我田引鉄だけじゃない？ 前夜、改軌論争終結

轍を合わせる

轍を同じにすること、５フィート広軌列車開発物語

　列車と言うモノは、基本的には、軌道幅が異なると運用できない。線路を再度敷設するとなれば、時間に資材がかかる。日露戦争に勝利後、満洲鉄道の権益が得られない場合、日本が大陸に敷設する鉄道は、旅順から大連、そして遼陽に至る遼東半島の路線と言うことになる。

「広軌レールの開発と試験か、後藤君」

　鉄道院総裁となった、後藤新平は、広軌道を用いて、大量輸送体制の確立を目指していた。

「はい。桂閣下」

　日露戦争のポーツマス条約の締結にあたって、国力が疲弊していた日本は、非常に厳しい状況を生み出していた。ロシア帝国は、賠償を払う気など無く、日本側も賠償請求は取れないと判断していた。日本に既に弾薬は尽きていて、継続戦闘能力が払底しているという記事が載り、賠償請求が取れそうにないという噂が、国内で新聞報道されると、日本国内の世論が沸騰していた。

　議会で追及された、桂首相は、借款総額が、１８億円となり、外国への借金であると報告しました。そして、これ以上の借金は、日本国家を破産させることになると言い切り、ポーツマスでの講和条約を締結しなければ、日本は滅びると宣告したのです。ロシア帝国は、日本に対して強気に出て、最終的に遼東半島以外の権益は、ロシアの資産であると言うことをアメリカと日本に通告したのです。

　最終的にｉｆの歴史では、日露講和条約が締結されました。

一つ．ロシアは韓国（大韓帝国）における日本の政治上・軍事上および経済上の日本の利益を認め、日本の韓国に対する指導、保護および監督に対し、干渉しないこと。
一つ．遼東半島租借については、ロシアは干渉しないこと。
一つ．旅順、大連およびその周囲の租借権・該租借権に関連してロシアが清国より獲得した一切の権益・財産を日本に移転交附すること。
一つ．日露両国は、清国が満州の商工業発達のため、列国に共通する一般的な措置の執行にあたり、これを阻害しないことを互いに約束すること。
一つ．ロシアは、樺太および附属島、一切の公共営造物・財産を日本に譲与すること。
一つ．満洲における鉄道の敷設および運営権は、ロシアが保有すること。ただし、遼東半島からの鉄道について、相互乗り入れを認めること。
一つ．戦闘中損害を受けた結果、中立港に逃げ隠れしたり抑留させられたロシア軍艦をすべて合法の戦利品として日本に引き渡すこと。
一つ．ロシアは沿海州沿岸におけるロシア領土の沿岸、港湾、入江、河川において漁業権を日本国民に許与すること。　

　これは、奉天会戦で敗北し、撤退する第二軍を追撃するロシア軍に対して、乃木大将の第三軍が抜刀突撃を含めて、側面攻撃で勝利することに成功しました。樺太方面軍が、明治３７年３月(1905年3月)樺太の全島制圧を成功させ、ニコラエフスクへの上陸行動をとっていたことにありました。ロシア帝国としては、ニコラエフスクを失うことは許されず、日本軍の撤退を求めていました。ニコラエフスクからの撤退と引き換えに樺太を獲得し、満洲におけるロシア権益を全面的に認めることで、樺太占領を達成したことになります。

　満洲の権益を全面的に認めること、朝鮮に対する日本の権益を認めることで、日露がなんとか合意した結果が、ポーツマス条約ということになります。

　後藤新平は、遼東半島の大連には、陸軍工廠、海軍工廠の建設と共に、工兵学校、工兵大学校を設立し、国営による鉄道都市開発を実施できる大陸局を鉄道院に設置したのである。大連から遼陽、奉天までの路線を敷設し、そのまま奉天でロシア帝国鉄道に接続する。そのためには、鉄道の規格をロシアに合わせる必要がある。

　５フィート広軌道用の汽車、客車、貨車の開発を含めて、大陸で可能となるように、開発体制を整えていったのである。

「後藤君。日本が、ロシア鉄道に合わせるという事かね」

「桂首相、ここで日本が合わせれば、日本の列車は、満洲だけでなく、欧州まで乗り入れることも可能です。今ここで決断しなければ、日本は、広軌レールへの大陸での移行ができなくなります」

「広軌レールについて、鉄道院はなんと言っている」

「国内でなく、大陸でのことであれば、了承すると」

「国内を狭軌レールとして、大陸はロシア式の５フィート広軌とするか」

「はい、広軌と狭軌の論争は、国内に留めることができます」

「せっかくロシアに鉄道を合わせるのだ、もう一度、ロシア帝国と再戦する時は、モスクワまでを行動圏内にできるよう、支援体制を確立できるように頼む」

「首相ッ。了解しました」

　こうして、満洲鉄道都市警備局の前身となる、鉄道院大陸局が設立されたのである。