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誕生日①
しおりを挟む私、おかしい。
「好きだ。ずっとナナが好きだ」
何をしてても、勇磨の声が頭の中に
何回も響いて消えない。
「おはよー」
長い坂道でチカに会った。
「チカ、おはよー久しぶりだね」
チカは相変わらずだ。
「ナナミ、風邪ひいてたんだってね。
昨日、部活休みだったからさ、
一緒に帰ろうと思ったのに」
にっこり笑う。
「うん。でも、たまの部活休みは、
中井くんとデートなんじゃないの?」
チカの脇腹をつついてからかう。
爆笑しながらチカも応戦する。
「やめてーもうっ!違うの。
あのね、来週、中井くんの誕生日なの。
プレゼント選び、付き合ってもらいたくてさー」
きゃー
付き合って初めての誕生日かぁ
「初めての誕生日かぁ、いいなぁ。
そっか、彼氏のプレゼント選びかー。
きゅんきゅんする」
そう言ってはしゃく私の背中から声がした。
「じゃあ俺の誕生日、祝ってよ」
すぐに分かってドキドキする。
勇磨!
ちょっと顔を見れない。
「おはよう、えっと、ナナの友達の今井チカだよね。
俺、ナナの彼氏に立候補しちゃった」
ふーん、と含み笑いで私を見るチカ
「アイドルのあなたが何でナナミ?」
ちょっと意地悪な聞き方をするチカ
「でも、ナナちゃんの中で俺は、
アイドルじゃなくて自己満足のナルシスト男なんだって。
あと何だっけ?
中2病で意地悪でウザくて臭くて陰気野郎だっけ?」
根に持ってる。
小さい男!
「でも、ナナミには好きな人いるんじゃない?」
チカも煽る。
どーした、チカ!
「知ってる、ツバサだろ。」
慌てて、チカに説明した。
「違うの、チカ、あのね。
私、ツバサくんには振られたの、昨日」
チカはもの凄く驚いて、私の両手を握った。
「言えたの?好きって!おめでとう」
そう言って抱きしめてくれた。
うん、うん、ありがとう。
横で勇磨も笑ってる。
「ずっと好きだったもんね、中1から。
やっと言えたんだね。ここからまた始められるね。
よしっ、工藤くん。認める!ナナミを落とせ!」
ケタケタ笑って走って行った。
横で勇磨はガッツポーズしてる。
いつも通りの勇磨だ。
「やった!親友のOKも出たな」
本人のOKが出てないっつうの!
「勇磨の誕生日っていつなの?」
なんとなく気になって聞いてみた。
お世話になってるし、
近いなら何かお返ししたいなって。
「うん?俺?先月。」
え?終わってる!
爆笑する私に呆れ顔で勇磨は続けた。
「ナナって俺に全然興味ないな、悲しいよ。」
後から気が付いた事だけど、
ちょうど1ヶ月くらい前にユーマーズが騒いでた、生誕祭って!
あれってどこかの文化祭かと思ってたけど、
勇磨の誕生日だったんだ。
バカバカしい!
何が生誕祭だ!
「来年の俺の誕生日はさ、彼女として祝ってね」
そう言って笑う。
またドキドキする。
なんか調子狂うなー。
「そういえばさ、ナナの誕生日っていつなの?」
そっちだって私に興味ないじゃん!
そう言う私に勇磨は反論する。
「は?男の興味は女と違うの。」
どう違うんだか。
「いつ?」
このタイミングで言いたくない。
だって、なんか言いにくい。
来週なんて。
言えない、絶対。
祝って!って言ってるみたいだし。
「私も先月」
片眉を上げて私を見る。
「ふーん。じゃあ、来年は2人一緒に祝うか」
来年の話を嬉しそうにしてる勇磨を見て、
ふと、本当に来年は2人で祝ってるかもなって思った。
定期テスト1週間前という事もあり、
あっという間に時間が過ぎた。
私も毎日遅くまで勉強した。
勇磨の得意な数学を放課後教えてもらったりした。
勇磨って勉強もできる!
なんかないのかなー欠点。
あ、性格か!
