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駿ちゃんは神様の子だ。
いや、僕にとって駿ちゃんは神様だ。
僕は心の底からそう思っている。
駿ちゃんは特別な人だ。
駿ちゃん自身も、特別でいるための努力をいつも怠らない。
どんなに難しいことでも、駿ちゃんは出来ると言ったら必ず達成して見せた。
隣にいる僕がすべきことは、駿ちゃんを信じてついて行くこと。
そうすれば駿ちゃんはいつもちゃんと待っていてくれる。
僕は、僕を待っている駿ちゃんを迎えにいけば、それでよかった。
何も分かっていない奴らは、駿ちゃんのすばらしさを知らない。
「おまえにA大は無理だって、言ってやるのが親切じゃね?なぁ蓮、教えてやれよ、あいつに。」
ある日、クラスメイトの1人が、駿ちゃんを蔑むように言った。
「わざわざ僕がそんなことする必要ないよ。」
僕がそう言うと、何も分かっていない奴らはケラケラ笑った。
僕は腰かけていた机からひょいと降りて、そいつの目の前まで行き、見下ろした。
意地悪を言うしかできない哀れな奴は、まだ下らないことを言い続けている。
口がパクパク動く様が、まるで必死に餌をねだる鯉のようだった。
つまらなくて、低俗で、駿ちゃんには相応しくない。
「僕がわざわざそんなこと言わなくたって、駿ちゃんは自分で努力して、自分で結果を勝ち取るよ。小さい頃からいつもそうなんだ。」
その結果の先に、僕が迎えに行けばいい。
「何も知らないのに、適当なこと言わないでね。」
僕がそう静かに言うと、池の鯉たちは、顔を青くしたまま何も言わなかった。
夏休み以降、駿ちゃんは図書委員の仕事も、バイトも減らして勉強に集中していた。
もちろん僕も遊んでもらえず、駿ちゃんとしようと思っていた花火も出来なかった。
少し寂しかったけど、高校受験のときも似たような感じだったから、我慢した。
奮発して買った花火セットは来年駿ちゃんと一緒に使えばいい。
駿ちゃんと同じ大学に合格したら、春からもまた一緒にいられる。
そう考えるとすごく幸せな気持ちになった。
僕たちの地元からA大は通学圏内とは言え、片道1時間程度は掛かる。
僕がA大近くで1人暮らしをすれば、駿ちゃんが遊びに来てくれるかもしれない。
そう考えて物件までさがした。
そうして僕たちは受験を終え、卒業式がやってきた。
駿ちゃんは第一志望に合格したって言っていたし、僕も当然合格した。
プレゼントや手紙を渡そうとやってくる後輩や、大して仲良くもないのに写真をねだる同級生が煩わしかったけど、これからの生活を思えば、全然平気だった。
式を終えてさっさと帰ろうとする駿ちゃんをやっと見つけて声をかける。
「駿ちゃん、もう帰るの?」
駿ちゃんは手紙も花束も持っていない。
今日の朝、受付で配られた造花が胸に付いているだけだ。
「お前と違って俺は暇じゃないんだよ。」
僕が皆に囲まれていると、駿ちゃんは時々寂しそうな顔をする。
僕はそれがたまらなく好きだった。
強がりな駿ちゃんの、柔らかい部分に触れているような気持ちになった。
僕が大して興味のない人間と友人付き合いをしているのは、それが理由だ。
「わかったよ、駿ちゃん。またね。」
僕はとても浮かれていた。
駿ちゃんと一緒に過ごす時間がこれから無限に続いていくのだと思っていた。
卒業式の翌日、僕は早速駿ちゃんにメッセージを送った。
4月から通う予定の大学の近くに遊びに行こうと誘うものだ。
遊びに行ったついでに、僕が一人暮らしをする予定の部屋に駿ちゃんを招待するつもりだった。
でも、僕の送ったメッセージには、いつまで経っても既読が付かなかった。
これまでもこういうことはたまにあった。あまりしつこくメッセージを送っても駿ちゃんの機嫌を損ねるので、少し様子を見ることにした。
その時の僕はとても楽観的で、何の心配もしていなかった。
