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第2章 いじめ問題。
第9話 未来視を使った復讐劇。
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□■□
日は進んで進んで、月曜日。
襲撃を予知したぼくは、決められた場所に安藤くんを誘導。周囲をキョロキョロと見渡す挙動を見せる奴らをノートにリストアップしていく。
「あっ、先生~こんにちはー!」
「おう、天海か。そうだ、プリンと運ぶの手伝って欲しいんだが……男手も欲しいな」
「じゃあ、彼にお願いしようかな~」
すかさず先生を誘導。向こうの要求すら織り込み済みで、見張りの一人を強制的に排除。ついでに更に数人を巻き込む。
「力持ちの男の子、追加募集中だよー!」
「ほら、天海を手伝ってくれる奴いねぇのか? 男ならビシッと俺がやりますくらい言っておけよ!」
「あ、君手伝って。お願い? ね、いいよね?」
手を合わせて、あざとく上目遣い。先生の前、お膳立ては完璧だ。断れない雰囲気を敢えて作り出す。
「……っ」
見張りの一人が逃げる。大方予想通りの挙動に、死角にいて姿は見えないながらも、ぼくと結愛は同時にほくそ笑む。
「あ、安藤さん。ヤバイっす、先生に数人連れて行かれちまって。ちょっとここは離れた方がいいかも」
「ああん? 俺の意見に逆らった奴のか、そいつらは」
殴られる寸前だったぼくは、安藤くんから解放される。
へなっと力なく座り込む。
ふ、ふう……第一段階クリア。
「今度は他の人が吊るし上げられちゃう。彼のヘイトが散った分、今までより慎重に、今度は二人で証拠を集めよう」
他の人に少しだけ囮になってもらう事になる。
取り巻きの奴らも、ちょっとだけ痛い目を見るだろう。
なに、心配する事は無い。全部終わればすぐ楽になれる。ほんの数日、役割を交代するだけなのだから。
「俺の命令に逆らうってのがどういう事か教えてやるよ」
「ち、違うんだ、聞いてくれ。俺は先生に言われて仕方なく」
ドカッ。鈍鈍しい、音だ。あぁ、嫌になるね。
取り巻きが減った分、見張りが手薄になる。
パシャリ。写真を撮る。もちろん消音カメラで。
「楽しそうだね」
「うん。張り込み調査みたいでワクワクしちゃう」
後から聞いた話、結愛が見た未来は、計画が上手くいく様子ではなくて、二人で証拠集めする様子を映した物だったらしい。
変な話だ、普通は上手く写真が撮れて喜ぶ場面だろうに。
現場証拠はこのくらいでいいだろう。
後は、物品だろう。
「ところで次体育よね。安藤くんとは合同授業?」
「う、うん……」
「ならポケットからタバコ盗み出しておいて」
「無理ゲーすぎるよ」
なんだってそんな事を。
確かに使ってるところを押さえるのは難しいし、先の一件で警戒もしているはずだ。だからって態々ポケットに入ってるのを盗むなんて。いくら何でもリスキーすぎるって。
「大丈夫。私に秘策があるから」
勝利の道筋でも出来たのか。何手先をも読み通す女流棋士の如き、精悍たる様である。
「絶対に上手くいくから」
こう彼女が言うのには理由がある。彼女は思考し、計画を練る毎に、最高の未来を"視て"いるのだ。ぼくのとは違う未来視は、彼女の計画を確定づける最高の相棒なのだ。
体育の時間。ボールを突き合うサッカーなる競技の、一体何がそこまで皆を熱くするのか。隣のコートでソフトボールをしていた結愛がひっそりとぼくに目線を送る。
はいはい、やりますよ。やりゃいいんでしょ。
「あいたたた……先生、お腹が痛いのでトイレにっ」
「そうか。無理するなよ」
さすが令和の教育方針。ダメと言わない辺り、随分緩くなったなと昭和生まれの親世代に、半分面白くない目で見られるのだ。
さて。某小学生探偵のトイレダッシュとそう変わらない足さばきで、颯爽とトイレを通り過ぎ、その足で更衣室へと向かった。体育は服を着替えるから、奪うのは容易ってね。
更衣室を開ける。
「って鍵かかってんだわ」
「はい。鍵」
「え、って……結愛!?」
結愛もどうやら抜け出してきたらしい。
「鍵は纏めて私が管理してるの。一番信頼があるからって」
「一番の信頼を軽々裏切るの怖いよ」
事前に、安藤くんがどの辺で着替えていたのかは把握済みだ。ポケットの膨らみを確認、入っている。タバコだ。
普段から持ち歩くとは不用心な。
こうして悪いお兄さんがイタズラしちゃうぞ。
「終わった?」
「うん。早く戻ろう」
「タバコ貸しといて。後で仕掛けておくから」
「何するのか怖いけど分かったよ」
カモフラージュで、手を濡らしていかにもトイレから出てきましたよという体でグラウンドに戻る。
さて、と。結愛は何をしてくれるのかね。
次の日。終礼。
授業が終わると、何やら物々しい顔で隣の教室の担任がドアを開けてこちらにやってきた。
「えー、今日の昼過ぎ。教室にこんな物が見つかりました」
あ。安藤くんから盗んだやつだ。
だが妙だ。なんで、昨日盗んだのに今日発見なんだ?
