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#4-6
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ても、不快に感じながら信じたかもしれない。
「ところで、あなたはどちら様で……」
そこに高宮さんのお母さんが、内心踊り出している私に質問してきた。
もちろんこの場面で、自分の正直な身分と心情を打ち明けるのは愚の骨頂だ。せっかく被害者遺族と出会えたのだから、彼、彼女らからもっと情報を引き出してやりたい。そのためには最低でも、被害者のどちらか一方との近しい間柄という設定が必要不可欠だ。
そこで私は、この三人により近づくために、即興で嘘をつくことにした。
「A大学の湯浅と言います。美鈴ちゃんとは、名古屋市の大学のボランティアサークル連名で知り合って。渥美半島の海岸でゴミ拾いしたり、台風の被災地に行って炊き出しをしたりして。大学は違ってたんですけど、一緒に何かすることが多くて、それでよく一緒にご飯食べに行ったりとかしたんですよ。今回の事件が二つとも同一犯の犯行かもしれないって聞いて、それで高宮さんのほうにも行こうって思ったんです」
それっぽい話を三人にしてみる。すると山形から来た的部さんの両親が、手やハンカチで涙を拭き始め、「そうだったの……! 本当にありがとね……!」と言い、高宮さんのお母さんも、「わざわざありがとうね……! 見ず知らずの娘のために……!」と泣いている。こっちは罪悪感さえあるというのに。
さらに高宮さんのお母さんは私たち三人に対して、純粋な善意で言葉を続ける。
「さ、皆さん。立ち話もあれでしょうし、どうぞうちにいらしてください」
涙で目を少し赤くする高宮さんのお母さんに、私と的部夫妻は「いえいえ、お構いなく」と返事をした。
的部夫妻の台詞は間違いなく社交辞令だろうが、私の台詞は本気で断る意味だった。
本音を言えば、私はぜひとも高宮さんの家にお邪魔したかった。事件の真相にたどりつく貴重な話を聞けるかもしれないからだ。それにこの流れなら、うちに入れてもらったついでに温かいコーヒーくらい用意してくれるかもしれない。朝飯前に摂氏五度の世界に出てきた身としては、マッターホルン登頂中にリュックサックの底に見つけたチョコレートくらいにはありがたい話だ。
だが考えてもみてほしい。こっちはただの興味本位で殺人事件の被害者と接触しようとした赤の他人である。しかもより距離を縮めようと嘘をつき、本気で泣かせてしまったのだ。ここまでくると、さすがにこれ以上図々しいことをする気にはなれない。
だが高宮さんのお母さんは、そんな私の心情などまったく想像していなかった。
「そんなこと言わないでくださいよ。温かいお飲みものでもお出ししますよ」
ほら予想通りだ。私のお断り発言を典型的な社交辞令と考えている。こっちからすれば恐怖すら感じる台詞だ。
「そ……。そこまで言うなら……」
私の横にいた的部さんのお父さんがついにイエスと言った。下手に断らずに乗るか、ど
「ところで、あなたはどちら様で……」
そこに高宮さんのお母さんが、内心踊り出している私に質問してきた。
もちろんこの場面で、自分の正直な身分と心情を打ち明けるのは愚の骨頂だ。せっかく被害者遺族と出会えたのだから、彼、彼女らからもっと情報を引き出してやりたい。そのためには最低でも、被害者のどちらか一方との近しい間柄という設定が必要不可欠だ。
そこで私は、この三人により近づくために、即興で嘘をつくことにした。
「A大学の湯浅と言います。美鈴ちゃんとは、名古屋市の大学のボランティアサークル連名で知り合って。渥美半島の海岸でゴミ拾いしたり、台風の被災地に行って炊き出しをしたりして。大学は違ってたんですけど、一緒に何かすることが多くて、それでよく一緒にご飯食べに行ったりとかしたんですよ。今回の事件が二つとも同一犯の犯行かもしれないって聞いて、それで高宮さんのほうにも行こうって思ったんです」
それっぽい話を三人にしてみる。すると山形から来た的部さんの両親が、手やハンカチで涙を拭き始め、「そうだったの……! 本当にありがとね……!」と言い、高宮さんのお母さんも、「わざわざありがとうね……! 見ず知らずの娘のために……!」と泣いている。こっちは罪悪感さえあるというのに。
さらに高宮さんのお母さんは私たち三人に対して、純粋な善意で言葉を続ける。
「さ、皆さん。立ち話もあれでしょうし、どうぞうちにいらしてください」
涙で目を少し赤くする高宮さんのお母さんに、私と的部夫妻は「いえいえ、お構いなく」と返事をした。
的部夫妻の台詞は間違いなく社交辞令だろうが、私の台詞は本気で断る意味だった。
本音を言えば、私はぜひとも高宮さんの家にお邪魔したかった。事件の真相にたどりつく貴重な話を聞けるかもしれないからだ。それにこの流れなら、うちに入れてもらったついでに温かいコーヒーくらい用意してくれるかもしれない。朝飯前に摂氏五度の世界に出てきた身としては、マッターホルン登頂中にリュックサックの底に見つけたチョコレートくらいにはありがたい話だ。
だが考えてもみてほしい。こっちはただの興味本位で殺人事件の被害者と接触しようとした赤の他人である。しかもより距離を縮めようと嘘をつき、本気で泣かせてしまったのだ。ここまでくると、さすがにこれ以上図々しいことをする気にはなれない。
だが高宮さんのお母さんは、そんな私の心情などまったく想像していなかった。
「そんなこと言わないでくださいよ。温かいお飲みものでもお出ししますよ」
ほら予想通りだ。私のお断り発言を典型的な社交辞令と考えている。こっちからすれば恐怖すら感じる台詞だ。
「そ……。そこまで言うなら……」
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