イレブン

九十九光

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♯10ー7

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ですか。しかも一つは、保護者が裏で糸を引いていたことが生徒にも知れている。家に行って怒ったところで、何も変わらないと私は思うんですけども……」

「そんな言い方ないだろ、佐藤君!」

 頭を押さえて意見を述べる佐藤先生に、勢い余って『君』づけになった新貝先生が声を上げた。

「これから問題解決って時に水を差すようなこと……! 自分が二組の担任じゃないからってまるで他人事みたいに」

「私も佐藤先生と同意見です」

 新貝先生の言葉を遮ったのは、深沢先生だった。

「子供は理由なくふざけない。面白いことがないから、気に入らないことがあるからふざけるのよ。たった一回の家庭訪問でなんとかなるほど、この問題は単純じゃないわ」

 深沢先生の言葉には貫禄があった。あと二年で定年退職というところまできた先生の面目躍如というべきか、この状況に対して冷静に見ているようにも感じられた。

 小林先生が口論の総括を述べた。

「すでに決まったことを今さら撤回するのは、保護者の方々にかえって迷惑ですし、何もしないわけにはいきません。家庭訪問は予定通り行いますので、何か進展がありましたら連絡します」

 この身もふたもない話を最後に、臨時職員会議は十分かからずにお開きになった。

 さっそく私と小林先生が、各家庭での質問内容の最後の擦り合わせを行っている時。天草先生は湯気の立つマグカップを二つ持って、私たちに向かってこう言った。

「まるでドラマみたいですね。今期の三年生。……。うちのクラスも、最近よく騒ぐようになったって感じるんですよ」

 そして六月十八日の土曜日の午前七時半。私は珍しく、休みの日に東中の校門をくぐった。

 中学校教師という仕事は、私のようにルーズな文化部の顧問でもない限り、土日返上で部活動の指導をするのが当たり前である。そこに遠征の交通費や宿泊費の一部を自腹しないといけないとくるのだから、民間企業なら労働基準法違反で訴えられるほどの劣悪な環境だ。職員用の玄関でもある校舎西側の昇降口の前でランニングする野球部員の監督をしている佐藤先生を見ていると、自分がパソコン部の顧問で本当によかったと心底思う。

 職員室で合流してから、私と小林先生は「おはようございます」などの儀式的な挨拶を交わしただけで、それ以上の会話はしなかった。お互い心身ともに疲れている証拠だ。実際、
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