弓張月異聞 リアルチートは大海原を往く

Ittoh

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伊豆綺談

伊豆紀行 後書綺談

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 エピローグというものは、エピローグでは無く、次を描くためのプロローグである。#講談師___さくしゃ_#はこの描き方が、割に好きだったりします。



 伊豆大島へ戻って、虎正は久しぶりに、玲と為朝に抱かれた後、為朝を自分の膝枕で寝かせながら、虎正がおずおずと聞いてきた。
「ねぇ、姐御、聞いていいかな」
「どうした、遠慮などいらぬぞ、虎正」
虎正の膝で眠っている、為朝の髪を弄り、愛しそうに撫でながら、言ってくる。
「うん。工藤を討ったのは何故」
「ん。工藤を討ったは、この大島へ攻め寄せようとしたからじゃ」
「よくわかんない、ゴメン。でもなんか違う感じがする。大軍で攻めてきているのに、あいつら、どこか焦っているような感じがしたんだ」
少し、考えていた玲は、
「為朝にな、日ノ本での勝ち戦をやりたかったのよ」
「勝ち戦って」
「為朝はな、この日ノ本で戦って、勝ったことが無い」
「勝ったことが無い」
「為朝にとって、細かい戦などどうでも良いのじゃ、心が揺さぶられるくらいに強い相手と、正面切って戦うことが、為朝の望みであった」
「それが、宇佐美定行と工藤茂光だった」
「そうじゃな、為朝と同じく五人張りを引く宇佐美との弓合わせ、工藤の船を沈めたミヅチでの戦。為朝にとっては、日ノ本最強たるを知らせる戦となった」
「相国はな、工藤に討たれるようなら、約定を破棄するつもりであったのだろう」
「姐御、戦は続くのではないか」
「虎正。確かに戦は続くが、日ノ本が戦は、為朝や妾にとって、つまらぬ戦となるぞ」
「つまらぬ戦とはなんだ、姐御」
「虎正。此度の戦で、北条が見せたような戦じゃ」
「北条、、、あぁ白濱に攻め込んで来た奴か。姐御」
虎正は、数百の相手を、百名ほどで戦うこととなった、虎正や千代が弓を射て、愛宕衆やカグラが薙ぎ払うように、五尺棒を振り回す。敵はカグラに怯えて遠巻きにしていった。敵を打ち破っているように見えたけれど、敵は逃げ腰だったし、あまり強くは感じなかった。
「そうじゃ、虎正。正面切って戦うことをせぬ戦じゃ」
「姐御。なんであいつらは、なんで白濱に攻め込んだんだ」
北条が、虎正から見ると、戦わなければならない理由が見えない。そのまま逃げれば良いのに。
「おそらくは質であろう、虎正。神社の者を捉えて、本領に戻るための人質とする」
ということは、北条は負け戦で、白濱で孤立した以上は、死を覚悟しなければならない。できれば、戦果も欲しい。そして、脱出するのに必要な方策を考え実行する。虎正は、玲の行動を繋いだ。
「だからか、姐御が人質になった」
虎正は、確認するように言った。
「最初は、妾が斬るつもりであったがな、さすが北条よ、為朝の絵を出しおった」
 後に、姐御に見せて貰ったが、良い絵だった。為朝の武者振りが描かれ、生き生きと嬉しそうに戦う姿綺麗に描かれていた絵だった。虎正が、後で聞いた話だと、雲海が為朝を描いた戦絵は、三点描かれ、相国だけでなく、嵯峨院へ奉納されていた。三点目が、「武雷タケミカヅチ」の姐御の元に納められた。
「あの絵は、見事だったな。雲海の絵」
「絵が欲しくてな、上乗りを引き受けたのよ、虎正」
「しかし、為朝が大変だったぞ、姐御」
虎正は、思い返していた。怒気に昂ぶる為朝に、誰もが近づけぬくらいに怒りまくっていた。カグラ達が必死で抑えていた。
「北条にとって、本領へ逃げるに、妾以上の上乗りは居らぬし、北条は妾に手は出さぬ」
まぁ、だからと言って、虎正からすれば、為朝が安心するわけがないということになる。
「でも、為朝だよ、姐御」
「そうじゃな、ただ、虎正。悪い、たしかに悪いとは思うのだが、ちょっと嬉しかったりもするのじゃ。為朝が妾を愛しんでくれる姿にな」
玲の姐御ってば、惚気たよ。赤く頬を染めた姐御に、虎正まで赤くなった。上乗りの後で、為朝は姐御を離さなかったものな。本当の意味で為朝を止められるのは、姐御だけだ。



