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♯3ー7
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ば)。この日の総会は年度の頭にやる総会というわけである。
私たち教師陣は、この日は部活動を一切行わせることなく、午後三時の帰りのホームルームの終了と同時に生徒たちを早急に帰宅させ、校長を除いた全員で体育館での会場設営を行う(傷つかないように床にゴムのマットを敷き、四百以上ものパイプ椅子を並べるのだ)。総会開始が一時間後なので、堤教頭の段取りの説明だけ聞くと、誰も何も言わずに作業に没頭するのである。
そして三時五十分頃。そんな無機質な時間が終わる頃には、各学区からやってきた保護者が会場内に入ってくる。私はほかの先生数人とともに、体育館下の階層、柔道や剣道を行う武道場正面の出入り口から入ってくる彼女たち(男が来てもいいのだが、大半は女性が来る)を出迎え、横にある階段を使って体育館に入るよう指示を出すのだ。こうしてやってくるのが大体五十人弱なのだから、なんのためにあんなに椅子を出したのか分からなくなる(すべての保護者が来てもいいようにするためなのだが)。
その案内作業中、一人の保護者が私に向かって、「本日はよろしくお願いします」以外の声をかけてきた。
「お世話になっております、樋口先生。内田平治の祖母です」
小走りで駆け寄りながら話しかけてきたのは、肉体的な容姿は約一か月前と変わりのない、内田信子さんだった。ほかの保護者はおとなしめを意識したカジュアルな服装だというのに、この人はいわゆるブラックフォーマルと呼ばれる喪服みたいな服装でやってきていた。周りの保護者より頭一つ年上なことも考慮すれば、どこから見ても目立ちそうだ。
「あ、ああ。ご無沙汰しております」
私もその場で頭を下げ、信子さんに挨拶する。あまりに不意なことだったから、思わず会話を断ち切ってしまった。
すぐに信子さんが私に質問をして、話を再開してくる。
「あの……。平治はどうでしょうか。皆さんにご迷惑をおかけしておりませんでしょうか」
彼女はものすごく心配そうな顔と声で尋ねてくるが、こんな質問どう答えろというのか。
雰囲気から察するに、内田は自分の祖父母と距離を置いているのだろう。そう予想してしまうと、「全然ですね。ディスコミュニケーションが原因で教師の一人を怒らせましたし、女子生徒を一人冷たく突き放しました」とは言いにくい。
「ま、まあ、まだ一か月しか経ってませんし、色々と期待するにはまだ早いでしょう。六月の上旬に家庭訪問がございますので、そこでゆっくりと話し合いましょう」
私たち教師陣は、この日は部活動を一切行わせることなく、午後三時の帰りのホームルームの終了と同時に生徒たちを早急に帰宅させ、校長を除いた全員で体育館での会場設営を行う(傷つかないように床にゴムのマットを敷き、四百以上ものパイプ椅子を並べるのだ)。総会開始が一時間後なので、堤教頭の段取りの説明だけ聞くと、誰も何も言わずに作業に没頭するのである。
そして三時五十分頃。そんな無機質な時間が終わる頃には、各学区からやってきた保護者が会場内に入ってくる。私はほかの先生数人とともに、体育館下の階層、柔道や剣道を行う武道場正面の出入り口から入ってくる彼女たち(男が来てもいいのだが、大半は女性が来る)を出迎え、横にある階段を使って体育館に入るよう指示を出すのだ。こうしてやってくるのが大体五十人弱なのだから、なんのためにあんなに椅子を出したのか分からなくなる(すべての保護者が来てもいいようにするためなのだが)。
その案内作業中、一人の保護者が私に向かって、「本日はよろしくお願いします」以外の声をかけてきた。
「お世話になっております、樋口先生。内田平治の祖母です」
小走りで駆け寄りながら話しかけてきたのは、肉体的な容姿は約一か月前と変わりのない、内田信子さんだった。ほかの保護者はおとなしめを意識したカジュアルな服装だというのに、この人はいわゆるブラックフォーマルと呼ばれる喪服みたいな服装でやってきていた。周りの保護者より頭一つ年上なことも考慮すれば、どこから見ても目立ちそうだ。
「あ、ああ。ご無沙汰しております」
私もその場で頭を下げ、信子さんに挨拶する。あまりに不意なことだったから、思わず会話を断ち切ってしまった。
すぐに信子さんが私に質問をして、話を再開してくる。
「あの……。平治はどうでしょうか。皆さんにご迷惑をおかけしておりませんでしょうか」
彼女はものすごく心配そうな顔と声で尋ねてくるが、こんな質問どう答えろというのか。
雰囲気から察するに、内田は自分の祖父母と距離を置いているのだろう。そう予想してしまうと、「全然ですね。ディスコミュニケーションが原因で教師の一人を怒らせましたし、女子生徒を一人冷たく突き放しました」とは言いにくい。
「ま、まあ、まだ一か月しか経ってませんし、色々と期待するにはまだ早いでしょう。六月の上旬に家庭訪問がございますので、そこでゆっくりと話し合いましょう」
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