ツバサくんからは、あれから1回も連絡ない。
当たり前だよね。
でもそれでいい。
好きな気持ちは簡単には消えないから、
好きなまま時が過ぎるのを待つしかない。
テスト最終日、開放感と共に教室を出た。
「ナナミ!誕生日おめでとー」
振り返るとチカと中井くんがいた。
「きゃーチカ!中井くん!ありがとう」
2人にペシペシ叩かれて、
プレゼントまで貰っちゃった。
「誕生日動画も作っちゃった」
そう言ってチカちゃんお手製の
動画のプレゼントもしてくれた。
「後で見てね」
そう言って手を繋いで帰って行く2人の後ろ姿が、惚れ惚れするくらいお似合いで、羨ましくもあった。
「木下さん」
また呼ばれて振り返ると、
今度は南さんだった。
ちょっと緊張が走る。
また何か?
「ちょっと、何警戒してるの?失礼ね。
木下さん今日、誕生日でしょ。おめでとう。」
そう言って南さんは紙袋を差し出した。
え?え?プレゼント?
嘘!
驚いて手を出せずにいる私に、
天使のような微笑みを見せた。
「今日くらい停戦。単純におめでとう」
えー!
嬉しい!
「ありがとう、南さん!いい人!」
そう言って受け取った。
「何、何?」
と包みを開けた途端、大絶叫した!
箱の中から溢れるようにヘビや虫が!
後から後から溢れる
「うわぁー!!」
廊下に響き渡る絶叫に、
隠れていたユーマーズも出てきて大爆笑する。
「バーカ!誰が祝うか!
あんたが私達の下駄箱に入れたオモチャ、
返しただけなんだから恨まないでよね。」
あー言われて気がつく。
これ、私の用意したオモチャの虫か。
やられた。
悔しい!
一瞬でも信じた!
慌ててオモチャを掻き集めファンクラブを追ったけど、とっくにどこかへ行っちゃってた。
あームカつく!
「おいっ」
その声の主はすぐに分かった。
「勇磨」
ちょっと怒ってる。
「何が先月だよ!ナナの誕生日、今日だろ。
なんで嘘つくの?そんなに俺に祝われたくないの?」
本気だか冗談だか分からない表情。
「だって」
そう言ってうつむく私の前に座り込み、
下から顔を覗き込む。
帰宅時間の廊下で目立つのか、
周りがザワザワし始め
中には悲鳴をあげて私達を見守る女子もいる。
「だって、何?」
何も言えないでいる私の両手を引っ張り、
自分の前に座らせる。
更にザワつき悲鳴も響く。
「あーうるせーなー、ちょっと来い」
そう言って勇磨は私の手を引っ張り走り出した。
キャーキャー騒ぐ中に私への罵声も加わる。
そのまま部室棟前に連れてこられた。
「勇磨、痛いって」
あわてて手を離す勇磨
「勇磨、ごめん。言えなかったんだよ。
だって、あのタイミングで来週って言える?
恥ずかしいじゃん」
全く意味が分からないように首を傾げる
「誕生日言うのにタイミングとかあるの?」
いや、ないけどさー。
分かってよー
「ごめん」
謝るしかない。
「悪いと思うなら今日1日つきあえ」
ちょっと睨むように私を見る。
「私はいいけど、勇磨、部活は?」
ちょうど、バスケ部の先輩達が通りかかった。
「いいとこに来た!センパーイ!
俺、今日彼女、落とすんで休みます」
そう叫ぶ勇磨!
また周りの女子がざわつく。
またファンクラブにボコられるなー。
先輩達に揉みくちゃにされながら激励され勇磨が戻ってきた。
「さぁ行こうか。」
私に好きって言ってくれた日から、勇磨は学校でも距離が近い。
周りの目を気にせず私に触れる。
勇磨が私を好きだって聞こえるように言うから、ファンクラブの嫌がらせも深刻なのはなくなった。
でも、これでこのまま流されていいのかな。
もうすぐ夏休み。
夏休みも勇磨と過ごすのだろうか。
「ナナ、どうした?」
勇磨の真っ直ぐな瞳が私を捉える。
「ううん、なんでもないよ、どこ行くの?」
ちょっと悲しい表情をした勇磨。
でもすぐににっこり笑う。
「内緒」
かわいい!
いっか、流されても。
ワクワクしている自分にも少し驚いてた。
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