和製切り裂きジャック

九十九光

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#16ー5

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ら、脇道や家の駐車スペースに意識を向けた。この道なら和製切り裂きジャックと遭遇する可能性も高そうだ。私は目を皿にして、和製切り裂きジャックが乗りそうな白い軽トラックを探し始めた。
 だが私の心はおびえていた。憧れのジャニーズアイドルに会える一歩手前の追っかけのような気分にならず、いつどこから来るかわからない、得体の知れない存在に怯えていた。
 私はこの道に対して、道なりにまっすぐ進んだという記憶しか残っていなかった。どのあたりに何があって、どんな車が路上に駐車されていたとか、そんなことは頭から吹き飛んでしまっていた。
 気がつくと私は、ガソリンスタンドがある十字路に出ていた。それもただの十字路ではなかった。道は街灯と車のライトと建物からのネオンで明るく染まり、道は中央分離帯で仕切られた片側二車線の道路に変わっていた。人も車も絶え間なく流れ、家へ帰ろうとする人とこれから仕事か夜遊びに行く人とで別れていそうだ。
 私は慌てて周辺を確認した。自分の右手側に見覚えのある赤と黄色の明かりがついた看板が小さく見えた。少し前に夕食を済ませてきた、あの中華料理屋の看板だった。
 私はいつの間にか北上して池下駅近くの道に戻ってきていたのだ。時間は八時少し前。大体三十分ほどでここまで戻ってきてしまった計算になる。
 それでも私は家に帰る気にはなれなかった。たったの三十分歩いただけで当初の目的を諦めようと思えなかった。ついさっきまで真っ暗な道を怖がるなんていう子供みたいな気持ちになっていたくせに、それをすっかり忘れていた。
 私は横断歩道の向こう側の道が暗くなっているのを見て横断歩道を渡る。そのまま壁面の汚れが夜の明かりで目立つ古いビルが立つ道へ、北に向かってまっすぐ歩き出した。
 でもすぐにその道は終わり、五分もしないうちに錦通りに出た。キャバクラが立ち並ぶ夜遊びの道など、おおよそ今の私の目的とは関係ない場所だった。そこも横断歩道を渡ってまっすぐ北に進んでいく。すぐにナゴヤセントラルガーデンに出た。私が入った南側の入り口にある看板曰く、東京の表参道や代官山を意識したまちづくりをモットーとした場所であり、三棟あるマンションを中心に小洒落た料理店やパン屋などが並んでいる場所だった。どこの建物からもセピア色の明かりが漏れてきていて、ファーつきのコートを着た中年女性や革製らしいカバンを持った中年男性が複数人歩いていた。私は特に周囲を気にしないで、北に向かってまっすぐ歩いた。
 そこを抜けた先は住宅地だった。道は上下線に別れて広くスペースを取っていたが、周辺の家々は池下の南側の家々と大差なく、新しい家と古い家が混在している場所だった。やっぱりここも車の通りは多く、悪事を働くには不向きな場所だった。
 さらにそこから北に進むと、東部医療センター正面のT字路にぶつかった。簡単に説明すれば、ここは千種区の総合病院だ。赤みがかった黄色の街灯に照らされたこの道は頻繁に車が通過し、飼い犬を連れている歩行者も多い。和製切り裂きジャックが使うような白
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