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case3 異国日本からの転移者

可愛くて強くてえっちな奴隷。

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「奥山君が……追放!?」

 同級生の奥山という男は、奏と同じく追放された。
 原因は恐らく実力の相違という極めて単純な理由。あるいはパーティーの空気に馴染まなかった等が考えられるが、実際は聞いてみないと分からない。

 服装は一部が破れたりしていたが、あれは奏と同じ高校の制服だ。上は白のカッターシャツに足首まである長ズボン。戦闘でもしたのか随分と消耗している。

 見た目は所謂オタクっぽかった。男にしてはやや長い髪に、丸眼鏡。身体の線は細く、お世辞にも戦闘慣れしている様には見えない。

 俺は奏に目配せする。
 カウンターの陰に入って出てくる様子はない。

「(会わなくていいのか)」

「(うん……理由は後で話す)」

 何か事情があるらしい。
 さて、『追放処理班』の業務を始めよう。

「こちらへどうぞ」

「に、日本語……!」

 冒険者ギルド職員は語学にも長けている。
 そういう事にしておこう。



 個室へと案内し、話を伺う事にした。
 日本人の存在は、この世界では珍しくない。俺は前もって説明した。

「そうか。日本語を知っている所をみるに大体事情は察してくれるだろう、僕は異世界から召喚された日本人なんだ」

 訥々と、当時の状況を思い出しつつ語り始めた。

「その際に特典が貰えた。『恩恵スキル』っていう特別な能力さ」

 女神の働きかけに依るものだな。理解を示す様に頷く。

「だけど、一人だけ貰えない女子がいて……その子は追放された、追放したのは国だ。そのせいで、剣崎って男がキレた。カースト上位の陽キャさ。今まで見た事のない顔だったな」

 ベルトを緩め、カッターシャツを上に捲ると、腹のあたりに横一文字の青あざが出来ていた。強烈な威力で殴られたのだろう。衝撃は想像に絶する。

「それは?」

「腹いせに僕が標的になった。代わりにお前が追放されるべきだったとな」

 酷い話だ。無論、剣崎も当時は当惑し暴言や暴力が抑えられなかったのかもしれない。クラスの連中は変貌した彼に恐慌し、止める者もいなかった。

「率直に聞こう。僕はどうしたらいいと思う」

 不安な心境を奥山は正直に吐露した。
 追放された、と言うが逃げて来たが正解だろう。

 今の精神状態で行動を共にするのは危険だ。日本にいた頃から抱いていた優越感が異世界に来た事でマイナスに働いた。厳格な法の整備が為されないこの場所で、最早彼の独壇場になってしまった。

「簡単な話、剣崎様から離れて新たに冒険者として成り上がるのが得策かと思います。そりが合わない人間といつまで関わってもお互いにプラスになりませんから」

「それは分かっている。けど……ムカつくんだ」

 この流れは、そういう事か。

「つまり奥山様は、見返してやりたい訳ですね。奥山様を馬鹿にしたクラスの連中に、一泡吹かせてやりたいと。現代ではそれを『ざまぁ』と呼びます」

「はは、どこかで聞いた事があると思ったら、追放ざまぁの典型パターンか。まさか僕が主人公サイドに立つなんてね。納得したよ。僕はあいつらにざまぁをしたい」

「ではお望みのざまぁプランをご提示下さい。報酬次第ではどんなざまぁでもセッティングして差し上げます」

 日本人相手だと話が早い。
 テンプレ耐性があるのだ。

「いや、あんたにお任せする。知識もそれなりにあるみたいだし」

 試すような目で俺を見てくる。

 俺のお任せ。どういう形であれ、ざまぁは成し遂げたい訳か。
 日本人だからか、強い憎悪や復讐の念より、追放させた事を後悔させてやりたいという感情の方が大きいように感じる。

