最初のものがたり

ナッツん

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特別編 プロローグ(七海sideー現在)1

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「約束してくれないと今ここで力ずくでキスするよ、抵抗できないこと分からせてやる」

なんだ、それ。
乙女ゲームか。

私を大人しくさせる為の策だと分かっていた。
なのに、驚きと緊張と少しの期待で動けなかった。

少しの期待って‥
どうなるの?って思った。

また、キスされるって思った。

それはダメだ。
だって勇磨を男として好きではない。
友達だから。

勇磨は私を好きだと言ってくれるけど、でも
私はまだ失恋の途中だから。

なのに、あの時、咳き込まなければ、どうなっていたのか、考えてしまう。

ダメだ、忘れよう。

頭をブンブン振って両頬を叩き、気合を入れた。

今日は勇磨とあの感じ悪高校の練習試合だ。

この試合は1年生試合で各高校の交流会も兼ねている。

でも勇磨達にとってはここでどれだけ活躍できるかが、今後に大きく影響するらしい。

勇磨が熱弁していたけど、正直、何言ってるかは分からなかった。
でも熱くなれるものがあるって、羨ましい。

私は運動神経ゼロだし、かといって手先が器用とか音楽センスあるとかでもないし、部活や趣味に熱くなるなんて夢だから。

ツバサくんの野球も、チカのテニスも羨ましい。

勇磨、力を発揮できるといいな。

「応援にきてよ」

そう言われた事を思い出した。

応援かぁ‥。

いやぁ、無理だよな。
すごいギャラリーだもん。
まず、体育館に入れるか、って問題だ。

それに体育館に入れたところで、試合が見える位置まで行けるのだろうか。

考えただけでも面倒だ。

私が応援したところで勝つわけでもないしね、勝利の女神だったら良かったけど。

そんなどうでもいい事を考えながら、足は体育館へと向かっていた。

とりあえず確認するだけ。

天気がいい。
今日も暑いなぁ。

「あ、この間のちんちくりんだ」

体育館横の大きな桜の木の下に汐南の生徒が集まっていた。

その中の1人が私に気がつき騒いだ。

うわ、この前の外野だ。
めんどくさー。

無視して通り過ぎるか。
いや、Uターンだ。
ケンカを買うと勇磨にまた怒られる。

「ねぇ、無視?」

しつこく追いかけて来た。

外野は暇か。
試合できたんだろがっ。

イライラしてきた。

「ねぇねぇ、おい、無視すんなよ」

最後はキレて私の肩を掴んだ。

うっざ。
その手を払って睨みつけた。

「何?」

私のこの態度が相手を怒らせるって、そういえば言われたな。

「は?お前、生意気だな。工藤の女だからって調子に乗ってんの?」

吹き出した。
工藤の女って

「お前、何、笑って‥」

髪を掴まれた。
おでこに爪がくいこむ。

痛っ。

「おい、やめろ」

外野2が現れた。
あ、でも、この人は。

勇磨を友達じゃないと言い切った訳ありさんだ。

訳ありさん、名前、なんだっけ。

「なんだよ、尊‥」

私の髪を掴む外野1が、その手を剥がされて反論した。

あ、そうだ、尊だ。

「俺の友達がごめん」

尊くんが謝った。
あれ、この人、いい人なのか。

「坂田、お前も謝れ」

尊くんに促されて坂田が私を見た。

「ごめん」
渋々謝って戻って行った。

いやいや、許さないから。
謝らないで。
絶対に許さないから。

謝り逃げなんてズルイから目の前の尊くんに
思わずキレてあたった。

「無理、謝られても許せない。勇磨は女をたぶらかしたりしない。そんな奴じゃない。
しかも人の女を取るなんてそんな事する訳がない」

尊くんが私を見て鼻で笑った。

は?
何この既視感。

いい奴じゃないじゃん。
人を鼻で笑う奴、最悪。
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