イレブン

九十九光

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♯10ー9

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「うちの亮太が申し訳ありませんでしたぁ!」

 横に自営の大工であることを示す倉庫と軽トラックがある家の玄関に入ってすぐ、原田を連れてきた坊主頭の原田父が土下座した。私たちがすぐに顔を上げるように言うが、この熱血漢という感じのお父さんは一歩も引かない。

「何度言いつけても……! 何度言いつけてもちっとも言うことを聞かなくて……! 月曜の病欠が仮病だと分かると! 今度は連日学校に行くふりをしてどこかに出かけてるようになったんです! おまけに何を言ってもなんとも答えないし……! 今日も無理矢理家に閉じ込めて一歩も外に出さないようにしたんです……! 私にはこれが限界です! できることならなんでもしますのでどうか助けてくださぁい!」

 号泣しながらこっちが聞きたいことのほとんどを答えた父親の横で、原田本人は冷めた表情で蛍光灯の光を反射する父親の後頭部を見下ろしていた。唯一の例外も生徒は決して例外ではなく、私たちがいる間、原田本人は一言も言葉を発しなかった。

 と、こんな具合にこの日一日十四人の生徒の家で確認を取ったところ、すべての生徒が共通した行動を取っていたことが判明した。

 まず、無断欠席が判明する前は、全員が学校に行くふりをして家を出て、こちらとの情報交換でサボりがバレたあとは、家族全員が寝静まっている時に出かけて夜遅くになってようやく帰ってくるという生活にシフトしていた。中には玄関前の監視を気にしてか、二階にある自室のベランダから隣の家の屋根やの前の電柱に飛び移るなどして家から出ている男子生徒もいたほどだった。そしてどの生徒も、こちらが何を聞いてもうんともすんとも答えないという始末。

「これ、絶対裏で誰かが糸を引いてますよね……」

 午後四時頃、原田家を後にして、東中の東側の校門沿いを南北に進む片側一車線の道路に向かって車を進めながら、私は助手席に座る小林先生に言った。

「……。そうね」

「ここまででかいことはやったことはなかったですけど、湯本か品川でしょうかね」

「……。そうね」

「だってあの二人、全員で寝たふりしようとか、いつも生徒の中心になってるじゃないですか」

「……」

「聞いてます? 先生」
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