和製切り裂きジャック

九十九光

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#21ー6

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 氷川が振り返った湯浅に言う。
「むしゃくしゃした橋本が自分でやった可能性もある」
 湯浅は冷静そうな声で氷川を落ちつかせようとした。
 その湯浅の額には、季節外れの大粒の汗がにじみ出ていた。顔では平静を装っているが内心この状況に恐怖している。氷川にはそう見えた。
「……! なんだよ、それ……!」
 氷川は突き飛ばされたような勢いで湯浅から離れ、リビング手前、そこから見て右側の壁にある、風呂場へと続く洗面所のドアを壊れそうな勢いで開けた。
 そこには閉めきられた浴室へのガラス戸に横顔を向け、洗面台下の収納スペースの戸棚に血まみれで背中を預ける、スーツ姿の男の遺体があった。鈍器のようなもので頭部を原型がなくなるほど叩きつぶされ、表情という概念はどこにもなくなっていた。紺色のスーツは布地の大部分が乾いた血で真っ黒に染まり、習字の後に洗わなかった筆のように固まっていた。遺体が足先と尻をつけている、木製の床もピンク色の足ふきマットも、スーツ同様彼の血で黒くなっていた。閉鎖空間に放置された遺体特有の、文字通りものが腐って生まれた悪臭が室内には立ちこめており、手の甲は濁った白色に変色している。死後数日経過していることは間違いなさそうだった。
 この光景を見た氷川は、言語になっていない言葉を発しながら廊下へ飛び退いた。そこにいた湯浅の脚に彼の背中が当たる。
「いいから早く来い! 帰ろうとしてる奴らも引き留めろ! ……。橋本に決まってんだろ! 早くしろ!」
 湯浅は携帯電話を耳に当て、県警本部にいた山下に電話をかけていた。その声は先ほどまでの冷静な言葉遣いの時と打って変わって、余裕のない叫び声になっていた。アパート外にまで届いていたらしく、名東警察署から捜査員が来るまで、湯浅は様子を見に来たやじ馬を追い返すことになった。
 その後やって来た鑑識の手によって、遺体の指紋と橋本の指紋の一致が確認された。さらに散らかされたリビングからは、水色の布の下敷きになっている一枚の紙が見つかった。A4サイズの印刷用紙であり、片面にはワープロで打ち込まれた字で、こう書かれていた。

『親愛なる無能な警察組織諸君
 間抜けに対して間抜けのふりをしても無意味だと考え、私はしっかりとした文面で君たちと対話することにする。
 鈴木芳夫は前座だ。私に言わせれば、あの男は薄汚れた経済社会のどこにでもある膿でしかない。その膿を三か月以上かけても見つけられず、偶然とはいえ警察関係者でもなんでもない人間に先を越されるようなお前たちなど、私の敵ではない。
 急ぎ準備を整え、形式だけでも私を追いかけてみるがいい。私は決して、お前たちのよ
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