琉球お爺いの綺談

Ittoh

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頼光四天王筆頭、綱

頼光四天王筆頭、渡辺綱 あやかしと共に暮らすは、苦難の道なり。

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 葛葉、平安期に日本最高の陰陽師と呼ばれた、安倍晴明が母である。

 人を母とすれば、人なり。
 あやかしひとならざるものを母とすれば、あやかしひとならざるものなり。

 これは、延喜の律令を改訂するにあたって、定められた御法であった。

 安倍保名は、人に化生した葛葉を抱いて子を為した。生まれた子を人として育てた。

 「人形浄瑠璃」「歌舞伎」の中に、「葛ノ葉」という演目に伝えられる。化生した姿を知られぬために、信太の森へと還っていくことになる。夕鶴などにも伝わる、あやかしひとならざるものによる、恩返し噺のひとつである。

 平安後期に入ると、律令が崩れて、武士が生まれて、徐々に国内の乱れが拡がっていた時期でもあった。あやかしひとならざるもの征伐やあやかしひとならざるものとの悲恋噺が増えるのも、この時期である。これは、「公地公民」を基盤とした確立された体制に対し、「まつろわぬ民」の存在は征伐の対象となっていた。武士の登場によって「征伐」という形で、「まつろわぬ民」の土地を奪う戦乱の始まりであり、誰のモノでも無い地に、墾田を拡げて支配する時代の始まりでもあった。日ノ本では、アメリカ大陸で言う、虐殺者Conquistadors西部開拓インディアン虐殺が起きたのが、平安期ということになる。

 国家による大規模土木工事は、終焉を迎えて、新たな墾田は築けなくなった。しかしながら、国司の許認可を受けた者達による、小規模な土木治水事業による墾田開拓が、日本各地で無数に開始されたのである。これが、武士を生み出し、武家の始まりとなった。
 この小規模治水事業や墾田開拓を巡って、あやかしひとならざるものとの対立が発生し、酒呑童子の征伐や土蜘蛛退治などが生まれるのである。

 征伐され、狩りだされ、あやかしひとならざるものは、山奥や都市の闇スラムに追われていくこととなる。実質的に実行された虐殺は、小規模であったが、平安期に始まり鎌倉・室町・織豊・江戸と、あやかしひとならざるもの達が徐々に追われて、行き場を失っていくのが、史実の流れとなっている。刃向かえば、征伐されて、従えば使役され、使い潰される。ときに恋愛沙汰となっても、悲劇を彩る形として、伝承される伽噺となる。





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 史実では、「この時、歴史は動いた」ということになる。
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 ifでは、この時、歴史は動かなかった」となる。

 源頼光と四天王は、あやかしひとならざるものから見た、虐殺者Conquistadorsの象徴であり、安倍清明は自分の出自を偽った、裏切り者ということになる。

「人は、怖いのかな。妲己は、酒池肉林を開いたってあるけど、本当はどうだったのかな」

 綱が不思議そうに聞いてきた。

わらはは、あやかしひとならざるもの故、良くは判らぬが、人は自分と異なるモノを嫌うようじゃ」

「自分と異なるモノ」

「秦の娘は、人じゃが金色の髪と碧き瞳故に、京洛の貴族に嫁げなんだのであろう」

 秦国照の娘、凛は、外ツ国から逃れて、日ノ本にたどり着いた一族の娘であり、金髪碧眼で生まれたことで、差別を受けていた。日ノ本の差別は、本質として、異なるモノへのイジメに始まる。異なる者との軋轢を避けるために、日ノ本では、職を異にして、住まいを異にして、目に触れぬ立場とすることで、軋轢を防ぐという方法をとっていた。

 あやかしひとならざるものは、見目が異なり、獣の姿をするなど、人語を解し話すだけで、異質なモノへの恐さということになる。日ノ本での形として、職を異とし、住まいを異にして、町を形作ることで軋轢を避ける方法としていた。京洛では、稲荷衆は、基本的に鴨川の東を住処として、伏見の御山を神域としていた。稲荷衆以外のあやかしひとならざるものは、桂川の西を住まいとして、嵐山を神域としていたのである。

