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♯19ー4
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口に向かったのは私ではない。私と一緒に来た男子生徒だった。
彼は鍵のかかった小屋の出入り口を躊躇なくノックした。当然そうなれば、中にいる人間は眠い目を擦りながら出てくるに決まっている。
「はい……」
一か月と数週間ぶりに見た内田平治は、寝癖の激しいボサボサの頭をしていた。この仮設住宅のような小屋からほとんど出ていない証拠である。
そんな彼の目の前には、黒い学ラン姿のウサギが立っている。正確には、ついこの間名古屋のドン・キホーテまで行ってわざわざ買ってきたピンクのウサギの被り物をした、彼のクラスメイトである。
いかにも状況が呑み込めないという塩梅の内田に、のどにくる風邪をひいた女性のような声でウサギが話しかける。
「君が、内田平治君だね? さあ! 制服に着替えて、僕と一緒に東中学校に」
「何やってるんですか、小暮さん。」
突然内田に名指しされたウサギの中身がセリフを中断した。次に動揺しているのはどうやらウサギのほうである。
小暮はしばらく考えたのち、安物の被り物を脱ぎ捨ててこう続けた。
「あー……。とりあえずさ、いいから学校行こ」
「なんだ、この子。地声がもとから高いのか」
横で二人のやり取りを見ていた穣一さんが空気を読まずに感想を述べた。またしても小暮がセリフを止めてしまう(文章ではなんとも伝わりにくい状況である)。私はよくやったと思った。あまりしゃべらない原因になるほど気にしている地声なのに、それで和やかな雰囲気を作りに行こうとしたのだから。
私は固まってしまった空気を元に戻すため、小暮と交代して内田に声をかけた。
「内田。今日は学校来ないか? 学校祭だからいつもとは全然違う雰囲気だし、大丈夫だって」
内田はすぐに答えを言わなかった。明らかに先月頭の事件がトラウマになり、人への恐怖心が戻ってきている様子だった。このまま放っておくと、真っ暗な小屋の中へと消えていきそうだ。
ここで言葉をかけたのは、やはり天然ボケの強い穣一さんだった。
「いいから行ったらどうだ、平治? お友達もここまでしてくれたことだしさ」
彼は鍵のかかった小屋の出入り口を躊躇なくノックした。当然そうなれば、中にいる人間は眠い目を擦りながら出てくるに決まっている。
「はい……」
一か月と数週間ぶりに見た内田平治は、寝癖の激しいボサボサの頭をしていた。この仮設住宅のような小屋からほとんど出ていない証拠である。
そんな彼の目の前には、黒い学ラン姿のウサギが立っている。正確には、ついこの間名古屋のドン・キホーテまで行ってわざわざ買ってきたピンクのウサギの被り物をした、彼のクラスメイトである。
いかにも状況が呑み込めないという塩梅の内田に、のどにくる風邪をひいた女性のような声でウサギが話しかける。
「君が、内田平治君だね? さあ! 制服に着替えて、僕と一緒に東中学校に」
「何やってるんですか、小暮さん。」
突然内田に名指しされたウサギの中身がセリフを中断した。次に動揺しているのはどうやらウサギのほうである。
小暮はしばらく考えたのち、安物の被り物を脱ぎ捨ててこう続けた。
「あー……。とりあえずさ、いいから学校行こ」
「なんだ、この子。地声がもとから高いのか」
横で二人のやり取りを見ていた穣一さんが空気を読まずに感想を述べた。またしても小暮がセリフを止めてしまう(文章ではなんとも伝わりにくい状況である)。私はよくやったと思った。あまりしゃべらない原因になるほど気にしている地声なのに、それで和やかな雰囲気を作りに行こうとしたのだから。
私は固まってしまった空気を元に戻すため、小暮と交代して内田に声をかけた。
「内田。今日は学校来ないか? 学校祭だからいつもとは全然違う雰囲気だし、大丈夫だって」
内田はすぐに答えを言わなかった。明らかに先月頭の事件がトラウマになり、人への恐怖心が戻ってきている様子だった。このまま放っておくと、真っ暗な小屋の中へと消えていきそうだ。
ここで言葉をかけたのは、やはり天然ボケの強い穣一さんだった。
「いいから行ったらどうだ、平治? お友達もここまでしてくれたことだしさ」
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