の一鬼と愛宕衆の佳苗は、一を気に入ったらしく、一から離れようとしませんでした。
鬼衆や愛宕衆が見廻ることもあって、沼津の町は盗人や喧嘩があっても、大きな騒ぎになることもなく、過ごしやすい町となっていったのであります。伊豆八幡衆の名は、徐々に広がって行ったのであります。
伊豆で起きることは、平家の名か左大臣の名で小競り合いの対処ができたので、一年の後には、母経子と一が#子__やや__#を産んで、一の子として育て、#乳母__めのと__#を母としたのであります。母の子が父は、義父為朝でございました。一に子ができたと報告する時、一が、玲義母様に連れられてしまい、義父為朝と残されたのでございます。
「子が出来たのか」
子が出来た時、頭を掻いて、恥ずかしそうに訊いて来る、義父為朝を見たのは、初めてでした。
義父為朝から言われると、ちょっと恥ずかしかったけれど、
「まだ、わかりませぬが、月の障りが来ないと」
そのように答えました。
「そうか、、、あのな」
「なにかありましたか、義父上」
「、、、そなたの母君にもな、子が出来た」
「えぇッ」
俺の叫びが、本殿に響きます。母経子は、亡き父重盛の正室であった。確かに髪を下さず、女として伊豆に参ったのは確かでございました。その母が、義父為朝と子を為すとは思っていませんでした。
「宗実。母君も左大臣が猶子なれば、すまぬが源氏の子ではなく、藤原の子として育てる。一の子は、伊豆八幡衆が嫡子となる。細かきことは、玲の差配じゃ」
それって、丸投げでは、とは思ったものの、口には出しませんでした。
義父為朝は、年が明ける頃に、大きく南へと旅に出るとしていました。下田合戦から一年半が経過していました。祖父清盛との約定であったようです。
「相国は、二年待つと玲に文を送ったそうじゃ」
「しかし」
不安はいっぱいだ。今は、義父為朝が後ろ盾であり、八幡衆の纏めは、玲義母様であった。義父為朝が俺の背中を叩いた。激痛が走るくらいに気合いが入る。
「ははは、心配いらぬ。そなたの剣術は、玲の剣に近い、一が悔しがっていたであろう」
「はぁ」
小柄な俺は、義父為朝や鬼衆一鬼のような戦い方はできぬ。一が手合わせしていた、玲義母に教わった剣術は、相性が良かったらしく、館が闇に紛れて襲ってきた盗賊達を斬り倒すこともできた。玲義母様に褒められたのは確かだけど、、、
盗賊に襲われたことが伝わると、愛宕衆や鬼衆だけでなく、サンカの者達も館の近くに家を建てて住むようになった。サンカ衆は、様々な血が流れているらしく、館の周囲には、土や風の技を使う者が多く住まって、仕えることとなり、館の中で良いと言ったのに、軒下とかに潜んで護っている気配がするのでした。
一に礼のことを言うと、
「莫迦ね、宗実。彼らは、貴方を護るんじゃない。今の沼津を護りたいのよ」
「沼津を護りたい、、、」
「そうよ。沼津の今は、玲母が築いて、あたし達が護っている。宗実。あたし達が沼津の今を護れば、彼らへの対価となる。今の沼津を失えば、彼らの刃があたし達を斬るでしょうね」
「それが、対価」
「そういうことよ。宗実」
一がそう言って笑った。
あたしは一。八幡衆為朝が嫡女。
宗実に話しながら、あたしは今朝のことを思い出していた。朝起きた時に、庭を這っていくモノを見て驚いてしまった。這っていたモノは、地に潜って隠れた。人の姿を取れぬあやかしの姿は、それでも人の傍に寄り添おうとする姿であった。
あやまって、軒下にあたしが造った饅頭を届けた。食べてくれたみたいで、良かった。
宗実も気にしていたから、庭に祠を建てて、彼らのために饅頭や酒を備えた。人に姿を見せられぬ。それでも人であろうとする姿は、意地らしくて仕方なかった。
玲母様が言っていた、
「人とあやかしが交わる先を人とすることこそが、渡辺の祖霊綱が望みだと」
あたしは、宗実が子を抱き、この沼津に町を拓いて護る。
