和製切り裂きジャック

九十九光

文字の大きさ
111 / 166

#19ー8

しおりを挟む
学校までと変わらない質で行われた。
 だがそれも中学校の授業の前ではまるで意味をなさなかった。
 国語の音読や音楽の授業のほか、英語の授業が入ってきたのだ。耳が聞こえないためにリスニングの課題が一切できず、必須五教科のうちの一つが四分の一ほどできないという深刻な状態になった。特別学級のようなものが配備されていない学校だったために、彼女だけ別でテストを用意する、専用のカリキュラムを作るなどの配慮がままならなかったのも、この問題に拍車をかけた。所属が義務になる部活動は、文化部が吹奏楽だけという壁が立ちはだかった。耳が聞こえない以上運動部で健常者と同じように活動することはできず、マネージャーというポジションも存在しなかった。楓はテニス部でコート隅のほうで傍観するだけの活動を強いられ、時に熱中症で倒れることもあった。
 いじめに関してはここにきてもやむことはなかった。それより問題だったのは、教師たちが初めから楓を受け入れる気が一切ないどころか、楓に対する不快な気持ちを隠すこともしないことだった。たとえ楓がどんなにつらい思いをしていようとも、「ところで君、いつになったらろう学校に戻るの?」と言いたげな表情をする者が大半だった。
 そんな場所で楓が自分の力を伸ばせるわけがなかった。体の不調を訴えて休む日が極端に多くなり、一年生の五教科の成績は五段階評価で、その合計は一学期が十三、二学期が九、三学期が六だった。
 普通の子供になるどころか、普通の子供と比べて極端に差が開いていく。
 この状況に母親が何も感じないわけがなかった。離婚して最も近くにいた相談相手がいなくなったことで、ストレスのはけ口がなくなったことも大きかった。
 彼女が楓自身に当たり始めるようになるのに、時間はかからなかった。
「どうしてあんたはそうなの! ほかの子ができて当たり前のことができなくて! 私があんたのためにいくら使ってると思ってるの! 毎日パートで貯めたお金を少しずつ切り崩して! そんなんで将来どうするつもりなの!」
 平手で殴り倒されて涙を溜めて震える楓に、母親は聞こえるはずもないのに声を張り上げて怒鳴り散らす。こんなことが橋本家では日常的に起こるようになっていった。
 それを止めるのは隆の仕事だった。彼は一歩引いた位置から母親にやめるように声をかけ、実の母親からどうにかして楓を守ろうとした。しかし母親は、『実の母親』というブレーキがかかっている隆の力で止まることはなかった。
 そして二〇〇三年。一年生の三学期も終わり、本当にこのまま楓を無理に今の学校に通わせ続けるのかどうかを決断しなければならなくなった。
 二つ目の事件はこの時期に起こった。
 中学の終業式の三日後、隆と楓は母親に連れられ、車に乗って長野県内の高速道路を走っていた。
 音楽もラジオもかけられず、誰も何もしゃべらない静かな車内。母親が運転し、隆が助
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...