和製切り裂きジャック

九十九光

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#16ー1

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#16(一人称)


 橋本さんの謹慎が解けてから三日が経過した。
 この日私は、港区の金城ふ頭の近くで開催される、私服で参加できる新卒向けの合同企業説明会に参加する、ふりをしてあてもなく名古屋市内を市バスに乗ってうろついていた。
 理由はとてもシンプルで、「いい加減就活しないと後で困るわよ」とママからしつこく言われ、そのうえで単純に就活をする気になれなかったからだった。
 そんな気分になった理由もシンプルで、和製切り裂きジャックと橋本さんが原因だった。
 あの夢を見た翌日以降、私の頭の中には、橋本さんが和製切り裂きジャックなんじゃないかという考えがこびりついていた。
 確かに私は、あの人が和製切り裂きジャックだという証拠を持っていないが、同時にあの人が和製切り裂きジャックじゃないという証拠も持っていなかった。おまけに、どこの誰にもその本性はわからず、殺された自分の妹さんは見知らぬ強盗による犯行とするには不自然な点が多い。シャーロキアンが聞いたら呆れるような言いがかりだろうが、私はそんな屁理屈を本気の推理として考えていた。
 そしてこの推理は、今まではあくまで個人的な話でしかなかったが、今はより確固たるものになったと、勝手に話を広げていた。
 パパが帰ってきた橋本さんの様子を教えてくれたのだ。
 パパは橋本さんの謹慎解除以来一度も家に帰ってきてないが、代わりに毎晩八時くらいにうちに電話をかけて、橋本さんを中心とした捜査一課の雰囲気を報告するようになった。その電話に応対したママ曰く、電話の向こうのパパの声は一か月前と比べてずいぶん明るくなったらしい。「橋本さんがすっごく熱心にみんなをリードしてる」だとか、「和製切り裂きジャックのような頭のいい犯人を捕まえるには、常識を疑うことから始めないといけない」だとか、ママの言葉を通して私にも職場の雰囲気を伝えてくれた。今まで急な残業で家に帰れなくなっても連絡一つ入れなかったあの男が、「というわけで今日も家に帰れそうにない」と嬉しそうに伝えてくるのだ。
 最初それを聞いた時、私はその話がとても信じられなかった。あの橋本さんが自分から意見を出して同僚を率いて事件を捜査する様子を、まったく頭の中で想像できなかったからだ。だが、うちのパパが嬉しそうにそう言うのだから、まぎれもない真実なのだろう。
 そしてこの橋本さんのあからさまな変化を、私はあの人が和製切り裂きジャックじゃないかという証拠として私は受け取っていた。
 警察という立場を利用して殺された妹の仇を取ろうとしているとも考えられたが、それにしては不自然に変わりすぎているようにも見える。特にパパが電話で言ってきた、『和製切り裂きジャックのような頭のいい犯人』という言葉が引っ掛かった。
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