「この町が持つ、在り様を護ることが、あたしの務めだね。玲母様」
南方へ出かける玲母様は、二度と日ノ本へは還れぬかも知れぬそう言っていた。淡い蒼き肌を晒して生きることを、父様は許してくれたのだと。そんな父様と一緒に暮らすを望んで、玲母様は、海へ出るのだと。
「玲母様が、相国に感謝していることがあるって言ってたわね」
「え。お爺様に、何かあったのか」
「ははは、父様を罪人としたことよ、宗実」
「罪人にされたことを感謝するのか、一」
「だって、罪人となって、伊豆に流されてなきゃ、玲母様は、父様に逢えないじゃない」
「へッ。あぁ、確かにそうか」
「「はははっは」」
あたしと宗実の笑い声が、館に響いておりました。館に潜んでいる者達も、少しでも幸せに感じてくれたら良いな。
玲母様。あたし一は、幸せですよ。
講談師、見て来たように嘘を吐くでありますが、真実が混ざってこその嘘であります。
伊豆の国府沼津は、鬼衆やサンカ衆の潮釜、海産物加工食品、皮革製品など、様々な産物に賑わう、東西交易の結節点として、発展していくのでありました。
さて、伊豆山系の何処かの里にて、
「何、土蜘蛛が一姫様に見られたのか」
「はい。少し怯えたようでございましたが、必死に土に潜って隠れた儂に謝ってくれたです」
嬉しそうに土蜘蛛が語った。
「一姫様はどうした」
「庭に祠を築いて、酒や饅頭などを奉納してくれるようになりました」
「そうか、人には見られぬようにせよ」
「はい。頭」
言葉を放った土蜘蛛は、風に溶け込むように、走り去る気配だけが離れていくのでありました。
「京洛の方はどうじゃ」
地に潜み、闇に隠れる者達が、声だけで告げます。
「相国と法皇との仲は、修復不能と思われます。激発するは、時間の問題かと」
「蛭ヶ小島の若衆はどうじゃ」
「こちらは、北条の姫と契りを交しております。工藤茂光亡き今、監視も及ばぬようでございます」
頭は、呟くように、
「激発すれば、天下争乱ともなろうが、一姫様はいかがされるかのぉ」
答える声は、誰も居なかった。
父と祖父に言われ、源氏の一姫が婿となり、伊豆守となって平家を繋ぐ。俺は、一姫の婿となって、義父為朝が八幡衆と共に占領した、伊豆国府へと入っていった。
玲母様は、鬼ヶ島の鬼衆を使って、潮釜を拓いた。沖より汲み上げた潮を釜で焚いて塩を造る製塩技法である。一と俺は、玲義母様に頼まれて、伊豆や箱根の山々を巡り、鬼火や狐火を使える者、獣の革や肉を扱える者達を集めていった。
玲義母様は、ミヅチ衆が使う鞍を造る職人を集め、海豚や鰐、鯨の加工を行って、肉の塩漬けや干物といった加工食品、ミヅチ衆が使う鞍や伊豆駒の使う鞍の生産も始めていったのである。沼津には、多くの職人たちが集まって来てくれた。
「武雷」のミヅチ衆は、毎日のように銛漁をおこなって、魚を取っては、湊で売ったりしていた。潮釜から上がった塩も壷や桶に入れられて、売られるようになった。沼津の湊には、晴れた日には、三嶋大社の前に朝市が建てられるようになり、晴れた朝は、駿河や相模、甲斐からも塩や革を買う者達が増えていったのである。
朝市が開かれて、潮釜で作られた塩と共に今朝獲れた魚が売られて、活気溢れる声が響いているのでありました。
「さぁ、誰かないか無いか、十升で百匁」
「買ったぁッ」
壺や桶に入れられた、出来たばかりの粗塩が並んでいた。一升=10文(銅10匁)前後で取引されていました。向こうでは、銛で突かれた大きな魚が、売られて行く姿がありました。
牧之郷は、伊豆駒だけでなく、狩った獣からも革や肉をとって、三嶋大社の専売とした。東海道から坂東に入る入り口となるのが、沼津であり、東に山を越えることで坂東へ入り、坂東から山を越えて、西に行けば沼津を通って、京洛へと向かうことができる。垣田川の杜に石湯屋を築いて宿泊所としたのである。三嶋の朝市を通して、魚や塩が銭や稲で取引が行われていったのである。
