僕が迎えに行くまで待ってて

伏見うづら

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一晩中泣いたら、頭は妙にすっきりしていた。

冷静になって考えてみれば、別に落ち込むようなことではない。

俺が勝手に勘違いをしていただけだ。
意地を張って、特別な存在であり続けようと、藻掻いていただけだ。
とっくにメッキは剥げていたのに、俺の滑稽な一人芝居に蓮が付き合ってくれていただけだ。

ふぅ、と息を小さく吸う。また、ふぅと小さく息を吐いて、呼吸を整える。
身体の中の空気を入れ替える。
油断するとまた泣きたくなるけど、泣いている場合じゃない。
ぐしゃぐしゃに丸められて転がっている心を拾って、またゆっくり伸ばしていく。
俺は今から長い、長い勘違いのツケを払わないといけない。


仕事が休みで家にいる母さんに、意を決して進路のことを相談した。

「母さんごめん。俺、A大合格は、厳しいみたい。」

母さんの顔が見られなくて、膝の上に置いた手が小さく震える。
それ以上の言葉が出てこなくて、言い訳も上手く出来ない。

「大丈夫よ、駿。」

母さんは俺をぎゅ、と抱きしめた。

「私が頼りないせいで、相談できなかったよね。」

「違う、母さんは悪くないよ。俺が意地を張っていただけで、」

泣くのはみっともないのに、涙が勝手に溢れて、視界が滲む。

「できないことがあってもいいの。頑張れないことがあってもいいの。それでも駿は私とお父さんの自慢の息子なんだから。」

いい歳したおばさんと、高校生の息子は抱き合ってわんわん泣いた。

予備校の夏期講習の月謝をバイト代から出すと言ったら母さんに叱られた。

「私だって、それなりにちゃんと稼いでいるんだから、それは駿が自分のために使いなさい。」

俺が小さい頃に父さんが亡くなって、それから母さんは休みなく働いていた。
負担になりたくなくてやっていた俺のやせ我慢は、却って心配を掛けていたことに初めて気付いた。
これから受験まではバイトを減らして勉強に集中することにした。
母さんは必要なら小遣いを上げるからバイトを辞めるのを勧めたけど、それは俺が拒否した。
バイト先でそれなりに頼りにされているし、やっぱり大学進学に向けて多少は自分で貯めておきたかった。

こんなに簡単なことなら、もっと早くにちゃんと母さんと話していれば良かった。
そう思えるぐらいだった。


蓮との関係は相変わらずだった。

あの日、勝手に先に帰ったことに対して、蓮は不満げだった。
なるべくいつも通りのテンションで、図書室に迎えに来ないお前が悪い、と突っぱねた。

俺は蓮の前ではなんでもないように振舞った。
これまで通り、高飛車で、自信満々な態度で。
保育園から今日まで、俺はこれでやってきたから、今更態度を変えるのも変だ。

俺が勝手に始めたことだから、蓮を責める気持ちは少しも無い。
ちゃんと俺が自覚していれば、それで良い。

俺が蓮に図書委員の当番の日を伝えなくなると、一緒に帰る機会は緩やかに減っていった。

友達が多い蓮にとっては、俺が1人減ったところで大して影響はない。
俺の方はと言うと、本当に1人になってしまった。

蓮はたまに何か言いたげな様子だったが、受験が近いから勉強に集中している、と言えば、それ以上は何も言ってこなかった。


そうして時が流れて、俺は無事に受験を終え、志望校へ合格した。

卒業式を終えて、帰ろうとしたところを蓮に呼び止められた。

「駿ちゃん、もう帰るの?」

蓮は両手に花束やら手紙が入った大きな紙袋を持っていた。
いつもの起きたままみたいな無造作ヘアーではなく、今日は髪を後ろに撫でつけている。
悔しいけど男前だ。

「お前とちがって俺は暇じゃないんだよ。」

暇なのは俺の方だ。
人気者の蓮は、この後部活やクラスの集まりがあるだろう。
でも、それでちょうど良い。

「わかったよ、駿ちゃん。またね。」

駿は心底嬉しそうに笑っていた。

俺は、おう、またな、と手を振って学校を後にした。

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