和製切り裂きジャック

九十九光

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エピローグー9

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 楓の周囲には、常に誰かの笑顔があった。
 仕事に行けば、年上のパートさんや管理職の正社員、全国から乗り合わせてくるトラックドライバーの人たちが、ホワイトボードや不格好な手話を使って談笑してくれる。アパートでは、毎日のようにほかの住人や管理人の氷川が優しく声をかけてくれ、自分たちはその気になれば何もかもを共有できる仲であると教えてくれる。自宅では、大好きな兄が常に自分のことを気にかけてくれ、本当に子供の時の戻ったような気がした。市内を飛び出してどこかへ出かけることがある以上、子供の時より幸せにさえ感じられた。
 この街には誰一人として、自分を障害者だからと言って卑下する人も、逆に割れ物を扱うように丁寧になりすぎる人もいない。誰もが自分のことを普通の人間と同じように扱ってくれ、耳が聞こえないことを気にすることなく、ともに働き、笑い、声をかけてくれた。
 生まれ故郷にこんなにもいい人たちがいたことを、彼女は実の兄と周りの人々のおかげで知ることができた。
 楓は幸せだった。背中に貼った障害者のレッテルも、どこの誰に見せてもまるで気にならない、自分を飾るアクセサリーの一つのように見えた。


 うん。いい文章だ。特に最後の、『二〇一七年』の部分は考えさせられるものがある。
 一通り楓さんのここでの暮らしについて語り終えた金田さんは、続けてこんな言葉を並べてきた。
「あの兄妹がいなかったら、きっとこの街は生まれませんでした。あの二人がいたから、今まで他の街に居場所がなかった障がい者の人たちの居場所が生まれたんです。だからこの街で和製切り裂きジャックを知らない人はいません。小学校の社会科の授業で、街の誕生の経緯の一環で教えられるくらいですから。まあ、橋本さん兄妹を介してですけど」
 さすがにこの発言には驚かされた。まさかあんなにも人間嫌いだった橋本さんが、この街の人から世界の創造神みたいな扱いを受けていたとは。
「ところで、湯浅さん」
 金田さんが私に言葉を投げかけてきた。私は思わずペンを止めて、「はい?」と、抜けた声で返事をした。
「事前にお聞きしてたお話ですと、あなた、橋本さん兄妹との面識があると……」
「え、ええ……。と言っても、直にあったのは一度だけで……。大半は隆さんと同じ捜査一課の刑事だった父から聞いた話で……」
「へえ! お父さん、隆さんと同じ職場だったんですか! ぜひ詳しいお話を聞かせてください!」
 街の歴史的文献にするつもりなのか、金田さんも自分の携帯端末で録音する準備をしてメモを取る気になっている。質問する側とされる側が入れ替わってしまった。
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