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#2-1
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#2(一人称)
「ホント腹立つ奴だよ、まったく!」
二〇一七年一月十六日の夜。愛知県名古屋市名東区引山の住宅地にある分譲住宅の一つ。愛知県警本部で捜査一課の警部補をしている、前髪の生え際が危なくなりはじめているパパは、橋本という部下の文句ばかり言いながらリビングで晩酌をしていた。
「口下手な人なのね、その人」
夕飯の時に飲まずに相手をしてあげている、最近昔より化粧が厚くなりはじめたママは、それに対して軽くはにかみながらその愚痴に応えている。
「で、事件のほうはどうなの? 犯人の目星ついたの?」
ソファに寝っ転がってスマホをいじっている私は、耳だけ向けて自分の父親に質問した。
「なんだよ。いつもは俺の仕事のことなんか全然聞かねえくせに」
パパが悪態をつく。だがこう書くと、どうして愛知県警の捜査一課で殺人事件を追いかけてる父親の仕事に、人の死や殺人事件に関心があるこいつが興味を持たないんだと、大抵の読者が疑問に思うだろう。断っておくと、私はグロテスクな死体やそれを描いた創作物に興味があり、常識では測れない次元の動機を孕んだ事件が好きなのである。病院で家族に看取られながら安らかに旅立った故人の死体なんかには微塵の面白さも感じないし、普段パパが追いかけている、男女のもつれとか児童虐待とかが絡む、今の日本で最もありふれた動機による殺人事件には、これっぽっちも興味がないのだ。もっとこう、最初に引き合いに出したシリアルキラーたちの犯行や、いつぞやの秋葉原の歩行者天国とかで起きた無差別殺人のような、常人ではまず犯人たちの心理に到達できないタイプの事件に好奇心をそそられるのだ。
平和公園での女性の死体遺棄事件のことは当然私も知っている(あんな恐ろしい事件が全国紙に載らないほうがおかしいのだが)。死体が全裸で見つかったこと、首が切断されて近くの岩の上でさらし首になっていたこと、現金に加え免許証などの身元特定に直結するものは見つかっていないこと。この時点ではそれくらいの情報しか私の耳には届いていなかった。これだけだと男女問題が原因なのか、異常性癖の誰かにレイプされて殺されたのか、警察部外者の私には判断がつかなかった。
「言っとくが、事件のことはなんにも教えんからな」
コップに注がれたビールを飲んでいる(視線を向けていないから予想なのだが)パパが、私に対してそっけなく言い返す。まあ、私が蝶ネクタイつけたメガネの小学一年生でもない限り、その判断は妥当というものだろう。
ただしこれだと、警察が新しい証拠をつかんで発表してくれるまで、私は心の中のモヤモヤを引きずらなければいけなくなる。せっかく生まれ育った名古屋の地でこんな面白く
「ホント腹立つ奴だよ、まったく!」
二〇一七年一月十六日の夜。愛知県名古屋市名東区引山の住宅地にある分譲住宅の一つ。愛知県警本部で捜査一課の警部補をしている、前髪の生え際が危なくなりはじめているパパは、橋本という部下の文句ばかり言いながらリビングで晩酌をしていた。
「口下手な人なのね、その人」
夕飯の時に飲まずに相手をしてあげている、最近昔より化粧が厚くなりはじめたママは、それに対して軽くはにかみながらその愚痴に応えている。
「で、事件のほうはどうなの? 犯人の目星ついたの?」
ソファに寝っ転がってスマホをいじっている私は、耳だけ向けて自分の父親に質問した。
「なんだよ。いつもは俺の仕事のことなんか全然聞かねえくせに」
パパが悪態をつく。だがこう書くと、どうして愛知県警の捜査一課で殺人事件を追いかけてる父親の仕事に、人の死や殺人事件に関心があるこいつが興味を持たないんだと、大抵の読者が疑問に思うだろう。断っておくと、私はグロテスクな死体やそれを描いた創作物に興味があり、常識では測れない次元の動機を孕んだ事件が好きなのである。病院で家族に看取られながら安らかに旅立った故人の死体なんかには微塵の面白さも感じないし、普段パパが追いかけている、男女のもつれとか児童虐待とかが絡む、今の日本で最もありふれた動機による殺人事件には、これっぽっちも興味がないのだ。もっとこう、最初に引き合いに出したシリアルキラーたちの犯行や、いつぞやの秋葉原の歩行者天国とかで起きた無差別殺人のような、常人ではまず犯人たちの心理に到達できないタイプの事件に好奇心をそそられるのだ。
平和公園での女性の死体遺棄事件のことは当然私も知っている(あんな恐ろしい事件が全国紙に載らないほうがおかしいのだが)。死体が全裸で見つかったこと、首が切断されて近くの岩の上でさらし首になっていたこと、現金に加え免許証などの身元特定に直結するものは見つかっていないこと。この時点ではそれくらいの情報しか私の耳には届いていなかった。これだけだと男女問題が原因なのか、異常性癖の誰かにレイプされて殺されたのか、警察部外者の私には判断がつかなかった。
「言っとくが、事件のことはなんにも教えんからな」
コップに注がれたビールを飲んでいる(視線を向けていないから予想なのだが)パパが、私に対してそっけなく言い返す。まあ、私が蝶ネクタイつけたメガネの小学一年生でもない限り、その判断は妥当というものだろう。
ただしこれだと、警察が新しい証拠をつかんで発表してくれるまで、私は心の中のモヤモヤを引きずらなければいけなくなる。せっかく生まれ育った名古屋の地でこんな面白く
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