和製切り裂きジャック

九十九光

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#19ー8

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学校までと変わらない質で行われた。
 だがそれも中学校の授業の前ではまるで意味をなさなかった。
 国語の音読や音楽の授業のほか、英語の授業が入ってきたのだ。耳が聞こえないためにリスニングの課題が一切できず、必須五教科のうちの一つが四分の一ほどできないという深刻な状態になった。特別学級のようなものが配備されていない学校だったために、彼女だけ別でテストを用意する、専用のカリキュラムを作るなどの配慮がままならなかったのも、この問題に拍車をかけた。所属が義務になる部活動は、文化部が吹奏楽だけという壁が立ちはだかった。耳が聞こえない以上運動部で健常者と同じように活動することはできず、マネージャーというポジションも存在しなかった。楓はテニス部でコート隅のほうで傍観するだけの活動を強いられ、時に熱中症で倒れることもあった。
 いじめに関してはここにきてもやむことはなかった。それより問題だったのは、教師たちが初めから楓を受け入れる気が一切ないどころか、楓に対する不快な気持ちを隠すこともしないことだった。たとえ楓がどんなにつらい思いをしていようとも、「ところで君、いつになったらろう学校に戻るの?」と言いたげな表情をする者が大半だった。
 そんな場所で楓が自分の力を伸ばせるわけがなかった。体の不調を訴えて休む日が極端に多くなり、一年生の五教科の成績は五段階評価で、その合計は一学期が十三、二学期が九、三学期が六だった。
 普通の子供になるどころか、普通の子供と比べて極端に差が開いていく。
 この状況に母親が何も感じないわけがなかった。離婚して最も近くにいた相談相手がいなくなったことで、ストレスのはけ口がなくなったことも大きかった。
 彼女が楓自身に当たり始めるようになるのに、時間はかからなかった。
「どうしてあんたはそうなの! ほかの子ができて当たり前のことができなくて! 私があんたのためにいくら使ってると思ってるの! 毎日パートで貯めたお金を少しずつ切り崩して! そんなんで将来どうするつもりなの!」
 平手で殴り倒されて涙を溜めて震える楓に、母親は聞こえるはずもないのに声を張り上げて怒鳴り散らす。こんなことが橋本家では日常的に起こるようになっていった。
 それを止めるのは隆の仕事だった。彼は一歩引いた位置から母親にやめるように声をかけ、実の母親からどうにかして楓を守ろうとした。しかし母親は、『実の母親』というブレーキがかかっている隆の力で止まることはなかった。
 そして二〇〇三年。一年生の三学期も終わり、本当にこのまま楓を無理に今の学校に通わせ続けるのかどうかを決断しなければならなくなった。
 二つ目の事件はこの時期に起こった。
 中学の終業式の三日後、隆と楓は母親に連れられ、車に乗って長野県内の高速道路を走っていた。
 音楽もラジオもかけられず、誰も何もしゃべらない静かな車内。母親が運転し、隆が助
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