駿ちゃんからの返信を待つ間、バスケ部の仲間と出掛けたりもしたけど、ずっと上の空だった。駿ちゃんが僕の連絡を無視するのは初めてじゃないのに、今回は何か違う気がした。
駿ちゃんにメッセージを送ってから3日後、とうとう我慢できなくなった僕は、駿ちゃんの家に突撃した。
駿ちゃんはお父さんが小さい頃に亡くなり、お母さんがずっとフルタイムで働いている。
昔から鍵っ子の駿ちゃんの家には、幼馴染の僕でも遊びに行ったことは数えるほどしかない。
オートロックの無い、古いマンションの3階。
緊張しながらインターホンを押すと、駿ちゃんのお母さんが出てくれた。
「あら、蓮君。どうしたの?」
駿ちゃんのお母さんは小柄な人で、とても可愛い。
駿ちゃんはお母さんによく似ている。
「あの…駿ちゃんに会いたくて。」
「え?駿なら、一昨日出発したわよ?」
言葉の意味が分からず混乱する僕に、駿ちゃんのお母さんは続けた。
「第一志望だったB大学に合格したから、一昨日の夜、夜行バスで。新幹線を使えばいいのに、聞かなくって。」
「…駿ちゃんの志望校はA大ですよね、」
「最初はA大を目指していたんだけど、私に負担を掛けないように無理して頑張っていたみたいで…。浪人は絶対したくないって本人が言うから、話し合って夏ごろにB大に決めたの。駿の勉強したい学部もあるし、先生も、努力すれば十分合格できるだろうって仰って。」
下宿先も勝手に見つけてきて、本当にしっかりしているから親になにもさせてくれないの、と駿ちゃんのお母さんは嬉しそうだった。
僕は、そうですか、と力なく笑うしかできなかった。
状況が上手く呑み込めない。
スマホから駿ちゃんに何度も電話を掛ける。
とにかく今すぐ駿ちゃんの声が聞きたかった。
メッセージアプリの電話にはいつまでも出てくれない。
直接電話番号に掛けると、今度は現在使われていないというアナウンスが流れた。
僕の神様は、僕を置いて突然消えてしまった。
いや、僕にとって駿ちゃんは神様だ。
僕は心の底からそう思っている。
駿ちゃんは特別な人だ。
駿ちゃん自身も、特別でいるための努力をいつも怠らない。
どんなに難しいことでも、駿ちゃんは出来ると言ったら必ず達成して見せた。
隣にいる僕がすべきことは、駿ちゃんを信じてついて行くこと。
そうすれば駿ちゃんはいつもちゃんと待っていてくれる。
僕は、僕を待っている駿ちゃんを迎えにいけば、それでよかった。
何も分かっていない奴らは、駿ちゃんのすばらしさを知らない。
「おまえにA大は無理だって、言ってやるのが親切じゃね?なぁ蓮、教えてやれよ、あいつに。」
ある日、クラスメイトの1人が、駿ちゃんを蔑むように言った。
「わざわざ僕がそんなことする必要ないよ。」
僕がそう言うと、何も分かっていない奴らはケラケラ笑った。
僕は腰かけていた机からひょいと降りて、そいつの目の前まで行き、見下ろした。
意地悪を言うしかできない哀れな奴は、まだ下らないことを言い続けている。
口がパクパク動く様が、まるで必死に餌をねだる鯉のようだった。
つまらなくて、低俗で、駿ちゃんには相応しくない。
「僕がわざわざそんなこと言わなくたって、駿ちゃんは自分で努力して、自分で結果を勝ち取るよ。小さい頃からいつもそうなんだ。」
その結果の先に、僕が迎えに行けばいい。
「何も知らないのに、適当なこと言わないでね。」
僕がそう静かに言うと、池の鯉たちは、顔を青くしたまま何も言わなかった。
夏休み以降、駿ちゃんは図書委員の仕事も、バイトも減らして勉強に集中していた。
もちろん僕も遊んでもらえず、駿ちゃんとしようと思っていた花火も出来なかった。
少し寂しかったけど、高校受験のときも似たような感じだったから、我慢した。
奮発して買った花火セットは来年駿ちゃんと一緒に使えばいい。
駿ちゃんと同じ大学に合格したら、春からもまた一緒にいられる。
