和製切り裂きジャック

九十九光

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#14ー4

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だったので、こっちの思考の行く先もなんだか投げやりになっている。
 そして私の体は、背もたれに思いっきり背中を預けて両手をフローリングに向けた状態で椅子に座っていた。目も瞳孔がカッと開いていて、半開きの口元からは唾液が腕と同じ方向に向かって垂れていた。なんだか映画に出てくる特殊メイクか作り物の人形みたいに見えてくる。案外映画の死体は実物に近いのかもしれない。
 そしてここから、この辺のページで私が一番読み飛ばしてほしくないパートに突入する。
 私を殺した男は、私のカバンから財布を抜き取って自分のカバンにしまうと、私の死体の脇の下に両腕を挿し込んで引きずり、室内にある私のベッドにあおむけに寝かせたのだ。さらに私のパジャマの上を首元までたくし上げ、胸からお腹までをあらわにしたのだ。
 私は最初、こいつがそういうことをする理由がわからなかった。この本でも何度か言っているが、物取りの犯行の定石は、人を殺してほしいものを手に入れたらすぐに現場を離れることだ。この常識で考えれば、私の死体をベッドに移すこの行為は、本田圭佑にゴールキーパーを任せることくらいありえないことなのだ。一応、ネクロフィリアという死んだ人間とセックスすると気持ちがいいという性癖である可能性はあった。だがこの男は、ベッドの外側の床の上で膝立ちして私の体の横でこの作業をしている。相手の横に立って相手の服を脱がせることの難しさは、赤ちゃんのおしめを変える時のことを想像すればすぐにわかるはず。セックスする時に横四方固めみたいなポジショニングをしないことも、中途半端な性知識しかない男子中学生にも予想できるだろう。
 私の中で、急にこの男に対する興味関心が湧き上がってきた。私は男の左横、私の体が足を向けているほうに陣取って、こいつの行動を観察することにした。
 男は自分のカバンの中に手を突っ込んで何かを探し始めた。何をする気なんだと思うと、心臓の鼓動が速まるような気がしてくる(気がするだけ。実際にそうなったら死者蘇生だ)。
 男が取り出したのは、平たい長方形の黒いケースみたいなのから、黒と赤で装飾された持ち手みたいなのが生えている物体だった。私は最初それがなんなのかわからなかった。男は小さくパコッという音を出しながら、ケースを横に開いた。
 包丁だった。柄のデザイン的に百均で売っている安物だろうが、きれいに研がれて切れ味よさげな包丁だった。そういえば、料理が趣味とか言っていたジャニーズのアイドルが、あんな感じのマグネットのケースにマイ包丁を入れて持ち運んでいるのをテレビで見たことがあった。たぶんそれと同じケースだろう。
 すると今度は、なぜこの男が包丁なんか取り出したのかという疑問が湧き上がる。紐で絞め殺しておいて今さら第二の凶器なんか何に使うんだという話だ。別にやるかやられるかの危険な戦場でマルチな対応を要求されているわけじゃないのだから、凶器はどちらか一方だけで充分なはずなのに。
 私は一度、ここまでのこいつの一連の行動を振り返ってみた。
 私を紐で絞め殺して、その後私のカバンから財布を抜き取って、私の死体をベッドに寝
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