玲母様は、伊豆には温泉が多いこともあって、街道沿いに杜湯は無い。石湯屋は、京洛の湯屋と違い、狐火が使える者や鬼火を使う者が老若男女に関係なく拓いたために、六文ではなく三文としていた。湯屋の側に茶屋や飯屋と一緒に建てたことと、愛宕衆やサンカ衆が出入りしていったことで、誰であっても受け入れる石湯屋として知られるようになったのである。
「一。玲義母様は凄いな」
「宗実。玲母様は、あたしの目標でもあるんだぞ」
一が玲義母様の話をする時は、目がキラキラしていて、一日中語り続けるように、玲母様の凄さを語っていくのだった。
伊豆守となった宗実は若いということもあって、国府の仕事は母経子が伊豆介として代行しています。最初の一月は、玲義母が提案して、母経子が整えるという流れが作られ、国府の役人達は忙しそうに駆けまわっていました。玲義母と義父為朝は、一月後には、伊豆大島へと戻っていきましたが、一は、朝市を廻って、国府に出ると、午前中は母経子の手伝いをして、午後からは俺と外を廻るという暮らしを続けていました。俺は、午前は、愛宕衆や鬼衆と稽古をおこない、午後は一や皆で町を廻るという流れが続き、陽が暮れそうな時に、石湯を廻って、一や愛宕衆と湯に入って、館へと戻るのでした。
夜になると、義父為朝や玲義母様が、石湯に訪れて泊まり、ミヅチ衆達と朝を迎えるのが日課となってました。
南天に陽がかかる時に三嶋大社の鐘が鳴ります。午時となったので、井戸で汗を流し、着替えると、一と二人で伊豆駒に沼津の鞍を乗せて出掛けて行くと、愛宕衆や鬼衆が付いて来るのでした。特に鬼衆の一鬼と愛宕衆の佳苗は、一を気に入ったらしく、一から離れようとしませんでした。
鬼衆や愛宕衆が見廻ることもあって、沼津の町は盗人や喧嘩があっても、大きな騒ぎになることもなく、過ごしやすい町となっていったのであります。伊豆八幡衆の名は、徐々に広がって行ったのであります。
伊豆で起きることは、平家の名か左大臣の名で小競り合いの対処ができたので、一年の後には、母経子と一が#子__やや__#を産んで、一の子として育て、#乳母__めのと__#を母としたのであります。母の子が父は、義父為朝でございました。一に子ができたと報告する時、一が、玲義母様に連れられてしまい、義父為朝と残されたのでございます。
「子が出来たのか」
子が出来た時、頭を掻いて、恥ずかしそうに訊いて来る、義父為朝を見たのは、初めてでした。
義父為朝から言われると、ちょっと恥ずかしかったけれど、
「まだ、わかりませぬが、月の障りが来ないと」
そのように答えました。
「そうか、、、あのな」
「なにかありましたか、義父上」
「、、、そなたの母君にもな、子が出来た」
「えぇッ」
俺の叫びが、本殿に響きます。母経子は、亡き父重盛の正室であった。確かに髪を下さず、女として伊豆に参ったのは確かでございました。その母が、義父為朝と子を為すとは思っていませんでした。
「宗実。母君も左大臣が猶子なれば、すまぬが源氏の子ではなく、藤原の子として育てる。一の子は、伊豆八幡衆が嫡子となる。細かきことは、玲の差配じゃ」
それって、丸投げでは、とは思ったものの、口には出しませんでした。
義父為朝は、年が明ける頃に、大きく南へと旅に出るとしていました。下田合戦から一年半が経過していました。祖父清盛との約定であったようです。
「相国は、二年待つと玲に文を送ったそうじゃ」
「しかし」
不安はいっぱいだ。今は、義父為朝が後ろ盾であり、八幡衆の纏めは、玲義母様であった。義父為朝が俺の背中を叩いた。激痛が走るくらいに気合いが入る。
「ははは、心配いらぬ。そなたの剣術は、玲の剣に近い、一が悔しがっていたであろう」
「はぁ」
小柄な俺は、義父為朝や鬼衆一鬼のような戦い方はできぬ。一が手合わせしていた、玲義母に教わった剣術は、相性が良かったらしく、館が闇に紛れて襲ってきた盗賊達を斬り倒すこともできた。玲義母様に褒められたのは確かだけど、、、
