15 / 166
#2-4
しおりを挟む
研究と称して自分の趣味に他人のお金をつぎ込めるから選んだとしか思えない。それくらい私たちゼミ生に興味関心がない人だから、この本には出てこないのだ。
で、今日の私の午前中のスケジュールは、就活対策で取った『日本経済 基礎』というさっぱり理解できない講義と、単位の埋め合わせで取った『文章作成 詩歌』という、担当教師との美的センスの違いを実感している講義に参加すること。午後にも『心理学 入門編』という講義が一応入っているが、人間の心の変化ではなく生物の反射反応(熱いものに触って手を引っ込めるとか)に関する講義だとわかると途端にやる気が失せてしまったので、最近はこの時間にゼミの課題の論文を片づけることにしている。
そして今日この大学に来た(個人的な)本当の目的は、さっき言ったモデル派遣会社の当事者に会うためだ。
大した交友関係を持たない私だが、腹を割って話せる友人が二人だけいる。そのうちの一人がランクアップでバイトしていると聞いたことがあるのだ。
この日の昼休み、私はコンビニで買ったカツ丼弁当を持って、ガラス張りで中がよく見える食堂前にある芝生広場にやってきた。
理事の面々が何を考えているのか知らないが、うちの大学は室内プールや陶芸室といった、本当にごく一部の学生しか使わない施設ばかり建てて、ラウンジや広い食堂のような、学生が本当に欲している施設を作る気がないらしい。それで、室内でのお昼ご飯に間に合わなかった学生が、年明けの寒気に身もだえしながらこの芝生の広場に腰かけて昼食を取っているのだ。私が会いたい人も、今日のように晴れた日の昼間はこの広場でランチを取るのが日課になっている。
そして他人のスカートの裾やカバンを踏まないように気をつけながら歩いていると、朝から会いたかったその人をようやく見つけることに成功した。
「おーい! 好代ちゃーん! 大輔くーん!」
私が手を振って声を出して合図を送ると、隣り合って座りながら楽しそうに談笑するカップルが、二人揃って私のほうに向き直った。
「あ? なんだ、湯浅か」と、昔自分を元ヤンだと語っていた角田好代(これで『かくたすくよ』と読む)が言い、「珍しいね。湯浅さんから声をかけてくるなんて」と、左目に泣きぼくろがあるもやし男の山本大輔(読み方の説明はいらないよね)が言った。
二人とも私と同じゼミのメンバーで、その縁があってたまに話をする関係になったのである。ちなみに二人の最近の趣味は、好代ちゃんが手芸(小さな人形を作ってTwitterに載せているらしい)で大輔君が鉄道(スマホの待ち受けが知多半島の海沿いを走る電車の写真らしい)なのだとか。こんなにも正反対な二人がつき合い始めるきっかけとはなんだったのかは、味の好みでも似ていたのかくらいの想像しかできない。さらに補足すると、二人とも私と違って、グロテスクな死体とかシリアルキラーの話にはまったく興味がない。ゼミの自己紹介の時に私が自分の趣味を語ったところ、途中から二人とも本気で引いてい
で、今日の私の午前中のスケジュールは、就活対策で取った『日本経済 基礎』というさっぱり理解できない講義と、単位の埋め合わせで取った『文章作成 詩歌』という、担当教師との美的センスの違いを実感している講義に参加すること。午後にも『心理学 入門編』という講義が一応入っているが、人間の心の変化ではなく生物の反射反応(熱いものに触って手を引っ込めるとか)に関する講義だとわかると途端にやる気が失せてしまったので、最近はこの時間にゼミの課題の論文を片づけることにしている。
そして今日この大学に来た(個人的な)本当の目的は、さっき言ったモデル派遣会社の当事者に会うためだ。
大した交友関係を持たない私だが、腹を割って話せる友人が二人だけいる。そのうちの一人がランクアップでバイトしていると聞いたことがあるのだ。
この日の昼休み、私はコンビニで買ったカツ丼弁当を持って、ガラス張りで中がよく見える食堂前にある芝生広場にやってきた。
理事の面々が何を考えているのか知らないが、うちの大学は室内プールや陶芸室といった、本当にごく一部の学生しか使わない施設ばかり建てて、ラウンジや広い食堂のような、学生が本当に欲している施設を作る気がないらしい。それで、室内でのお昼ご飯に間に合わなかった学生が、年明けの寒気に身もだえしながらこの芝生の広場に腰かけて昼食を取っているのだ。私が会いたい人も、今日のように晴れた日の昼間はこの広場でランチを取るのが日課になっている。
そして他人のスカートの裾やカバンを踏まないように気をつけながら歩いていると、朝から会いたかったその人をようやく見つけることに成功した。
「おーい! 好代ちゃーん! 大輔くーん!」
私が手を振って声を出して合図を送ると、隣り合って座りながら楽しそうに談笑するカップルが、二人揃って私のほうに向き直った。
「あ? なんだ、湯浅か」と、昔自分を元ヤンだと語っていた角田好代(これで『かくたすくよ』と読む)が言い、「珍しいね。湯浅さんから声をかけてくるなんて」と、左目に泣きぼくろがあるもやし男の山本大輔(読み方の説明はいらないよね)が言った。
二人とも私と同じゼミのメンバーで、その縁があってたまに話をする関係になったのである。ちなみに二人の最近の趣味は、好代ちゃんが手芸(小さな人形を作ってTwitterに載せているらしい)で大輔君が鉄道(スマホの待ち受けが知多半島の海沿いを走る電車の写真らしい)なのだとか。こんなにも正反対な二人がつき合い始めるきっかけとはなんだったのかは、味の好みでも似ていたのかくらいの想像しかできない。さらに補足すると、二人とも私と違って、グロテスクな死体とかシリアルキラーの話にはまったく興味がない。ゼミの自己紹介の時に私が自分の趣味を語ったところ、途中から二人とも本気で引いてい
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる