最初のものがたり

ナッツん

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特別編 プロローグ(勇磨sideーアオハル)10

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木下は俺が知っている女とは全く違った。

俺に媚ない。

それは大きい。
もちろん、俺を好きだと言う女ばかりではない。別の男が好きな奴は五万といるだろう。

だけど、そんな奴らも俺と関わりができたり、機会があると必ず媚びてくる。

他に決まった相手がいるにも関わらず、目つきや態度、雰囲気を出してくる。

だけど、木下にはそれがない。

俺をただの同級生として見て、俺の事をうっとおしいとウザイと嫌っている。

それなのに、バスケを教えてやると素直にお礼を言う。

普通だ。

普通のクラスメートの関係だ。
友達と呼んでもいい関係だと思っていたんだ。

そんな関係を女と持てるとは思わなかった。

だから、大事にしたかったんだ。
これからもずっと友達でいれると思った。

だけど、アイツは今、俺の目の前で泣いている。

俺がアイツと関わりを持ったせいで、恨まれて痛めつけられた。

あんなに練習していたシュートショーも、めちゃくちゃにされた。

何、期待してたんだ、俺に普通なんて無理だろ。

俺は何をされてもいい。
だけど、木下が俺のせいで泣いているのを見るのは辛い。

だから決めた。

もう木下とは関わらない。

俺は木下を避けた。
みんなに聞こえるように木下を拒否した。

これでもう、誰も木下を傷つけないだろうとそう思った。
俺だって別に、今まで通りでなんの影響もないんだ。

最初のうちは、想像通り、かなりしつこく、俺に話かけてきた木下だが、数日経つと諦めて俺を無視するようになった。

これでいい。

なんの影響もない。

平穏な日々に戻るだけだ。

なのに、おかしい。

なんで、アイツのことが気になるんだ。

何度も話しかけてきた時は困ったし、ウザイと思った。 

だけど、諦めておとなしくなったらなったで、そんな簡単にあきらめんなよ、とイラつく。

そんなイライラを隠せなくなり、態度にもで始めた頃、とうとう、木下がキレた。

「おはよう、勇磨」

登校するなり、大きな声で俺を威嚇した。
挨拶ではない、威嚇だ。

突然の事で焦ったが、すぐに周囲の様子が気になり無愛想を装って木下を睨みつけた。

やめろ、なんのつもりだ。

「ねぇ、おはようは?勇磨」
「私達は友達だよね、勇磨」

何度も俺の名を連呼する。
俺との朝練の話を聞こえるようにする。

教室中、いや、廊下の奴らや、隣のクラスの奴らも集まり、木下に視線が集中した。

俺を下の名で呼び捨てにし、俺と2人でいた事を知り、怒りや反感のオーラが木下に今、集中している。

咄嗟に木下を庇うように立ったが、その陰からアイツは自ら出てまた、俺の名を呼んだ。

まっすぐに俺を見つめる目は強く光り、一歩も引かない決意が見えた。

ダメだ、収まらない。

俺は木下の手を引き、人気のない場所まで走った。

頭にきた。
苛立った。
コイツは俺の親切を無駄にした。

黙って従えばいいのに。

これからどうするんだよ、また嫌がらせをされる。

今度は手首の捻挫では済まないかもしれない。

女の嫉妬は根が深い。

「木下、これ以上俺に近づくな。
また痛い思いするぞ、言っただろ。いいな」

頼む、聞き入れろ。

俺と友達になったって、お前にはメリットなんて1つもないんだよ。

むしろ、デメリットしかない。

だけど、木下は引かなかった。

集まってきたギャラリーにわざと見える位置で俺と向き合った。

俺の話を聞く気なんてないんだ、そう悟った。


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