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第2章 異世界攻略編
第36話 階層主の攻略法。
しおりを挟むボス戦攻略から三十分が経過した。
全身が疲弊し、心臓が痛み、肺が燃え尽きそうになりながら、何度も何度も攻撃をいなし、躱し、防ぐ防戦一方な戦局に、再び「全滅」の文字がちらつき始める。
四肢も流石に全ての攻撃をいなしきれず、負傷も増す一方。回復薬も底を尽きかけている。
「てか、クレアはどこ行った?」
「あれ、さっきまでこの辺に」
クレアがいなくなった。
ボス部屋から、攻略中誰も逃げられない。
生きるか死ぬかの世界だ。
彼女は何を考えている。
この絶望的な状況を覆す一手が……
「うりゃぁああああ!!」
あるっていうのか!
ドコォンッ!!!
まるで砲声のような鋭い轟音が巻き起こる。
『世界樹霊魔』の上体が傾いた。
「えっ」
クレアさん?
なんで平然と懐に入ってんの??
「やった~作戦成功っ!」
はて。
俺はいつからアトラクションゲームをしていたのだろうか。彼女はまるで命を懸けていると感じさせない天真爛漫な素振りで、意気揚々と武器を持ち、そして軽々とダメージを与えてしまった。
冒険者に憧れる鍛冶職の少女クレア。
この場にいる誰よりも優秀なのであった。
「ど、どうやってそこに!?」
「へ、壁を登ったんですよ?」
壁を……登る?
俺は呆然としながらも壁面を見る。
蔦が巻きついた壁面。その一本一本は、確かに足がかけられそうな丈夫さにも見える。陽動として前方に攻撃を集中させ、その隙に本命の一撃を、壁面の上部から叩き付ける。
「まさか……これが正規の攻略法なのか!?」
俺はルナと目を見合わせる。
ルナは一度大きく頷いた。
「よし、反撃返しだァ!」
皆の顔に生気が戻る。
シャルとノエルは残存魔力を紡ぎ始める。
「ノエル、合図と同時に光を焚け!」
「おねーさんに任せてっ。魔法───」
ルナと俺は同時に両側の壁に寄る。
「今だ!」
「『明星』ッッ!!!」
『インサニア』に付与された『狂気』と『突撃』の力で強引に壁をよじ登る。ボス部屋の天井はかなり高く、あれだけ凶暴であれだけ高身長に思えた『世界樹霊魔』も容易く攻撃が入りそうだった。
蔦に守られたその本体は、思った以上に柔らかそうだ。クレアが与えたダメージ箇所も今なら鮮明に追える。
「行くぞ、ルナッ」
「はい、主っ!!!」
空中にダイブして剣を翳す。
俺が跳躍した瞬間、前方で大規模な爆発が起きた。
シャルとノエルがヘイトを買ったんだ。
ナイスアシスト……これが一年という月日修練を重ねた者の息の合わせ方か!?
「「はぁあぁああああッッ!!!」」
ザンッ!!!
重力の力も合わせた全力の斬撃。
緑色の液体を全身に被った。
完璧な一撃が入った。
よし、もう一押し……と行きたいところだが。
「ルナ、離脱だ」
「分かりました。ほら、クレアさんもっ」
攻撃パターンが変わる時は離脱。
一階層で得た知識はちゃんと覚えていたらしい。
ボケっとしたクレアの手を取り三人で離脱。
「やったね、ルナちゃん、クレアちゃんっ」
「ん。お手柄」
「わぁーい、なんか褒められましたっ!」
クレアがご機嫌なのでなんかどうでも良くなった。
「さて、どう出てくる」
『世界樹霊魔』は───。
ウォォォンン……
「鳴いてる?」
「きゃっ、地面がまた揺れて……!?」
奴が立っていた地面に亀裂が走る。
地面が隆起し、更に高さが増えた。
メキメキ……と背中から根のような物が生えた。
そして一度、大きくそれが振るわれる。
ゴォッッ!!
「な、なんなんだ……!」
砂塵に目を潰される。
顔を庇いながら薄目で状況を確認した。
「嘘だろ……おい」
次の瞬間、『世界樹霊魔』は空を飛んだ。
さっきまでの攻略法が通用しない。
「くそっ、なら撃ち落とすまでだ!」
俺の中に残る魔力も絞り尽くす。
「『火球』、『火球』、『火球』ァァッ」
羽に向けて炎を放つ。
───『魔法(火)』F。熟練度上昇しました。
・魔法を百回撃つ(100/100)達成。
【報酬SP10・魔法熟練度+10】
ミッション……このタイミングで!?
