追放された冒険者を案内する『追放処理班』のギルド職員、裏で『ざまぁ代行屋』と呼ばれていた件。〜お望みのざまぁプランはこちらですか?〜

TGI:yuzu

文字の大きさ
22 / 40
case3 異国日本からの転移者

可愛くて強くてえっちな奴隷。

しおりを挟む
「奥山君が……追放!?」

 同級生の奥山という男は、奏と同じく追放された。
 原因は恐らく実力の相違という極めて単純な理由。あるいはパーティーの空気に馴染まなかった等が考えられるが、実際は聞いてみないと分からない。

 服装は一部が破れたりしていたが、あれは奏と同じ高校の制服だ。上は白のカッターシャツに足首まである長ズボン。戦闘でもしたのか随分と消耗している。

 見た目は所謂オタクっぽかった。男にしてはやや長い髪に、丸眼鏡。身体の線は細く、お世辞にも戦闘慣れしている様には見えない。

 俺は奏に目配せする。
 カウンターの陰に入って出てくる様子はない。

「(会わなくていいのか)」

「(うん……理由は後で話す)」

 何か事情があるらしい。
 さて、『追放処理班』の業務を始めよう。

「こちらへどうぞ」

「に、日本語……!」

 冒険者ギルド職員は語学にも長けている。
 そういう事にしておこう。



 個室へと案内し、話を伺う事にした。
 日本人の存在は、この世界では珍しくない。俺は前もって説明した。

「そうか。日本語を知っている所をみるに大体事情は察してくれるだろう、僕は異世界から召喚された日本人なんだ」

 訥々と、当時の状況を思い出しつつ語り始めた。

「その際に特典が貰えた。『恩恵スキル』っていう特別な能力さ」

 女神の働きかけに依るものだな。理解を示す様に頷く。

「だけど、一人だけ貰えない女子がいて……その子は追放された、追放したのは国だ。そのせいで、剣崎って男がキレた。カースト上位の陽キャさ。今まで見た事のない顔だったな」

 ベルトを緩め、カッターシャツを上に捲ると、腹のあたりに横一文字の青あざが出来ていた。強烈な威力で殴られたのだろう。衝撃は想像に絶する。

「それは?」

「腹いせに僕が標的になった。代わりにお前が追放されるべきだったとな」

 酷い話だ。無論、剣崎も当時は当惑し暴言や暴力が抑えられなかったのかもしれない。クラスの連中は変貌した彼に恐慌し、止める者もいなかった。

「率直に聞こう。僕はどうしたらいいと思う」

 不安な心境を奥山は正直に吐露した。
 追放された、と言うが逃げて来たが正解だろう。

 今の精神状態で行動を共にするのは危険だ。日本にいた頃から抱いていた優越感が異世界に来た事でマイナスに働いた。厳格な法の整備が為されないこの場所で、最早彼の独壇場になってしまった。

「簡単な話、剣崎様から離れて新たに冒険者として成り上がるのが得策かと思います。そりが合わない人間といつまで関わってもお互いにプラスになりませんから」

「それは分かっている。けど……ムカつくんだ」

 この流れは、そういう事か。

「つまり奥山様は、見返してやりたい訳ですね。奥山様を馬鹿にしたクラスの連中に、一泡吹かせてやりたいと。現代ではそれを『ざまぁ』と呼びます」

「はは、どこかで聞いた事があると思ったら、追放ざまぁの典型パターンか。まさか僕が主人公サイドに立つなんてね。納得したよ。僕はあいつらにざまぁをしたい」

「ではお望みのざまぁプランをご提示下さい。報酬次第ではどんなざまぁでもセッティングして差し上げます」

 日本人相手だと話が早い。
 テンプレ耐性があるのだ。

「いや、あんたにお任せする。知識もそれなりにあるみたいだし」

 試すような目で俺を見てくる。

 俺のお任せ。どういう形であれ、ざまぁは成し遂げたい訳か。
 日本人だからか、強い憎悪や復讐の念より、追放させた事を後悔させてやりたいという感情の方が大きいように感じる。

 ならば、最も好ましい展開は。

「奴隷を買いましょうか」

「なるほど」

 奥山は全て察した。この手の話で王道になぞらえた典型は、追放された人間が実は異世界ライフを充実しており、尚且つ強くなっているもの。

「流石に職員として奴隷商館に入る訳には参りません、着替えてから一緒に向かいましょう。お客様にあった奴隷を見繕って差し上げます」

「ほう……それは助かる」



 ここからは見苦しいかもしれないので、奏はギルドで留守番を頼んだ。
 一緒に行きたいとかなり抵抗されてしまったが、流石に奥山と行動を共にする以上、奏と奥山が出会う可能性が非常に高い。ここは大人しく待ってもらう必要がある。


