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特別編 プロローグ(七海sideー現在)3
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涙を拭いながら振り返ると、息を切らし、慌てた様子の勇磨が立っていた。
「勇磨、試合、もう始まるの?」
その問いには答えず、黙って私と尊くんとの間に立った。
尊くんに背を向け、私をじっと見る。
「なんで泣いてるの?コイツに何か言われた?」
あ、いや、笑いすぎただけなんだよね
そう言おうとしたのに急に目つきが変わり、
私の額あたりに触れた。
うん?なに?
何か、ついてる?
自分でも触ってみたけど何もなかった。
勇磨は私を背に隠すと尊くんと向き合った。
不穏な空気が2人の間に流れた。
「尊、ナナに何した?返答しだいじゃ、お前を許さない」
いや、だから笑ってただけなんだって。
勇磨の言葉に尊くんが静かに目を閉じて、そして口元だけ曲げて笑った。
うわ、ダメだ。
止めなきゃ。
でも、もうすでに2人の世界で私の声が届かなくなった。
「へぇ、勇磨がそんな事言うなんて、よっぽどその子が好きなんだな。」
勇磨も変な笑い方で応戦する。
「悪いか。お前らにナナの良さなんて分からなくていいんだよ。俺だけが知ってればいい」
「そんな事より、質問に答えろ。ナナに何をした、なんで泣かした?」
泣かされてないんだって。
聞いてよ、私の話。
「別に、ちょっと生意気だから、髪を掴んでやっただけ。俺の爪の跡、くっきりついてんな、笑える」
ばか、煽るなっ。
ケラケラ笑う尊くんに勇磨が拳を振りあげた。
だめ、勇磨。
必死に止めようとしたけど無理だった。
ダメだって、お願い。
ボスっと鈍い音がした。
その音に目を開けると、勇磨の手が尊くんの肩に乗っていた。
肩に強い音をたてて、手を置いたんだ。
尊くんが驚いて勇磨を見る。
「なんで殴らないだよ、そんなに怒るくらい大事な子を傷つけてられて、やり返さないのか。情けないな」
尊くんの言葉に勇磨が首を振る。
「尊がやったなら遠慮なんてしない。だけど、尊は俺が気に入らなかったとしても、自分より弱い奴に手を上げたりしないだろ。
誰がやった?誰がナナを泣かした?」
勇磨‥。
やっぱり、尊くんの事を信じてるんだ。
勇磨が尊くんの悲しむ事をする訳がない。
尊くんの誤解だったよ。
それを認めるしかない状況で、尊くんは、またしゃがみこんでうなだれた。
「勇磨」
私の声がようやく届き、勇磨が振り返った。
「これだよ、これ。この姿に笑ったの」
勇磨が怪訝な顔をする。
「だってこれ、勇磨とそっくりじゃん。友達じゃないなんて言って、仕草や行動が同じなんだもん、笑いすぎて涙が出たんだよ、泣いてない」
また笑いが込み上げてきた。
「似てない」
「似てない」
2人の声が重なった。
嘘でしょ、笑わせにきてるな、これ。
「やめろ、笑うな、ナナ」
ごめん、ごめん。
でも
「尊くん、勇磨とちゃんと話して。話した方がいい。」
「勇磨もちゃんと話した方がいいよ。言わないのがかっこいいとか、そんなの自己満足だから。好きなら好きってちゃんと言いなよ、ずっと親友だぞって」
途端に2人が笑い出した。
は?なんで。
「そっか、ずっともか。」
尊くんが立ち上がって勇磨をしっかりと見た。
「ごめん、勇磨。俺、意地張ってたんだ。
本当はあの時、俺を思っての事だったんだろ。あの後すぐに、振られたんだ。勇磨を釣りたかっただけなのに、俺と勇磨が絶交して、つまらないって、意味ないって」
うわ、なんて女。
そんな女の為に2人が絶交なんて‥ありえない。
「だけど、勇磨が話してくれない事も怒ってて。ちゃんと説明しろよって。だからしばらく絶交してすぐに仲直りしようと思ってだんだけど、時間が開くと、無理なんだな」
「勇磨、ごめん、疑って。ごめん、すぐに謝らなくて」
尊くんは、潔く頭を深く下げてしっかりと謝った。
勇磨ー。
良かったね。
勇磨の肩をバンバン叩いて労った。
ほら、次は勇磨の番だよ。
ちゃんといいな。
一瞬、私を睨んで黙らせてから口を開いた。
「俺も悪かった。尊。お前が傷つかない為にとか自己満足だった。お前なら俺が何もしなくても自分で乗り越えたはずだ。それを信じてやれずすまなかった。」
えらいぞー
勇磨。
ちゃんと謝れた。
また勇磨に目で威嚇された。
はい、もう黙ってます。
2人を残してそっとその場を離れた。
「勇磨、試合、もう始まるの?」
その問いには答えず、黙って私と尊くんとの間に立った。
尊くんに背を向け、私をじっと見る。
「なんで泣いてるの?コイツに何か言われた?」
あ、いや、笑いすぎただけなんだよね
そう言おうとしたのに急に目つきが変わり、
私の額あたりに触れた。
うん?なに?
