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大学時代

帰省

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僕は、定期的に例の彼に会っては心に開いた穴を埋めてもらっていた。
それはもう、何度も何度も…。

穴はとても満たされて気持ちが良かったが、清々しい気持ちには到底なれなかったが、それは気付かないフリをした。

何もかもどうでもいい、気持ちよくなって、寂しさを紛らわしていたかった。


そんな時。
母が過労で倒れたとの一報を受けた。
母さんは昔からよく働いていた。僕が家を出たら少しは楽になるのかなと思っていたけど…そうでもなかったみたいだ。


日帰りできない距離ではない。
様子を見に行かなきゃ…!

でも万が一春樹に会ったら?

そう思うと憂うつで仕方がなかった。


―――


悪い予感は的中してしまうのが夜の定め。

病室で案外元気そうか母さんを見て、安心して帰路についていた、その矢先、春樹に会ってしまった。

「尚也っ!帰ってたの?」

「あぁ…ちょっと、ね。母さんのお見舞いで」

「え!?病気!?」

「ううん、ただの過労。元気そうだったよ」

「そっか、なら良かった~…」

努めて普通に接したつもりだが、どうだったかな。とにかくもう一刻も早くこの場を立ち去りたかった。


「なぁ、時間ある?久しぶりに話そうぜ!」

春樹から提案され、なし崩しに僕の部屋へ行くことになってしまった。
本来、僕は病院から駅へ直行するつもりだったのに。なんだかんだでほだされてしまう。
そんな自分が心底嫌になる。

大学はどうだ、友達はできたか、互いに当たり障りのない近況を報告し合う。

「俺、まゆ以来彼女いないんだよな~」

突然春樹の口から『彼女』という単語。

「だ、大学生だし、春樹ならすぐできるんじゃないかな?ホラ、サークルとかさ!」

僕の笑顔は引きつっていなかっただろうか。

「別に?俺彼女欲しいって言ってないよ。てか欲しくないし」

僕の目が泳ぎ始める。
ほんの少しの期待で、胸が高鳴る。
そんなはず、無いのにさ。

春樹はそんな僕のことなんてお構いなしにしゃべり続けた。

「女ってめんどくせーじゃん。記念日とか?私の事好きかとか聞いてくるし。終いにゃセックス下手とか言われるし…」

それ、全部『まゆ』の話なの?と少し疑問に思うが、僕には関係ないだろう…。

「それに比べて、男はラクでいいよな!サッパリしてて、一緒にいても楽しいことしかないんだもんな~」

春樹が僕の目を見て、ニコリと笑う。
ぐぅ…イケメンだ。

「あれから気になって色々調べちゃったんだよね、俺。ケツ痛そ~とか。」


ドキッとした。みるみる顔が熱くなる。

彼女のくだりから、薄々おかしいなとは思っていた。けどこれ、やっぱり僕に対して何か言おうとしてる…?


「…尚也はケツ痛くないの?怖くない?」


きた。
どうする?正直に話す?
僕は今、春樹に試されてるような気がした。
速まる鼓動を静めるように、大きく息を吸って、なんてことない風に僕は口を開いた。


「痛くないよ、むしろすんごく気持ちいい…」

「へ!?へぇ~…。あのディルド?」

「ううん、本物」

「は!?本物って…」

明らかに春樹は動揺していた。そりゃそうだ。卒業式にあんなものを見せられて、今は本物突っ込んでる奴が目の前にいるんだ。

「僕さ、今セフレがいて。いっつもイイトコ突いてくれるんだよね。痛いどころか、すんごい気持ちいいよ。
一緒に前も擦るとさ、こう、頭が真っ白になって、なにもかもどうでもよくなるんだ」

僕は床の一点を見つめて、なんの感情も込めずに、ただ淡々と話した。春樹を見るのが怖かったから。

なんであんなことがあったのに、今日僕の部屋に来たんだ?でもこれで、本当にもう僕と関わろうなんて思わないだろ?

これでいいんだ…。

沈黙が続く。
床を見つめたまま、じゃあそろそろ電車もあるし、と言おうとしたら、


「その役目、俺じゃダメなの?ソイツじゃなきゃダメなの!?」


まさかの返答に思わず顔を上げた。
春樹は顔を赤らめて、唇を噛みしめて僕を見つめていた。
こんな、僕を…。

少し期待していた分、正直嬉しかった。
だけど…春樹は僕とは違うだろ?
泣いて抱き着きたい気持ちを押し殺して、僕は口を開いた。


「ダメに決まってんだろ。こーゆーのは、セフレ位がちょうどいいんだよ…」


また、僕の声は震えていた。
全く…泣き虫で情けないったりゃありゃしない。

「じゃあ電車もあるし、僕も出るから。春樹も帰りなよ」

僕は春樹の顔を見ないまま、別れを告げて駅へと向かった。

道中、涙で頬が濡れたけど、これで良かったんだと、必死に自分に言い聞かせた。

春樹が僕に興味を持ったのは、非現実的なものを見たことによる一時的なもので、初めてAVを持ち込んだ時と同じようなものだ、と。
それに…見ず知らずの男に体を許して快楽を得て、現実逃避をしている僕なんかに触れてはいけないよ。

僕はもう、物凄く汚れてしまったんだからさ。


数年に渡る淡い想いが、自分の行いによって無惨にも散っていった。
本当に情けなくて、何もかもが嫌になる。
こんな時は…


プルルッ。
「もしもし?今地元から帰るんだけど、夜空いてないかな?」


めちゃくちゃに抱かれるのが一番だ。
ホラ、僕って汚くて最低だろ?
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