結愛の言う仕掛けとはこの事だろうけど、見えない意図を感じる。結愛に一瞥すると、澄ました顔でふんっと鼻を鳴らした。
「心当たりのある者は?」
「お言葉ですが先生。隣のクラスから出てきたならば、隣のクラスの生徒が実際に使用した物なのではありませんか」
結愛が当然の反論を主張する。
「勿論、私だって私の担当する生徒が喫煙していたなんて考えたくない。だから聞いたんだ。これを使った者は正直に手を上げろと。だが、彼らは手を上げる事はなかった。なので私は一応信じてみる事にして、こちらのクラスにお邪魔させてもらったんだ」
ふむ。よく見る光景だ。
これが既に泳がせているのか分からないにせよ、一旦は全員を平等に疑ってかかるという行為。普通は隣のクラスで落ちていた物を、わざわざここの生徒の仕業と考えるのは不自然だ。
しかしよく考えてみれば、使用後隣のクラスに投げ込み、わざと撹乱する目的で落とした可能性も考えたという訳か。
実はそれが本当の正解で、犯人は結愛だ。
結愛が隣のクラスにタバコを落としてきた。
でも使用者は結愛ではなく、安藤くんだ。
これは揺さぶり、安藤くんへの挑戦状か。
日は進んで進んで、月曜日。
襲撃を予知したぼくは、決められた場所に安藤くんを誘導。周囲をキョロキョロと見渡す挙動を見せる奴らをノートにリストアップしていく。
「あっ、先生~こんにちはー!」
「おう、天海か。そうだ、プリンと運ぶの手伝って欲しいんだが……男手も欲しいな」
「じゃあ、彼にお願いしようかな~」
すかさず先生を誘導。向こうの要求すら織り込み済みで、見張りの一人を強制的に排除。ついでに更に数人を巻き込む。
「力持ちの男の子、追加募集中だよー!」
「ほら、天海を手伝ってくれる奴いねぇのか? 男ならビシッと俺がやりますくらい言っておけよ!」
「あ、君手伝って。お願い? ね、いいよね?」
手を合わせて、あざとく上目遣い。先生の前、お膳立ては完璧だ。断れない雰囲気を敢えて作り出す。
「……っ」
見張りの一人が逃げる。大方予想通りの挙動に、死角にいて姿は見えないながらも、ぼくと結愛は同時にほくそ笑む。
「あ、安藤さん。ヤバイっす、先生に数人連れて行かれちまって。ちょっとここは離れた方がいいかも」
「ああん? 俺の意見に逆らった奴のか、そいつらは」
殴られる寸前だったぼくは、安藤くんから解放される。
へなっと力なく座り込む。
ふ、ふう……第一段階クリア。
「今度は他の人が吊るし上げられちゃう。彼のヘイトが散った分、今までより慎重に、今度は二人で証拠を集めよう」
他の人に少しだけ囮になってもらう事になる。
取り巻きの奴らも、ちょっとだけ痛い目を見るだろう。
なに、心配する事は無い。全部終わればすぐ楽になれる。ほんの数日、役割を交代するだけなのだから。
「俺の命令に逆らうってのがどういう事か教えてやるよ」
「ち、違うんだ、聞いてくれ。俺は先生に言われて仕方なく」
ドカッ。鈍鈍しい、音だ。あぁ、嫌になるね。
取り巻きが減った分、見張りが手薄になる。
パシャリ。写真を撮る。もちろん消音カメラで。
「楽しそうだね」
「うん。張り込み調査みたいでワクワクしちゃう」
後から聞いた話、結愛が見た未来は、計画が上手くいく様子ではなくて、二人で証拠集めする様子を映した物だったらしい。
変な話だ、普通は上手く写真が撮れて喜ぶ場面だろうに。
現場証拠はこのくらいでいいだろう。
後は、物品だろう。
「ところで次体育よね。安藤くんとは合同授業?」
「う、うん……」
