イレブン

九十九光

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♯10ー1

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「こんにちはー。平治迎えに来ましたー」

 午後二時二十分頃。保健室のグラウンド側の出入り口から穣一さんが入ってきた。自分の孫が溺れたという事実を深刻に考えている様子がない、非常にフランクな挨拶だった。

「お待ちしてました。こちらです、どうぞ。……。あ、下足はそちらでお脱ぎに……」

 保健室の大野先生が、やってきた穣一さんを一度止めてから室内に入れた。

 内田がプールサイドに引き上げられた後、授業は担当二人によって予定通り進められ、内田の搬送は私と三島先生で行われた。彼は大事を取って早退することが決まり、大急ぎで服と荷物をここに持ってきて、うちに連絡を入れて迎えを呼んだというわけである。

「内田、おじいさん来たよ。着替え終わった?」

 ベッドを隠すカーテンの前に立つ私は、向こう側で制服に着替えている内田に声をかける。すると向こう側から、「今終わりました」という声が聞こえ、それに続いてカーテンが開けられた。

「ああ、結構元気そうじゃないですか」

 穣一さんの言う通り、白いワイシャツの夏服姿に戻っている内田は、何事もなかったかのような姿勢と顔で立っていた。見た目だけならこのまま授業を受けることができそうな感じがするが、本人の強がりが明らかな以上、早退をすることに変わりはない。

「意識もしっかりしてますし、そんなに水を飲んではいないと思いますが、必ず内科のお医者さんに診せるようにお願いします」

 大野先生の言葉に、「はい、分かりましたー」と、穣一さんが緊張感のない返事を返す。するとすぐに内田は私が持っていた荷物をひったくり、さっさと屋内側の出入り口から出ていった。

「本日は本当に申し訳ございませんでした」

「いいですよ、別に。本人も元気そうじゃないですか」

 私が儀式的に頭を下げると、穣一さんはニコニコしながら返答する。

 この人が内田の心の傷に関して深く考えていないのは、誰の目に見ても明らかだった。奥さんの信子さんとは百八十度違う対応の仕方である。

「お分かりだとは思いますが、平治君、表面上の振る舞いと違って、震災で見た光景がトラウマになっているようなんです。ケアをしろとまでは言いませんが、ご家庭でも気にかけて
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