2 / 53
eスポーツ部誕生
1 電算部
しおりを挟む
4月中旬とは思えない少し汗ばむような日の午後。
グランドからはカキーン、カキーンという金属バットの甲高い音がする。体育館からはドンドンドンというドリブルと、キュッ、キュッ、キュッとシューズの音がこだまする。校舎からは、管楽器の演奏とコーラスが漏れ聞こえてくる。どこにでもある放課後の高校。
40台の最新式のPCが設置されている実習室では、カタカタとキーボードを叩く音、カチカチとマウスクリックの音だけが響く。
およそ20人の生徒がプログラミングをしていたり、資格の勉強をしていたりと、全員が私語もなく真剣に取り組んでいた。
そんな中、光田速人ただ一人だけ、気だるそうにゲーム攻略サイトを見ていた。
中肉中背で、おしゃれには気を使っていないボサボサの髪、整ってはいるが少し女性っぽい顔立ち、ごく平凡な高校1年生だ。
速人は突然立ち上がり言った。
「はぁ、サイトを見る事ができてもゲームができないなんて、ヘビの生殺しだよ」
それは単なる独り言で、誰かに訴える意図は無かったのかもしれない。しかし、隣のPCを使っていた安部真理亜が反応した。
「うるさいわね。ゲームなんてくだらない。少しは部活らしい事をやったら?」
眉をしかめ、あきれたように言った。
胸のあたりまである漆黒のストレートの髪。黒縁の眼鏡をし、まったく化粧っけのないすっぴんだが、白人とのハーフのようなハッキリとした目鼻立ちの意志の強そうな顔をしている。
「部活らしい事? 資格取得とかプログラミングの勉強か。そんな事がやりたくてこの部に入ったわけじゃない」
「うちの部は、情報処理の国家試験合格率も高いし、U18プログラミングコンテストでも実績を出しているのよ。資格取得の勉強かプログラミングの勉強をしなくてどうするのよ」
「僕はLoLがやりたくて電算部に入部したんだよ。なのにこの部活でやっていいのは、プログラミングとネットサーフィンだけって、ひどくない?」
「LoL? どうせ銃で殺しあうゲームでしょ?」
「ぜんぜん違う。LoLっていうのはリーグ・オブ・レジェンドの略だよ。全世界で1億人以上がプレイするeスポーツを代表するゲームで……」
「まぁまぁ、それぐらいで……」
速人の言葉を同じクラスの永井道則がさえぎった。
黒縁眼鏡のやせ形で少し神経質そうな雰囲気である。
「電算部の方針なんだから、しかたないんじゃないの? 中学時代に『魔女』と呼ばれた真理亜さんからプログラミングを習ってみたらどう? 基礎ぐらいだったら僕でも教えれられるしさ」
「いいよ、遠慮しておく。だいたい『電算部』ってなに? 電子計算機部の略? ダサすぎ、古すぎだよ。そもそも僕は、資格取得やプログラミングがしたいわけじゃない! 時代はeスポーツだ。LoLやらせろって!」
「ここで不満を言ってもしかたないだろ? 顧問の佐藤先生へ訴えてきたら?」
永井はうんざりした表情でつぶやいた。
「それもそうだな。ちょっと職員室へ行ってくる」
そう言い終わらないうちに速人は椅子をしまい、実習室から出て行った。
真理亜も永井も少しほっとした。いつまでも速人の愚痴に付き合わされるのは、たまらないからだ。
二人はそれぞれ何事も無かったように、PCに向かった。
グランドからはカキーン、カキーンという金属バットの甲高い音がする。体育館からはドンドンドンというドリブルと、キュッ、キュッ、キュッとシューズの音がこだまする。校舎からは、管楽器の演奏とコーラスが漏れ聞こえてくる。どこにでもある放課後の高校。
40台の最新式のPCが設置されている実習室では、カタカタとキーボードを叩く音、カチカチとマウスクリックの音だけが響く。
およそ20人の生徒がプログラミングをしていたり、資格の勉強をしていたりと、全員が私語もなく真剣に取り組んでいた。
そんな中、光田速人ただ一人だけ、気だるそうにゲーム攻略サイトを見ていた。
中肉中背で、おしゃれには気を使っていないボサボサの髪、整ってはいるが少し女性っぽい顔立ち、ごく平凡な高校1年生だ。
速人は突然立ち上がり言った。
「はぁ、サイトを見る事ができてもゲームができないなんて、ヘビの生殺しだよ」
それは単なる独り言で、誰かに訴える意図は無かったのかもしれない。しかし、隣のPCを使っていた安部真理亜が反応した。
「うるさいわね。ゲームなんてくだらない。少しは部活らしい事をやったら?」
眉をしかめ、あきれたように言った。
胸のあたりまである漆黒のストレートの髪。黒縁の眼鏡をし、まったく化粧っけのないすっぴんだが、白人とのハーフのようなハッキリとした目鼻立ちの意志の強そうな顔をしている。
「部活らしい事? 資格取得とかプログラミングの勉強か。そんな事がやりたくてこの部に入ったわけじゃない」
「うちの部は、情報処理の国家試験合格率も高いし、U18プログラミングコンテストでも実績を出しているのよ。資格取得の勉強かプログラミングの勉強をしなくてどうするのよ」
「僕はLoLがやりたくて電算部に入部したんだよ。なのにこの部活でやっていいのは、プログラミングとネットサーフィンだけって、ひどくない?」
「LoL? どうせ銃で殺しあうゲームでしょ?」
「ぜんぜん違う。LoLっていうのはリーグ・オブ・レジェンドの略だよ。全世界で1億人以上がプレイするeスポーツを代表するゲームで……」
「まぁまぁ、それぐらいで……」
速人の言葉を同じクラスの永井道則がさえぎった。
黒縁眼鏡のやせ形で少し神経質そうな雰囲気である。
「電算部の方針なんだから、しかたないんじゃないの? 中学時代に『魔女』と呼ばれた真理亜さんからプログラミングを習ってみたらどう? 基礎ぐらいだったら僕でも教えれられるしさ」
「いいよ、遠慮しておく。だいたい『電算部』ってなに? 電子計算機部の略? ダサすぎ、古すぎだよ。そもそも僕は、資格取得やプログラミングがしたいわけじゃない! 時代はeスポーツだ。LoLやらせろって!」
「ここで不満を言ってもしかたないだろ? 顧問の佐藤先生へ訴えてきたら?」
永井はうんざりした表情でつぶやいた。
「それもそうだな。ちょっと職員室へ行ってくる」
そう言い終わらないうちに速人は椅子をしまい、実習室から出て行った。
真理亜も永井も少しほっとした。いつまでも速人の愚痴に付き合わされるのは、たまらないからだ。
二人はそれぞれ何事も無かったように、PCに向かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤
凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。
幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。
でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです!
ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