そういえば、なんで三点だったのだろう。
「なぁ、姐御、絵を三点にして嵯峨院へ贈ったのは何故だ」
「それはな、虎正。嵯峨院に為朝の健在を伝えること。これが為朝への理由。そして、虎正、内緒じゃが、相国に嵯峨院を粗略に扱わせぬためじゃ」
「嵯峨院か、為朝の主だよな」
「そうじゃ。志奈の父でもある。為朝の武勇を認め愛しんでくれた主上おかみじゃ。八幡衆にとっても主ということになるな」
虎正は、考え込んだ、八幡衆にとっても主。
「嵯峨院へ遠慮させるということか、姐御」
「八幡衆にとって、日ノ本への忠義は、嵯峨院へのものじゃ」
「姐御。それじゃ」
「相国は、嵯峨院を粗略にはせぬし、嵯峨院への寄進を止めることもせなんだからな。心配はなかろう」
「相国は、嵯峨院を大切にするか」
「虎正。為朝にとってはな、相国が法皇と争うのは構わぬが、嵯峨院と争うことは許さぬということさ。嵯峨院を粗略にし、敵とすれば、為朝がでるぞと脅せるようなものじゃ」
虎正は、感じていた、姐御には敵わないって。嵯峨院には、為朝が味方に付いていると報せ、相国には、嵯峨院に配慮することを要求する。ほんと、姐御は流石だねぇ。
「嫌ではないか、虎正。このような仕儀は」
姐御が、不安そうに聞いて来る。虎正にとって、めんどうな政治とか戦はよくわからない。ただ、姐御を信じて、戦うだけだと思っている。
「あたしはさ、姐御についていくだけさ。でも、気になって尋ねたら、教えてくれよ」
虎正は、為朝の妻になり、玲を姐御として、従うことを決めた。船長の一人となっても、船長の長は、玲の姐御とするとそう決めた。それは二番船の紀平治だって同じだ。それに、存分に戦った戦が終わって、為朝は嬉しそうだったし、今までどこか昏い闇のようなものが、晴れていったような、そんな姿がなんか綺麗だったし、恰好良かった。琉威達が、素直に飛びついて、抱かれているのが羨ましいくらいに良い男だったなぁ。虎正も為朝に抱かれたし、
幸せそうに笑顔になっていく虎正を、羨ましそうに見ながら、玲がからかうように言ってくる。
「構わぬよ、虎正、そなたに嘘は吐かぬ。そなたは、接吻したいくらいに可愛いぞ」
慌てたような、虎正は、びっくりして見返すように、
「え、なんで、姐御」
虎正は、慌てて姐御に訊いた。
「千代が、虎正に惚れるのが理解できるぞ。虎正は、そこらのおのこよりも、虎正は良いおのこじゃ」
えぇ、虎正は驚いたように下がる。
「えぇっ、あたしは、為朝が好きだよ」
じりじりと下がりながら、虎正は玲に必死で伝える。
「ほほほ」
笑いながら手を伸ばしてくる、玲に、虎正は叫んでしまった。
「姐御ぉッ」
虎正が叫んで、動いてしまったので、ごそごそと、為朝が起きだした。
「どうした。玲」
玲は、起きた為朝を胸に抱きながら、
「ほほほ、虎正があまりに良い女なので、キスしようとすると逃げるのじゃ、為朝は寝てても良いぞ」
為朝は、玲の言葉を聞いて、手を払って起き上がった。
「虎正は、良い女だが、おれの女だ、玲にやりたくないぞ」
そのまま起き上がると同時に、虎正を押し倒した。
「た、為朝」
「嫌か、虎正」
「い、嫌じゃない、けど」
顔が赤くなって、声が小さくなって、為朝にしがみつく様に、身体を寄せていくと、男と女の時間が始まり、そこへ玲が割り込んできて、
「妾も抱いて欲しいぞ、ダメか」
普段は見せない、上目遣いの玲が、為朝には素直に可愛いく見える。
「なんの、玲も、この為朝のつまよ」
そして、三人の女男女は、仲良く睦みあっていくのでありました。



 ちょうど、戦の終わり、南へ向かう冒険の旅に出る少し前の、長閑なひと時のことでありました。

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