「大丈夫、別に戦いに行くわけじゃない」

「本当……また帰ってこないなんて事になったら」

 俺にも負い目がある。
 人の死に際なんて一生レベルのトラウマだ。

 奏の頭にそっと手を置く。
 俺の手の甲に、奏の掌が重なった。

「約束だよ」

「ああ。約束だ」



 外で奥山を待たせていた。
 着替えは数分で終わらせたので、特に文句は言われない。人目を避ける様にして移動し、主街路から裏道へと移動した。突如陽光が差し込まない暗所。治安も目に見えて低下した。

 俺達の様子を何人もの人間が眺めている。
 隙あらば、私物を盗もうと企む連中だ。

 無論俺がそんな隙を与えるつもりはない。

 十分程度歩くと、商館が目の前に現れた。

「さて、ここです」

「へえ、いかにもって感じじゃないか。テンション上がるな!」

 こいつ、本当に追放されて落ち込んでいたのか?
 寧ろ、ワクワクしている様に見えるのは俺だけではないはずだ。

 躊躇なく扉を開けると、小太りの男が姿を現した。
 玄関周りは清潔感が保たれているが、奥に見える部屋からは、『鑑定』を使わずとも獰猛な何かが住み着いているのが分かる。

「奥山様。少々お待ちください」
「ああ、手続きとか細かい事は頼んだよ」

 奴隷商が俺に目配せしてくる。
 要望を聞こう、と言った所か。なら。

。予算は金貨一枚だ」

 我ながら安直すぎて吹き出しそうになった。
 だが、変に取り繕うのも格好悪い。転生や転移した日本人が、むさ苦しい男の戦闘奴隷を高値で買う所を見た事がない。売れ残りの訳アリ美少女奴隷がいるなら買おうじゃないか。

「お客様。流石に金貨一枚で奴隷は売れませぬ。それに強いと言われましても具体的な性能値を出して頂かないと、提供するのにも一苦労ですぞ」

 さすがに無理か。
 相場は金貨十枚以上、一枚で買えたらまず不良品を疑っていた。

「もういい。ならここにいる女性の戦闘奴隷全て見せてくれ」

「畏まりました」

 俺の『鑑定』があれば、戦闘に慣れていない奥山でも成り上がる事が出来る相棒を見つけ出す事も可能なはずだ。奥の扉に案内され、『鑑定』を起動する。

 目まぐるしく視界内に映る数値。
 体力や魔力は初期ステ同然、なら種族と『恩恵スキル』によって差別化を図る。


 名前 ソフィア
 性別 女
 体力115/210 魔力100/100
恩恵スキル』『狂牙』

 予想以上に環境が劣悪で、体力が削られている。
 ソフィアは獣人だが、これじゃ使い物にならない。

 もっと別の個体、どこだ……。

 名前 アンネ
 性別 女
 体力355/420 魔力600/600
恩恵スキル』『歌唱(※)』
(※)現在使用不可

「な……なんだ、この子は」

 あまりに破格な数値。
 そして、『歌唱』という不可思議な『恩恵スキル

「いくらだ」

「金貨五枚でございます」

 奴隷商は残念そうに肩を竦めた。

 訳ありだな。通常なら金額五十枚クラスだ。
 俺はほぼ確定でこの子に決めた。

「この女は、唖者あしゃでございます」

 なるほど、確かにそれでは折角の『歌唱』も意味がない。
 それに、戦闘において唖者あしゃは大きなハンデだ。

 室内は暗く、全貌を見る事は出来ないが、桃色の長髪に妖精の如き華奢で儚げな体躯。女性らしい大きな膨らみを持った胸元は身を包む麻の服の上からでも分かる。

 手足や顔に目立った外傷なし。太腿やその他肉付きも及第点。
 最近加入した奴隷なのか、消耗も比較的少ないな。

「この子にしよう。代金はここで払う」

「畏まりました。では契約に移らせて頂きます」


 金貨一枚は冗談として、五枚で買い取れたのは幸運だ。
 檻から放たれた少女を連れて、元の部屋へと戻った。


「奥山様。奴隷が決まりましたよ」

 さて。新たな物語を紡ぐ時だ奥山。
 クラスで日陰者だったお前は今日から主人公になる。

「見てろ剣崎、絶対に驚かせてやるからな」

 実は俺も楽しみだったりする。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティーで地味な【鑑定】スキルを使い、仲間を支えてきたカイン。しかしある日、リーダーの勇者から「お前はもういらない」と理不尽に追放されてしまう。 絶望の淵で流れ着いた辺境の街。そこで偶然発見した古代ダンジョンが、彼の運命を変える。絶体絶命の危機に陥ったその時、彼のスキルは万物を見通す【神の眼】へと覚醒。さらに、ダンジョンの奥で伝説のもふもふ神獣「フェン」と出会い、最強の相棒を得る。 一方、カインを失った元パーティーは鑑定ミスを連発し、崩壊の一途を辿っていた。「今さら戻ってこい」と懇願されても、もう遅い。 無能と蔑まれた鑑定士の、痛快な成り上がり冒険譚が今、始まる!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...