イレブン

九十九光

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♯8ー5

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こういう経験をしていない分、余計強く感じる)。

「空介君含めて……、彼らの何人かが、平治君へのいじめに関与していたという件は……」

「庵から聞いております。いじめの理由も含めて……」

 私の淡々とした質問に対して信子さんは、隣に座る内田同様、落ち着いた様子で答えてくれた(一言もしゃべらない内田のほうがずっと落ち着いているが)。年配で経験豊富ということもあり、私は彼女が松田や石井の母親のようにはならないだろうと考えていた。

 が、信子さんはその期待をあっさりと裏切ってきた。

「どうしてもっと親身になってくれないんですか!」

 少し間を開けて、信子さんはテーブルを両手で強く叩きながら身を乗り出してきた。

「え……? あ、その」

「平治に対するいじめを、解決してないのに解決したなんて嘘をついて! やっと原因が分かったかと思うと、その原因の松田さんには何にもおとがめなし! しかも私ともなんの話し合いの場も設けてくれない! こんなずさんな処置がどうして許されるんですか!」

 信子さんは二日前の松田母同様、怒り心頭という様子ではあったが、言っていることは限りなく正論だった。自分の孫へのいじめ問題がこんなにも適当に扱われたら、こういう反応と意見が出てしかるべきである。

「……。いじめた本人たちも、裏で糸を引いていた保護者の方も、一様に反省していらっしゃいますし……。何より、最近になってようやく、クラスのほかの生徒が平治君との距離を縮めるようになったんですよ。それで、今になって終わった話を大人が蒸し返すのは、生徒たちにとってよくないだろうという判断でございまして……」

 「校長先生が包み隠せと言いました」とは言えない私は、興奮気味の信子さんをでまかせで落ち着かせようと試みる。

それにしても、ここ最近はいつも体のいい嘘ばかり言っている気がしてならない。松田母は反省してないし、内田とほかの生徒の距離は学年主任が中心になって遠ざけようとしているところだ。嘘をつくと閻魔大王に舌を抜かれるとは聞くが、はたして私はそれで済むのだろうか。

「……。そうなんですね」

 信子さんが体を元に戻した。

「はい。ですので内田さんにも、ここは問題をこれ以上蒸し返すようなことを控えていただきたいと思います。平治君のためにも……」
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