イレブン

九十九光

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♯3ー5

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「分かりました! 分かりました! じゃあこうしましょう!」

 内田の胸ぐらをつかみかかろうとした小林先生を止めるように、私は視線を飛ばし合う二人の間柄に割って入った。

「内田はパソコン部に入れます! もう誰がなんと言おうと、これ以外認めません!」

「え? ちょっといいの、樋口先生? そんなこと勝手に決めちゃって」

「構いませんよ、天草先生。どうせうちの部活なんて、運動神経や性格の問題で運動部が無理な生徒のたまり場なんですから。そして内田は顔を出さなくても結構。真面目にやってきてワープロ検定受けるもよし、一度も来ないで幽霊部員になるもよし。好きにすればいい」

「待ちなさい、樋口先生。幽霊部員を許可なんて」

「問題ありませんよ、小林先生。うち、全学年合わせて十人以上幽霊部員がいるんですから。今さら一人増えるのがなんだって言うんですか」

 私は二人の指摘を無理矢理丸め込めると、デスクに置いてあった入部届の用紙に体を向け、自分で『パソコン部』『内田平治』と書き込んでやった。

「はい、これであんた、今日からパソコン部員だから、参加したければ明日から四階のパソコン室に来なさい。以上。今日はもう帰りなさい」

 私がその用紙を見せながら内田に宣言すると、彼は「分かりました。失礼します」とだけ言って、さっさと職員室から出ていった。

 そしてこんなめちゃくちゃな対応の仕方をすれば、私が上司から怒られるのは当然の話である。

「ちょっと、樋口先生。今のはなんですか」

 内田が職員室から出たのを確認すると、小林先生が私に詰め寄ってくる。そこからしばらく、詳細を説明するのも面倒な説教の時間が始まった。

 このくらいの時期になると、私の中から内田平治とまともにつき合う気力はなくなっていた。例えるなら、骨ばかりの魚をピンセットで丁寧に小骨を取ってまで食べる奴はいない、という感じだろう。人付き合いの仕方を知らないと社会に出た時に困るじゃないか、と思う人もいるかもしれない。だが、大した趣味もなく、仕事仲間との飲み会にも行かず、人付き合いの悪い冷たい先生扱いされているこんな私でさえ、教師という仕事ができているのだ。だから内田だって、ちゃんと大学まで行かせてやれば、普通に就職して普通に暮らしていけるはずだ。それが私の中での考えだった(ずいぶんと勝手な言い分である)。

 ところがこの東中のほかの教師陣は、どうしても内田から人懐っこさを感じさせられる
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