イレブン

九十九光

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♯5ー9

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 そうして二時間目の授業、もといテストの返却のために、私は三年三組の教室に入った。

 すでに生徒は全員自分の席に座り、手元に教科書とテストの問題用紙を用意して待機している状態だった。相変わらず私のクラスとは比べ物にならないくらい、よくできた生徒の多いクラスだ。そこに二組がいつ学級崩壊認定されるか分からない状況とくれば、ここで副担任をしている佐藤先生が余計うらやましく思えてくる。

 その三組の教卓の上に持ってきた荷物を置こうとした時、私はすでにその上に乗っていた一枚のA3用紙に気がついた。今回の英語のテストの模範解答かと思ったが、それにしてはサイズがでかい。少しだけ見てみると、文章問題の全訳らしい長い日本語の文章が載っていた。どうやらこの問題を作った三島先生は、解答の解説プリントまで作って生徒に配ったらしかった。

「おーい。これ誰か忘れてないー?」

 私がそのプリントを持ち上げて教室内に呼びかけた。十秒ほど待っても名乗り出る者はいなかった。「三島先生が忘れていったんじゃありませんか?」という女子生徒の言葉を受けて、私はそのプリントを折って指導用の教科書の下敷きにした。

 こうして完全に静かになった教室内で、私の管轄のテストの返却が始まった。学年平均などを含めた総合成績の返却はまだ先だが、現時点でこの三組はパッと見た平均点より少し高めだった。授業態度もよければ成績もいいとか、ここを担当する新貝先生と佐藤先生が本当にうらやましい。半分ほど二組と生徒を交換してほしいくらいだ。

 私の真正面にある、教室後ろの黒板には、『今週の言葉 みんなちがってみんないい 金子みすゞ』と、週間予定の横のスペースに記載されている。二組ならあそこは『亜美のまんこチョー気持ちいい』とか、『セフレぼ集中! 山本博一』とか、大人の社会では冗談で済まされないような低俗な落書きが横行しているところだ。こんなところでもクラスの差を思い知らされると、やるせない気分にならざるを得ない。

 ここまで散々悪く言ってやった二組の生徒は、今は体育の授業で教室を空けていた。南側の校庭からは、「無駄口叩くんじゃない!」という小林先生の声が響き渡り、男の声はまったく聞こえなかった。どうやら男子は体育館か武道場で授業を行っているらしい。

 こうして何事も問題がないまま、三組での授業は終わってくれた。このあとは一時間挟んで二組の授業だが、もうこの時点で嫌気がさしてくる。テストの点は低いうえに、明らかに間違っている問題に難癖をつけ、お構いなしに内田平治にちょっかいを出すという未来がすぐに頭の中に思い浮かんだからだ。仮病を使って早退したくなる。
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