最初のものがたり

特別編 プロローグ（勇磨sideーアオハル）11

「だから何？俺といるとケガするぜ的な？」

茶化しながら俺を煽る。

乗せられて感情的になったら負けだと分かっていた。
早く木下を黙らせて安全に収めたい。
だけど、木下に出まかせは効かない。
真意を伝えるしかない。

伝えて分かってもらうしかない。

「手首やられたの知ってた。俺が木下といたからだ。
だからもう木下とは関わらない」

頼む、俺の事はほっとけ。

木下は俺の話を黙って聞いていた。

一瞬、表情が和らいだから、分かってくれたと思った。

だけど、次の瞬間、
木下はまた、キレた。

ギャラリーに睨みを効かせ威嚇する。

「私は私が友達になりたい人と仲良くするの！
私が決めたんだよ！
男とか女とか関係ないの。
モテるとかも関係ないっ。
それで嫌がらせをされるなら、戦う。
せっかくいい奴かもしれないって思ったのに。
なんで自由に友達になれないの？間違ってるよね。
そんな間違ってる人達のいいなりになんかなりたくない。
私は勇磨の気持ちが知りたい。
私の事もいじめっ子の事も考えずに、自分がどうしたいか。それで決めて。」

間違ってる‥？

俺がどうしたいか‥。

俺は‥。
でも、それだと木下は‥。

俺をまっすぐに見つめる木下を見た。
木下は本気だ。
本気で自分の信念を俺にぶつけてきている。

俺は間違えていたのか？

逃げても解決しないのだけは分かった。

たぶん、言いくるめても木下は何度もぶち当たってくる。

俺だって思ってたんだ。
男とか女とか関係なく、おもしろい奴と一緒にいたい。

だけど、いつの間にか壁を作り、適当にやり過ごしていた。
相手を知ったところで面倒な事が外野から来るから、知る必要なんてないと。

だけど、木下は最初から俺の中身を見てる。
それはきっと誰に対してもなんだ。
自分の目で見て、それを信じて行動してる。

「お前、変わってんな。いいんだな。本当に。
ツライ思いするかもしれないんだぞ」

ああ、その表情。
また俺を中2病だと思ってんな。

バカにしやがって。

「私、結構強いし、性格も悪いんだ。
心の中は悪口だらけだし、ちなみにあの3人のいじめっ子は体育倉庫に半日閉じ込めたし。
やられっぱなしにはしない。」

思わず吹き出した。

なんだ、コイツ、すげぇな

俺は木下を拒否する事で守った気になってた。
そりゃら勘違い男って言われるわけだ。

笑いが止まらない。
おもしれぇな、この女。

木下とこのまま友達でいられるのか。

そうだな、木下なら嫌味も嫌がらせも跳ね返すかもしれないな。

だけど、俺も木下と友達でいたいと、今はっきりと気がついたから、俺は木下を守る。

余計なお世話だと笑うだろうけど、
それは譲れない。

目の前の木下はギャラリーから嫌味を言われ
「うるさいっ散って」と威嚇しまくっている。

マジでおもしれー。

俺も腹をくくった。

俺達は友達だ。

「ヤベ、予鈴鳴っちゃう、急ごうぜ、ナナ」

俺だけ呼び捨てにされるのは納得いかない。

だけど、なんとなくナナミとは呼びづらく、
「ナナ」にした。

なんかだっせーなぁ。

でも仕方ないだろ、俺にとって初めての女の友達なんだ。

距離感が分からない。

いや、違うな。
もう「女」と区別する必要も構える必要もない。
ただの友達だ。

しばらくはグイグイくる、ナナに振り回されていればいい。

はぁ、ナナが隣に座った時から嫌な予感がしてたんだよな。

そう、うっとおしく思いながらも顔が綻んでいる事に気がつかないふりをした。