そう考えるとすごく幸せな気持ちになった。
僕たちの地元からA大は通学圏内とは言え、片道1時間程度は掛かる。
僕がA大近くで1人暮らしをすれば、駿ちゃんが遊びに来てくれるかもしれない。
そう考えて物件までさがした。
そうして僕たちは受験を終え、卒業式がやってきた。
駿ちゃんは第一志望に合格したって言っていたし、僕も当然合格した。
プレゼントや手紙を渡そうとやってくる後輩や、大して仲良くもないのに写真をねだる同級生が煩わしかったけど、これからの生活を思えば、全然平気だった。
式を終えてさっさと帰ろうとする駿ちゃんをやっと見つけて声をかける。
「駿ちゃん、もう帰るの?」
駿ちゃんは手紙も花束も持っていない。
今日の朝、受付で配られた造花が胸に付いているだけだ。
「お前と違って俺は暇じゃないんだよ。」
僕が皆に囲まれていると、駿ちゃんは時々寂しそうな顔をする。
僕はそれがたまらなく好きだった。
強がりな駿ちゃんの、柔らかい部分に触れているような気持ちになった。
僕が大して興味のない人間と友人付き合いをしているのは、それが理由だ。
「わかったよ、駿ちゃん。またね。」
僕はとても浮かれていた。
駿ちゃんと一緒に過ごす時間がこれから無限に続いていくのだと思っていた。
卒業式の翌日、僕は早速駿ちゃんにメッセージを送った。
4月から通う予定の大学の近くに遊びに行こうと誘うものだ。
遊びに行ったついでに、僕が一人暮らしをする予定の部屋に駿ちゃんを招待するつもりだった。
でも、僕の送ったメッセージには、いつまで経っても既読が付かなかった。
これまでもこういうことはたまにあった。あまりしつこくメッセージを送っても駿ちゃんの機嫌を損ねるので、少し様子を見ることにした。
その時の僕はとても楽観的で、何の心配もしていなかった。
駿ちゃんからの返信を待つ間、バスケ部の仲間と出掛けたりもしたけど、ずっと上の空だった。駿ちゃんが僕の連絡を無視するのは初めてじゃないのに、今回は何か違う気がした。
駿ちゃんにメッセージを送ってから3日後、とうとう我慢できなくなった僕は、駿ちゃんの家に突撃した。
駿ちゃんはお父さんが小さい頃に亡くなり、お母さんがずっとフルタイムで働いている。
昔から鍵っ子の駿ちゃんの家には、幼馴染の僕でも遊びに行ったことは数えるほどしかない。
オートロックの無い、古いマンションの3階。
緊張しながらインターホンを押すと、駿ちゃんのお母さんが出てくれた。
「あら、蓮君。どうしたの?」
駿ちゃんのお母さんは小柄な人で、とても可愛い。
駿ちゃんはお母さんによく似ている。
「あの…駿ちゃんに会いたくて。」
「え?駿なら、一昨日出発したわよ?」
言葉の意味が分からず混乱する僕に、駿ちゃんのお母さんは続けた。
「第一志望だったB大学に合格したから、一昨日の夜、夜行バスで。新幹線を使えばいいのに、聞かなくって。」
「…駿ちゃんの志望校はA大ですよね、」
「最初はA大を目指していたんだけど、私に負担を掛けないように無理して頑張っていたみたいで…。浪人は絶対したくないって本人が言うから、話し合って夏ごろにB大に決めたの。駿の勉強したい学部もあるし、先生も、努力すれば十分合格できるだろうって仰って。」
下宿先も勝手に見つけてきて、本当にしっかりしているから親になにもさせてくれないの、と駿ちゃんのお母さんは嬉しそうだった。
僕は、そうですか、と力なく笑うしかできなかった。
状況が上手く呑み込めない。
スマホから駿ちゃんに何度も電話を掛ける。
とにかく今すぐ駿ちゃんの声が聞きたかった。
メッセージアプリの電話にはいつまでも出てくれない。
直接電話番号に掛けると、今度は現在使われていないというアナウンスが流れた。
僕の神様は、僕を置いて突然消えてしまった。
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