盗賊に襲われたことが伝わると、愛宕衆や鬼衆だけでなく、サンカの者達も館の近くに家を建てて住むようになった。サンカ衆は、様々な血が流れているらしく、館の周囲には、土や風の技を使う者が多く住まって、仕えることとなり、館の中で良いと言ったのに、軒下とかに潜んで護っている気配がするのでした。
一に礼のことを言うと、
「莫迦ね、宗実。彼らは、貴方を護るんじゃない。今の沼津を護りたいのよ」
「沼津を護りたい、、、」
「そうよ。沼津の今は、玲母が築いて、あたし達が護っている。宗実。あたし達が沼津の今を護れば、彼らへの対価となる。今の沼津を失えば、彼らの刃があたし達を斬るでしょうね」
「それが、対価」
「そういうことよ。宗実」
一がそう言って笑った。
あたしは一。八幡衆為朝が嫡女。
宗実に話しながら、あたしは今朝のことを思い出していた。朝起きた時に、庭を這っていくモノを見て驚いてしまった。這っていたモノは、地に潜って隠れた。人の姿を取れぬあやかしの姿は、それでも人の傍に寄り添おうとする姿であった。
あやまって、軒下にあたしが造った饅頭を届けた。食べてくれたみたいで、良かった。
宗実も気にしていたから、庭に祠を建てて、彼らのために饅頭や酒を備えた。人に姿を見せられぬ。それでも人であろうとする姿は、意地らしくて仕方なかった。
玲母様が言っていた、
「人とあやかしが交わる先を人とすることこそが、渡辺の祖霊綱が望みだと」
あたしは、宗実が子を抱き、この沼津に町を拓いて護る。
「この町が持つ、在り様を護ることが、あたしの務めだね。玲母様」
南方へ出かける玲母様は、二度と日ノ本へは還れぬかも知れぬそう言っていた。淡い蒼き肌を晒して生きることを、父様は許してくれたのだと。そんな父様と一緒に暮らすを望んで、玲母様は、海へ出るのだと。
「玲母様が、相国に感謝していることがあるって言ってたわね」
「え。お爺様に、何かあったのか」
「ははは、父様を罪人としたことよ、宗実」
「罪人にされたことを感謝するのか、一」
「だって、罪人となって、伊豆に流されてなきゃ、玲母様は、父様に逢えないじゃない」
「へッ。あぁ、確かにそうか」
「「はははっは」」
あたしと宗実の笑い声が、館に響いておりました。館に潜んでいる者達も、少しでも幸せに感じてくれたら良いな。
玲母様。あたし一は、幸せですよ。
講談師、見て来たように嘘を吐くでありますが、真実が混ざってこその嘘であります。
伊豆の国府沼津は、鬼衆やサンカ衆の潮釜、海産物加工食品、皮革製品など、様々な産物に賑わう、東西交易の結節点として、発展していくのでありました。
さて、伊豆山系の何処かの里にて、
「何、土蜘蛛が一姫様に見られたのか」
「はい。少し怯えたようでございましたが、必死に土に潜って隠れた儂に謝ってくれたです」
嬉しそうに土蜘蛛が語った。
「一姫様はどうした」
「庭に祠を築いて、酒や饅頭などを奉納してくれるようになりました」
「そうか、人には見られぬようにせよ」
「はい。頭」
言葉を放った土蜘蛛は、風に溶け込むように、走り去る気配だけが離れていくのでありました。
「京洛の方はどうじゃ」
地に潜み、闇に隠れる者達が、声だけで告げます。
「相国と法皇との仲は、修復不能と思われます。激発するは、時間の問題かと」
「蛭ヶ小島の若衆はどうじゃ」
「こちらは、北条の姫と契りを交しております。工藤茂光亡き今、監視も及ばぬようでございます」
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「激発すれば、天下争乱ともなろうが、一姫様はいかがされるかのぉ」
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