「ならポケットからタバコ盗み出しておいて」
「無理ゲーすぎるよ」
なんだってそんな事を。
確かに使ってるところを押さえるのは難しいし、先の一件で警戒もしているはずだ。だからって態々ポケットに入ってるのを盗むなんて。いくら何でもリスキーすぎるって。
「大丈夫。私に秘策があるから」
勝利の道筋でも出来たのか。何手先をも読み通す女流棋士の如き、精悍たる様である。
「絶対に上手くいくから」
こう彼女が言うのには理由がある。彼女は思考し、計画を練る毎に、最高の未来を"視て"いるのだ。ぼくのとは違う未来視は、彼女の計画を確定づける最高の相棒なのだ。
体育の時間。ボールを突き合うサッカーなる競技の、一体何がそこまで皆を熱くするのか。隣のコートでソフトボールをしていた結愛がひっそりとぼくに目線を送る。
はいはい、やりますよ。やりゃいいんでしょ。
「あいたたた……先生、お腹が痛いのでトイレにっ」
「そうか。無理するなよ」
さすが令和の教育方針。ダメと言わない辺り、随分緩くなったなと昭和生まれの親世代に、半分面白くない目で見られるのだ。
さて。某小学生探偵のトイレダッシュとそう変わらない足さばきで、颯爽とトイレを通り過ぎ、その足で更衣室へと向かった。体育は服を着替えるから、奪うのは容易ってね。
更衣室を開ける。
「って鍵かかってんだわ」
「はい。鍵」
「え、って……結愛!?」
結愛もどうやら抜け出してきたらしい。
「鍵は纏めて私が管理してるの。一番信頼があるからって」
「一番の信頼を軽々裏切るの怖いよ」
事前に、安藤くんがどの辺で着替えていたのかは把握済みだ。ポケットの膨らみを確認、入っている。タバコだ。
普段から持ち歩くとは不用心な。
こうして悪いお兄さんがイタズラしちゃうぞ。
「終わった?」
「うん。早く戻ろう」
「タバコ貸しといて。後で仕掛けておくから」
「何するのか怖いけど分かったよ」
カモフラージュで、手を濡らしていかにもトイレから出てきましたよという体でグラウンドに戻る。
さて、と。結愛は何をしてくれるのかね。
次の日。終礼。
授業が終わると、何やら物々しい顔で隣の教室の担任がドアを開けてこちらにやってきた。
「えー、今日の昼過ぎ。教室にこんな物が見つかりました」
あ。安藤くんから盗んだやつだ。
だが妙だ。なんで、昨日盗んだのに今日発見なんだ?
結愛の言う仕掛けとはこの事だろうけど、見えない意図を感じる。結愛に一瞥すると、澄ました顔でふんっと鼻を鳴らした。
「心当たりのある者は?」
「お言葉ですが先生。隣のクラスから出てきたならば、隣のクラスの生徒が実際に使用した物なのではありませんか」
結愛が当然の反論を主張する。
「勿論、私だって私の担当する生徒が喫煙していたなんて考えたくない。だから聞いたんだ。これを使った者は正直に手を上げろと。だが、彼らは手を上げる事はなかった。なので私は一応信じてみる事にして、こちらのクラスにお邪魔させてもらったんだ」
ふむ。よく見る光景だ。
これが既に泳がせているのか分からないにせよ、一旦は全員を平等に疑ってかかるという行為。普通は隣のクラスで落ちていた物を、わざわざここの生徒の仕業と考えるのは不自然だ。
しかしよく考えてみれば、使用後隣のクラスに投げ込み、わざと撹乱する目的で落とした可能性も考えたという訳か。
実はそれが本当の正解で、犯人は結愛だ。
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