弓張月異聞 リアルチートは大海原を往く

Ittoh

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南洋紀行

南洋紀行 8. イツキは斎という名の男の娘

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為朝は、驚いて、
「運命って、俺のことか」
まっすぐに為朝を見て、
「はい。イツキと呼んでください」
これが、南海の航法師イツキと為朝の出会いでございました。
 言葉が通じると、互いに少し安心するものである。
そんなやりとりの後のこと、
「ほほほ、相変わらず、おなごにモテルのぉ、為朝」
「こら、玲。ここに近寄ってはいかん」
為朝があわてて、止めようとすると、
「妾とて解っておる。じゃが、雲鈴の話では、その娘が病は、移る病ではなさそうじゃ」
「為朝。そなたを寝かさねばならぬからな。この十日、ほとんど寝ておるまい」
「それは、大丈夫だ、玲。俺は頑丈だからな」
「イツキとやらの、病も癒えたようじゃ、長次達に代わるのじゃ、これは、船長としての命令じゃ、為朝」
「紀平治、そなたも同罪じゃ、為朝を連れて、艫屋形へ行くがよい」
「はっ、確かに、長次」
「へいっ」
長次の手下愛宕衆三人で、為朝を抱えて焼酎を飲ませて、そのまま連れ去っていった。
「長次、千。すまぬがイツキという娘と少し話がしたい故、舷側で待っていてくれるか」
「「へぇぃッ」」
 舷側で控える声がした。玲が突き出しの段を降りて、舷側に座った。



 玲は、しばらく語りかけることなく、イツキを黙って見ていた。
 えっとぉ、淡く蒼い肌をした女性だよね、多分。和語って日本語のことだろうし、かなり昔なのかなぁ、話があるって言ったのに、話かけてこないなぁ、
「そなた、平成とか昭和を知っておるのではないか」
え、平成とか昭和を知っているって
「あなたも転生者?」
その言葉を聞いて、玲が、しばらく笑っていた。大切そうにお腹をさすりながら、
「はははは、ははははは、、、」
笑い声が、しばらく止まらずに、イツキが不安になっていると
「誠に居るのだな、転生者というのは。伝承とばかり思っておった」
それって、どういうこと
「どういうことでしょうか」
玲は、ようように治まってきた笑いに、
「ほほほ、妾自身は、転生者ではない。ただ、魂の転生者の子孫というだけじゃ」
えぇっと何。転生者の子孫ってこと、魂の転生って、
「魂の転生者って何でしょう」
玲は、あたしを見ながら、
「身体は死して、自分自身の意識だけが、現世うつつよに別の身体へと転生した者のことじゃ、そなたが時代が進んだ、日本から来たのであれば、その身体は異なろう」
凄い、あたしは、テンプレみたいに車に轢かれて死んだらしいし。
「はい、イツキ・エタク・ビアイ。航法師です」
「航法師か、それは良き娘と巡り合えたようじゃ」
居住まいを糺して、
「すまぬ。先に名乗らせてしもうたな。妾は、西海竜王が嫡孫、敖玲じゃ。転生者「渡辺綱」の子孫でもある。玲と呼んで良いぞ」
と語った。転生者、「渡辺綱」ねぇ。誰だろう。
「あたしは、イツキと呼んで下さい」
「わかった、イツキ。後、三日待つが良い。妾もややを宿す身じゃし、幼き子もいるからの」
「はい」
「詳しき話は、その後としよう、イツキ」
「はい、玲」
ゆっくりと立ち上がり、少し身体の線に母の膨らみが目立つようになった身体を返して、突き出しを登っていった。
 あたしは、兄弟たちみんなに、三日経てば、助けてくれると伝えた。



 西海竜王にお孫さんねぇ、他の転生者もいたようだから、日本の歴史を遡ったわけじゃないみたいね。
 あたしの名前は、金城斎きんじょういつき。高校生だった。大学生になった記憶は無い。母子家庭だったけど、ごく普通に育って、まぁ、高校生をしていたんじゃないかと思う。人が死んだら、またどこかの世界に行くってホントだったのかな。トラックに挽かれて死ぬのは、テンプレではあることだと思うけど、母さんを残していくのは、嫌だったな。
 弟に後を任せるしかないけどさ。頑張んな、融。ごめんね、母さん。ただ、自分を誤魔化すのはかなり厳しくなっていた。男に生まれたけれど、自分を男って思えなかった。線だって細くて、中学の時は、男ひとりだった、漫画研だった女子に連れ込まれて、女装させられたり嬲られたり玩具にされたこともあって、女の方も苦手になった。
 南方の島の航法師へと転生したみたい。イツキの記憶力は凄い、詠唱航法で、星の動きや島の配置から太平洋を巡る島を渡る道を辿れる。実際に、住んでいた島から、出掛けて行って、日本人の斎が行ったことがある、ハワイとかアメリカに渡って、島へ戻るコースを三年かけて廻った記憶があった。その中に、琉球へ向かっていくコースがあった。そのコースに乗ったつもりだけど、あたしが熱病で倒れているうちに流されてしまったみたいだ。星の配置が違う。
「イツキ」
「何、斎」
「今の女性みたいな肌の人にあったことある」
「無い」
 頭の中でのやりとりは、イメージだったから、熱にぼぉーとしている間、時折、会話を続けていた。淡く蒼い肌かぁ、竜族の肌が持つ色らしいのよね、どっかのアニメに出てくる、異星人っぽい色。
 イツキとウルは、島一の航法師で、ほとんどの詠唱を覚えていた。妹のウルと共に、その技で、太平洋をハワイ、アメリカ大陸と廻って、島へ帰って来たんだ。その技を欲しがったのと、島長の息子が、あたしとウルを奪おうとして、邪魔した両親を殺されて、兄弟達と一緒に船に乗って、逃げ出したんだよね。ウルが、仲良くなった、ハワイのカウオカか、アメリカ大陸の南、赤道あたりでウルが熱病で倒れた時に、助けてくれたユウリに逢いに行こうって思ったんだよね。
「ねぇ、イツキ。どうしたい」
「あたしは、為朝が好み。イツキは、それでも良い」
「え、えぇっとぉ」
真っ赤になって、為朝を思い出していた。あの身体よね、筋肉が綺麗というか、でもなぁ、あたしって、男ではあったけど、男の方が好きだったんだよね。
「好みなら、イツキの身体は女だから大丈夫問題ない」
「なんでそんな言葉なの」
「覚えた。イツキの記憶は、わたしのもの」
そんな、ちょっと妖しい妹を持った、あたしことイツキの転生でした。
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