 日ノ本では、住処が異なれば、目に見えないから構わない。そんな風潮というのが、古来より伝わって、異なるモノが暮らす場所を、自分の住む場所と変えることで、軋轢を必要以上に生じさせないという対応となる。京洛の貴族衆は、あやかしひとならざるものを嫌う者が多いことから、稲荷狐、鷺衆以外のあやかしひとならざるものが、京洛に入ることを原則として禁止していた。貴族の館から、樋箱を回収する、桂川のカワラモノは、人の仕事でもあったが、人の姿をしたあやかしひとならざるものも仕事としていた。

「俺は、凛も好きだよ」

「綱は、おなごは皆好きなのではないか」

「そ、そんなことない。そりゃぁ、色々な相手が居たけど、葛葉や凛と一緒に居るのは好きだし、茨城や玲は放したくないよ。茜や柊たちだって、傍に居てくれると嬉しいモノ」

「ほほほ。嬉しいことを言うてくれる、のぉ、柊」

 斎宮寮から派遣された、柊は、伊勢斎宮院より派遣された、狢衆のひとりであった。傍らに控えていた。

「はい。葛葉様。覚えてもらっていて、嬉しゅぅございます」

 主上おかみの皇女は、臣下へ降嫁すると、皇族から人となる。斎宮となれば、皇族のままであるが、臣籍降嫁となれば、人に戻ってしまう。斎宮に仕える司家を皇族の血を引く宮家に准じて扱う形となっていた。斎宮院の当主は、主上おかみ皇女ひめみこの地位であり、日ノ本における祭祀の司でもあった。政治にかかわることなく、祭祀の司として、主上おかみの権威擁護を存在意義としていた。

 司家の眷属しんしである貉衆は、皇族彦坐王ひこいますのおおきみを父とする一族であり、神功天皇を母とするあやかしひとならざるもの一族でもあった。

 斎宮が男子を為せば、司家の嫡子として司となり、斎宮が娘を為せば、斎宮の巫女となり、次代の斎宮候補となる。つまりは、斎宮院家は、主上おかみより斎宮を迎えて家を為す、宮家のひとつとなった。斎宮院家から主上おかみの寝殿へとあがることもあった。斎宮院家は、古来から建てられた、伊勢斎宮院家だけでなく、平安期に建てられた賀茂斎宮院家の二家であり、正式には、伊勢斎宮家と賀茂斎院家である。寄進系荘園が生まれる中で、田圃ではない商工鉱業の利権については、皇族や斎宮院家に寄進されることが多かった。葦や萱の生産販売は、賀茂斎院の預かりとして、寄進されていた。麻や木綿の生産販売については、伊勢斎宮の預かりとして、寄進されていた。薬樹についても、賀茂斎院の預かりとなったことで、斎宮院家の資産は、皇族の財政基盤ともなっていた。

 武家にとって、斎宮院へ寄進することは、主上おかみへ直接寄進でもあった。さらに言えば、中央政治に関わり無い、地方武家にとっては、面倒な中央政治に関わらない宣言にも使うことができたのである。

 お爺ぃifの中では、幾つかの分岐点が、ifが発生している。ifの中でのifである。

 根幹で、ifとして変更されていないのが、斎宮院家の成立と確立である。現在で言えば、平安期に女性宮家を斎宮院の形で確立する、そんな歴史ifとなっている。

 明治以降から天皇家の歴代を辿る場合、非常に厄介なのが、道鏡問題が起きた孝謙天皇の扱い、神功皇后を皇后とした扱いである。おそらくは、神功陛下であり、夫が仲哀皇であったと思われるが、現行法では立場が逆転している。正直に言えば、女性天皇を認めても、女性天皇の配偶者が存在することを認められなかったというのが、明治以降の短い歴史の流れなのであろう。

 ifとは、女性天皇は認められても、女性天皇の配偶者を認められない。結果としては、歴代を辿る形が、この百五十年ほどで変化していったということになる。
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