イレブン

九十九光

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♯14ー9

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めた。十秒ほどで書かれたその内容は、いわゆるカンペという形ですぐに私たちに公表された。

『お兄さんの性格や思い出』

 真栄田さんはカメラ目線になってそれを確認すると、石井母に対する同情の相槌をやめることなく話を切り出した。

「優しいお兄さんだったんですね……」

「はい……」

「印象深い思い出とかってありますか……」

 まだ涙をぬぐっている真栄田さんのこの質問に、石井母は幼少期の頃の話をし始めた。

 なるほど、うまいこと色々な話題を引き出すものだな。この時の私は心の中でそう感心していた。

 このまま石井母の好きなように話を続けさせると、お兄さんが風評被害で自殺した話しかしなさそうな勢いだった。それを阻止するためにADは即興で指示を出し、真栄田さんは自然な流れでその通りの答えを引きずり出す。まさにプロの仕事である。

 だが実際は、非常に裏のある話だった。

 この撮影班のとっさのアクションの理由は、石井母の話のあとのトイレ休憩の時に分かった。私が会館内のトイレの個室から出てきた時、長谷川さんと一人の男性ADのこんな話が耳に入ってきた。

「さっきの石井さんの話、使えますかね、長谷川さん」

「メディアが報じてないニュースだからな……。上がなんて言うか……」

「お兄さんの話をさせてはみましたが……。どうでしょうかね?」

「難しいだろうな。喜多方で震災被害がそこまで出てない以上、どう編集しても震災被害者っていう話と矛盾する」

 どうやらあの指示はもみ消しの一環だったらしい。風評被害で死人が出たという、どこのテレビ局も扱っていないニュースを一バラエティ番組で扱うわけにはいかず、仕方なくそれっぽい話に編集するための材料を作るための策だったのである。

 私は、どこの世界も上司には敵わないのだなと思いながら通路に出て、突き当りで会話していた二人に会釈してその場を後にした。

 そしてインタビューは次に、相変わらず無表情な内田平治に焦点を当てた。全員が定位置に座り、カメラが回ると、早速真栄田さんが言葉を投げかける。
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