「レイ。多分普通の魔法じゃ無理」
乱発はよせ、と首を振るノエル。
しかし言い方には含みがあった。
「複合魔法なら、いけるんだな」
ノエルは無言で頷いた。
「蔦の攻撃も今なら来ていない。チャンスだよ」
シャルも意図する事を理解したらしい。
全ての魔力を手に収束させた。
「クレア。最後の出番だ」
「わっ、何ですか、何ですかっ!」
「───今から死ぬ気で俺達を守れ」
蔦の連撃が始まる。
クレアはその絶望にふっ、と一笑した。
バッグから槌と槍を同時に取り出す。
「スキル【獅子奮迅】」
ビリビリと空気が震える。
クレアが小さく息を吐いた。
「お父さんが見た景色、クレアも見れますか?」
「愚問だな、俺を誰だと思っている?」
俺は一度決めた事は責任をもってやり抜くタイプだ。
クレアの願いを叶える為にここに連れて来た。
「当たり前だろ。今から瞬き一つすんじゃねぇぞ」
クレアが交戦に入った。
俺はシャル、ルナはノエルと抱き合う。
魔法を紡ぎ、意識を集中させる。
同属性の複合魔法だ。
クレアは全力で攻撃を防いでいる。スキル『硬化』と『受け流し』を使って、身体を賭してまで俺達にほんの僅かにも攻撃を来させまいと。
ならば俺は、その決意に応えるとしよう。
『蓄積』によって魔力が収束する。
今の俺は、より高位の魔法が使えるようになった。
シャルの得意魔法『灼熱』、それをふたつ掛け合わせてより高度な魔法を生み出す。
「こうしてくっ付いてると、ドキドキするね」
シャルの頬が赤く染まっているのは、炎に照らされているからか。心做しか心臓の鼓動が早い。
シャルの胸が、押し潰されるくらい俺に密着する。
「ありがとう、レイくん」
「礼を言うのはまだ早いぞ」
「何それ、ダジャレのつもり?」
「ふはは、あまりに高度なギャグで気付かなかったぜ」
巨大な炎の塊が頭上に巻き起こる。
ルナ達も準備が出来たようだ。
「じゃあ行くぞ」
息を合わせる。
目標、『世界樹霊魔』の羽!
「「魔法【灼熱の業火】ッ」」
「「魔法【雷撃の極光】ッ」」
視界が真っ白になる程の強烈な一撃。
迫り来る蔦を全焼させ、さらには羽を粉砕する一撃。
魔力を消耗し、全員片膝を付いて見守る。
どうなった、敵は倒れたのか……?
ウォォォン……ウォォォンン……
「まだか……?」
「レイさん、あと一撃必要みたいです」
ボロボロになったクレアが敵を指さした。
羽をもがれ地上に落ちた。
だが、絶命には至っていない。
蔦が地下から這い上がってくる。
炎を逃れた残存する蔦が密集する。
「レイさん、まだいけますか……?」
クレアめ。やはりお前は体力お化けだ。
この状況でまだ俺を使う気か。
「ルナ、起きろ」
「つ、使い勝手が荒い主は嫌ですね……」
剣を地面に突き刺しながら起き上がる。
四肢が震えて立っているのもやっとの様子だった。
「では、主にご褒美を要求します……」
「ほ、ほう? 何だ。何が望みだ」
「主への、命令、権……一つだけ言う事を聞いて下さい」
主へ命令か。面白い事を言う奴だ。
「分かった、それでいい……」
正直、もう話すのも辛いくらいだ。
ただ、クレアの手前、ここで諦める訳にもいかない。クレアが憧れた冒険者としての矜恃だ。
こいつの前でくらい、輝いてやるよ。
「ルナ、剣を貸せ」
「えっと……それは」
「ロングソードの方だ、余ってるだろ」
ルナのお古を借りた。
この局面で最後に使う事になるとはな。
「クレア。お前は俺達の後ろに付いてこい。あの魔物の傍にまで連れて行ってやるよ」
「ほ、本当ですかっ……でも身体はもう───」
「うるせーな。お前も大して変わらんだろ」
さあ、攻略を始めようか。
取得スキル:《二刀流》
消費スキル:『剣術』『加速』『回避』『疾走』
消費SP:70
統合。
名前:レイ レベル:12
HP108/330 MP98/190
称号:【鬼狩り】
ギルド:《北極星》
ユニークスキル:【魅力支配】
EXスキル:《鑑識眼》D《演算領域》F《二刀流》F
スキル:『言語理解』D『交渉術』E『礼儀作法』F『挑発』F『料理』G『幻惑』F『隠密行動』G『体術』G『先見』G『火魔法』F『蓄積』G『麻痺耐性』G『痛覚耐性』G
所持SP:25
「EXスキル《二刀流》発動」
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