何か、ついてる?
自分でも触ってみたけど何もなかった。
勇磨は私を背に隠すと尊くんと向き合った。
不穏な空気が2人の間に流れた。
「尊、ナナに何した?返答しだいじゃ、お前を許さない」
いや、だから笑ってただけなんだって。
勇磨の言葉に尊くんが静かに目を閉じて、そして口元だけ曲げて笑った。
うわ、ダメだ。
止めなきゃ。
でも、もうすでに2人の世界で私の声が届かなくなった。
「へぇ、勇磨がそんな事言うなんて、よっぽどその子が好きなんだな。」
勇磨も変な笑い方で応戦する。
「悪いか。お前らにナナの良さなんて分からなくていいんだよ。俺だけが知ってればいい」
「そんな事より、質問に答えろ。ナナに何をした、なんで泣かした?」
泣かされてないんだって。
聞いてよ、私の話。
「別に、ちょっと生意気だから、髪を掴んでやっただけ。俺の爪の跡、くっきりついてんな、笑える」
ばか、煽るなっ。
ケラケラ笑う尊くんに勇磨が拳を振りあげた。
だめ、勇磨。
必死に止めようとしたけど無理だった。
ダメだって、お願い。
ボスっと鈍い音がした。
その音に目を開けると、勇磨の手が尊くんの肩に乗っていた。
肩に強い音をたてて、手を置いたんだ。
尊くんが驚いて勇磨を見る。
「なんで殴らないだよ、そんなに怒るくらい大事な子を傷つけてられて、やり返さないのか。情けないな」
尊くんの言葉に勇磨が首を振る。
「尊がやったなら遠慮なんてしない。だけど、尊は俺が気に入らなかったとしても、自分より弱い奴に手を上げたりしないだろ。
誰がやった?誰がナナを泣かした?」
勇磨‥。
やっぱり、尊くんの事を信じてるんだ。
勇磨が尊くんの悲しむ事をする訳がない。
尊くんの誤解だったよ。
それを認めるしかない状況で、尊くんは、またしゃがみこんでうなだれた。
「勇磨」
私の声がようやく届き、勇磨が振り返った。
「これだよ、これ。この姿に笑ったの」
勇磨が怪訝な顔をする。
「だってこれ、勇磨とそっくりじゃん。友達じゃないなんて言って、仕草や行動が同じなんだもん、笑いすぎて涙が出たんだよ、泣いてない」
また笑いが込み上げてきた。
「似てない」
「似てない」
2人の声が重なった。
嘘でしょ、笑わせにきてるな、これ。
「やめろ、笑うな、ナナ」
ごめん、ごめん。
でも
「尊くん、勇磨とちゃんと話して。話した方がいい。」
「勇磨もちゃんと話した方がいいよ。言わないのがかっこいいとか、そんなの自己満足だから。好きなら好きってちゃんと言いなよ、ずっと親友だぞって」
途端に2人が笑い出した。
は?なんで。
「そっか、ずっともか。」
尊くんが立ち上がって勇磨をしっかりと見た。
「ごめん、勇磨。俺、意地張ってたんだ。
本当はあの時、俺を思っての事だったんだろ。あの後すぐに、振られたんだ。勇磨を釣りたかっただけなのに、俺と勇磨が絶交して、つまらないって、意味ないって」
うわ、なんて女。
そんな女の為に2人が絶交なんて‥ありえない。
「だけど、勇磨が話してくれない事も怒ってて。ちゃんと説明しろよって。だからしばらく絶交してすぐに仲直りしようと思ってだんだけど、時間が開くと、無理なんだな」
「勇磨、ごめん、疑って。ごめん、すぐに謝らなくて」
尊くんは、潔く頭を深く下げてしっかりと謝った。
勇磨ー。
良かったね。
勇磨の肩をバンバン叩いて労った。
ほら、次は勇磨の番だよ。
ちゃんといいな。
一瞬、私を睨んで黙らせてから口を開いた。
「俺も悪かった。尊。お前が傷つかない為にとか自己満足だった。お前なら俺が何もしなくても自分で乗り越えたはずだ。それを信じてやれずすまなかった。」
えらいぞー
勇磨。
ちゃんと謝れた。
また勇磨に目で威嚇された。
はい、もう黙ってます。
2人を残してそっとその場を離れた。
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