最初のものがたり

ナッツん

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特別編 プロローグ(七海sideー現在)2

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「そう、思いたいよね、自分だけってさ。
彼女なら尚更。」

私に同情するような目をした。

「だけど、あいつはそういう奴なんだよ、残念だけど。」

それだけ言って背中を向けた。

は?
言い逃げ?

許されないんだけど。


「そういう奴って何?あなたは何をされたっていうの?」

背中がビクッとして動きが止まった。
そのまま静止画のような時間が流れた。

「アイツは‥」

そこまで言ってまた静止画。

ああ、私、この人苦手だ。
なんでも溜めまくる。
何かの主人公にでもなったつもりか。
どっかでカメラ回してるんですかって感じ。

イライラした。

「あー、もういい、もういい。言う気ないなら大丈夫。ほら、練習試合なんでしょ、早く行きな」

そう言ってもう無視してその場を去ろうと歩き出した。

「アイツと俺は親友だった。なのに、アイツは俺の好きな子に手を出した」

さっきよりも大きな声でそう言った。
ほら、できるのに、ウザイ。

「それはない。あなたの勘違いだよ」

言い切れる、勇磨はそんな事しない。

女嫌いとかそんな事の前に友達の好きな子に手を出す訳ない。
勇磨はそれだけは絶対にしない。
親友なら尚更だ。

「なんで、言い切れるの?勇磨の全てを知ってるって言える?たった数ヶ月過ごしただけで分かるの?」

分かる
そんなの、数ヶ月も過ごせば十分だ。

「分かるよ、ていうか、あなたは、本当に親友だったの?なんで親友を信じられないの?目の前で決定的な事があったとしても、何か理由があるんじゃないかって私なら思う。それを確認してからの、裏切り認定だよ、あなた、それをしたの?」

尊くんは黙り込んだ。
今度のは演技とか溜めとかじゃなく、本当に何かを考えているようだった。

「いや、でも、アイツは俺の目の前で、俺の好きな子を取ろうとした。」

自分を正当化しようとしてる。
あいまいな記憶をたどっているのが分かる。

「取ろうとしたって勇磨がそう言ったの?俺もその子が好きだからもらうよって」

言う訳がない。

「あなたが親友だったと思うなら、勇磨はきっとあなたを親友だと思ってる。信じてると思う。そんな勇磨が親友を悲しませる事をするとしたら、私が知ってる勇磨なら、答えは1つなんだけど」

私をじっと見る尊くんは、どこか言い当てられたような顔をしていた。

その顔でなんとなく分かった。

「ねぇ、尊くんさ、本当は分かってるよね、勇磨がなんでそんな事をしたのか、分かってて私に絡んでるよね、いったい、なんの意味がある訳?」

私の言葉に頭を抱えるようにしてその場に座り込んだ。 
 
「あー」

髪をくしゃくしゃにしている。

あれ、なんか、また既視感。
勇磨と同じだ。

なんだよ、やっぱり友達なんじゃん。

思わず吹き出してしまった。

突然笑い出した私に、驚きの表情を向けた。

「尊くん、勇磨にそっくり」

ムッとしながら、立ち上がって反論した。

「似てない、俺はそんなにイケメンじゃない」

その言葉に更に笑いがこみあげた。

褒めてんじゃん。
もう爆笑だ。

「なんだよ」
スネてる、その言い方や仕草も似てる。

「笑うなって、おいっ」

「ごめん、だってもうそっくり。」
ヤバイ、止まらない。

笑いすぎて涙を拭う私を、尊くんは不機嫌そうに見ていた。

そんな顔さえ、そっくりだ。


「ナナ!」
そう勇磨に声をかけられるまで、自力で止められないくらい笑った。
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