イレブン

♯２ー２

　そして東西に挟まれる形で存在する岡田地区は、江戸時代からの特産品である木綿に、明治期から作られていたおかきにサイダーがお土産になっている町である。当時の建物もいくつか残っており、テレビのリポーターが来たら、『まるで明治時代にタイムスリップしたみたいですねー』というコメントが出そうな観光地である。

　ただしこの優雅な話は、この二か所だけでの話だ。市の東側には無造作に放置された雑木林や空き地が点在し、未開発な部分が非常に多い。一応、梅と玉ねぎという農産物によって、都会から来た人には珍しい一キロ以上にわたる農道というやつが形作られているのだが、いずれも春のものにつき、それ以外の季節は安い野菜と米が地元で消費されるのみになっている。新興住宅地として再開発は起きてはいるが、空き家をつぶして五軒ほどの家を建てるのがやっとだとか。所有者不明の耕されていない畑や林に手が出せないのが理由だろう。おまけに市を横断する手段は、自家用車か一時間に一本のローカルバスだけという有様。そして長く残っても就職先がまるでないせいで、若い人の大半は市の外へと流れてしまうという。

　要は知多市という場所は、田舎と言えば田舎に入るのだろうが、住民の大半が高齢者で学校は廃校寸前とかいう過疎地域と比べればずっと都会な町なのだ。だから市の立ち位置をよく分からないものにしており、この町の説明を的確な一言で済ませることができないのである。

　そして私の赴任先である東中学校は、名前から察する通り、発展から取り残され気味の市の東側に位置する中学校だ。全校生徒は全学年合わせて四百五十人ほどで、少子高齢化で廃校するのにあと何十年かかるか分からない人数を保持してはいる。お受験して行くような私立の中学校が近くにないのが理由なのか、転入生を除くすべての生徒が近くの小学校の卒業生だという。こう説明すると、小学校から何かと話を聞けるから生徒指導とかがスムーズにできるじゃないか、と考える人もいるだろう。残念なことに、東中と問題の小学校ではそんなやり取りは行われていない。それどころか、六年間で培った固い絆のせいで、どうクラス分けをしても仲良しグループで休み時間に集まったり、クラス全体で一致団結して先生をからかったりする生徒が一部発生してしまう。要はこの学校は、生徒がこちらの意図に反する行為をして、教師の威厳が損なわれやすいのだ。私自身、なんて学校に来てしまったのだと改めて感じてしまう。

　そして現在の私の自宅は、名古屋鉄道の無人駅、八幡新田駅の近くにあるワンルームのアパートだ。