和製切り裂きジャック

九十九光

文字の大きさ
127 / 166

#21ー7

しおりを挟む
うな能なしには捕まらない。これからもお前たちの努力を、お前たちが知らないところであざ笑い、この街で悠々自適に殺しを続けてやろう。一流作家の推理小説のごとき事件に関わることができることを光栄に思うといい。
和製切り裂きジャック』

 それから二日後、愛知県警は橋本隆殺人事件の捜査本部を設置した。
 湯浅と山下を含めた前回の和製切り裂きジャック事件の担当者は全員集められ、さらに各地区の警察署から一、二名ずつの増援が加わった。人員を増やし、一度連続殺人犯を逮捕するという実績を持つメンバーを再集結させたそれは、絶対に二件目の犯行は起こさせないという、県警の意地が垣間見られる人選だった。
 そしてこの日、優に百人は超える捜査員たちが集まる会議室のプロジェクター前で、現場検証の結果を報告したのは湯浅だった。
「今回殺されたのは、橋本隆。愛知県警捜査一課だった刑事であり、今年三月に鈴木芳夫によって殺された、橋本楓の兄であります」
 この日の彼のしゃべり方は、一見すると一言一句が正確に聞き取れて非常に落ちついているように見えなくもなかった。だがこの口調を聞いて気が気でなかったのは、彼のことをよく知る山下だった。
 山下は今の湯浅のしゃべり方に、いつもの活力を感じることができなかった。彼が持っていた仕事への情熱というものが欠落して、どこか遠い場所へ一人で行ってしまったような話し方だと感じていた。湯浅の中にある、自分の部下を失ったことによる気持ちの落胆を、山下は誰に言われずとも理解していた。
 昨晩、山下は湯浅に、今度の捜査から外れることを電話で提言していた。
 山下は湯浅ほど感情的にアクションを起こす警察官を知らなかった。それは間違いなく、ほかの捜査員たちの尻を叩いて全体の士気を上げるのに貢献するものだった。
 だが今回は事情が違った。湯浅が橋本のことを気にかけていたことなど、誰の目にも明らかだった。それが今回、湯浅の最大の長所に悪影響を与えるのではと、山下は考えていた。極端に感情的になって冷静さを失うか、口で言ったほど身が入らず若手の指揮もままならないか。このどちらかに転ぶ可能性があると考えていた。
 それに対して湯浅は、よそ事を考えているような声でこう返した。
「どうしてもこの事件だけは自分の手で片づけたい」
 この一辺倒の返事に負け、山下はしぶしぶ今回の捜査本部に湯浅を加えた。だが今は、無理にでも彼を外すべきだったと、湯浅から見て右端最前列の席で人知れず後悔していた。
 そんな山下の思いも知らずに、湯浅は壇上での報告を続ける。
「死亡推定時刻は、第一発見時から見てちょうど四日前。帰宅したその日の内の夜に殺害されたものと考えられます。死因は、頭部を複数回、アルミ合金製の金属バットのような
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...