和製切り裂きジャック

九十九光

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#14ー5

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かせて、手入れの行き届いた包丁を取り出す。
 一つの予想が思い浮かんだ。こんな犯行をする奴はこの世に一人しかいなかった。
 その次の瞬間だった。
 私は胸のあたりに強烈な痛みを感じた。裁縫の授業で縫い針を指先に突き刺した時の痛みを、何十倍にも強くしたような感じの痛みだった。
 私は胸を押さえてその場にうずくまった。体から噴き出す脂汗は止まらないし、息もどんどん荒くなる。こんな生理現象は死んでいる私にとって、生物学的な意味は一切ない。単に私の心に恐怖を植えつけるだけの現象だった。
 痛みで床の上を転げそうになる欲求に耐えながら、私はなんとか立ち上がって男のほうに視線を戻す。男は私の両乳房の間にさっきの包丁を突き刺していた。男の表情はフードのせいでよく見えなかったが、私の死体のほうは傷口と包丁の間から血が流れ出している以外、これといった反応は示していなかった。
 間違いなかった。こいつは和製切り裂きジャックだった。標的を絞殺してその有り金を奪った後、殺した相手の死体を残酷に解剖する、あのシリアルキラーだった。この男の記念すべき十人目の標的は、自分の熱狂的なファンの女子大生だったのだ。
 私の中から自然と私の中から胸の痛みが引いてきた。たぶん憧れていたシリアルキラーに殺されるという体験に麻痺して痛覚が鈍くなったのだろう。
 男は包丁を握る手に力を籠め、それを私の股間に向けて引いた。同時に私の心臓から下腹部のあたりまで縦になぞる激痛が走る。私はまた倒れそうになったが、今度は足に力を込め、体勢を崩さないよう死に物狂いで抵抗した(もう死んでいるが)。私は痛みで泣きそうなりながら男に視線を戻し、マグロの解体ショーみたいな男の仕事を観察することに集中した。
 男は包丁を私のお腹から抜き取り、それを私の体の太ももの横に置くと、両手を切開したお腹の中に突っ込んだ。それと同時に私のお腹に激痛がやってきた。小学生の頃に経験した胃腸風邪とは桁が違う痛みだった。実物は見たことないが、帝王切開はあんな感じに子供を取り出すのだろうか。
 だが男の手の動きは、命を取り扱う慎重な手つきとはまるで違っていた。すぐに私のお腹の中の何かに狙いをつけ、私の中の何かを力を込めてつかんだ。私にきていた胃腸風邪の進化系みたいな痛みがより強くなる。それでも男に視線のカメラを向け続けると、男はウナギみたいに長くてヌルヌルしてそうな、生まれたての赤ん坊みたいに血がついているピンクの物体を私の体の中から引きずり出していた。
 腸だった。小腸か大腸か十二指腸か知らないが、人間の体の中であんなに形と色をした物体はそれしかありえない。男は私の腸を左手で支えた状態で、空いた右手に包丁を握り直した。そして私の腸を包丁で他の臓器から切り離し、端と端を左手でつまんで輪っかになったところを、包丁を使って手ごろな長さにカットしていく。
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