 ならば、最も好ましい展開は。

「奴隷を買いましょうか」

「なるほど」

 奥山は全て察した。この手の話で王道になぞらえた典型は、追放された人間が実は異世界ライフを充実しており、尚且つ強くなっているもの。

「流石に職員として奴隷商館に入る訳には参りません、着替えてから一緒に向かいましょう。お客様にあった奴隷を見繕って差し上げます」

「ほう……それは助かる」



 ここからは見苦しいかもしれないので、奏はギルドで留守番を頼んだ。
 一緒に行きたいとかなり抵抗されてしまったが、流石に奥山と行動を共にする以上、奏と奥山が出会う可能性が非常に高い。ここは大人しく待ってもらう必要がある。


「大丈夫、別に戦いに行くわけじゃない」

「本当……また帰ってこないなんて事になったら」

 俺にも負い目がある。
 人の死に際なんて一生レベルのトラウマだ。

 奏の頭にそっと手を置く。
 俺の手の甲に、奏の掌が重なった。

「約束だよ」

「ああ。約束だ」



 外で奥山を待たせていた。
 着替えは数分で終わらせたので、特に文句は言われない。人目を避ける様にして移動し、主街路から裏道へと移動した。突如陽光が差し込まない暗所。治安も目に見えて低下した。

 俺達の様子を何人もの人間が眺めている。
 隙あらば、私物を盗もうと企む連中だ。

 無論俺がそんな隙を与えるつもりはない。

 十分程度歩くと、商館が目の前に現れた。

「さて、ここです」

「へえ、いかにもって感じじゃないか。テンション上がるな!」

 こいつ、本当に追放されて落ち込んでいたのか?
 寧ろ、ワクワクしている様に見えるのは俺だけではないはずだ。

 躊躇なく扉を開けると、小太りの男が姿を現した。
 玄関周りは清潔感が保たれているが、奥に見える部屋からは、『鑑定』を使わずとも獰猛な何かが住み着いているのが分かる。

「奥山様。少々お待ちください」
「ああ、手続きとか細かい事は頼んだよ」

 奴隷商が俺に目配せしてくる。
 要望を聞こう、と言った所か。なら。

。予算は金貨一枚だ」

 我ながら安直すぎて吹き出しそうになった。
 だが、変に取り繕うのも格好悪い。転生や転移した日本人が、むさ苦しい男の戦闘奴隷を高値で買う所を見た事がない。売れ残りの訳アリ美少女奴隷がいるなら買おうじゃないか。

「お客様。流石に金貨一枚で奴隷は売れませぬ。それに強いと言われましても具体的な性能値を出して頂かないと、提供するのにも一苦労ですぞ」

 さすがに無理か。
 相場は金貨十枚以上、一枚で買えたらまず不良品を疑っていた。

「もういい。ならここにいる女性の戦闘奴隷全て見せてくれ」

「畏まりました」

 俺の『鑑定』があれば、戦闘に慣れていない奥山でも成り上がる事が出来る相棒を見つけ出す事も可能なはずだ。奥の扉に案内され、『鑑定』を起動する。

 目まぐるしく視界内に映る数値。
 体力や魔力は初期ステ同然、なら種族と『恩恵スキル』によって差別化を図る。


 名前 ソフィア
 性別 女
 体力115/210 魔力100/100
恩恵スキル』『狂牙』

 予想以上に環境が劣悪で、体力が削られている。
 ソフィアは獣人だが、これじゃ使い物にならない。

 もっと別の個体、どこだ……。

 名前 アンネ
 性別 女
 体力355/420 魔力600/600
恩恵スキル』『歌唱(※)』
(※)現在使用不可

「な……なんだ、この子は」

 あまりに破格な数値。
 そして、『歌唱』という不可思議な『恩恵スキル

「いくらだ」

「金貨五枚でございます」

 奴隷商は残念そうに肩を竦めた。

 訳ありだな。通常なら金額五十枚クラスだ。
 俺はほぼ確定でこの子に決めた。

「この女は、唖者あしゃでございます」

 なるほど、確かにそれでは折角の『歌唱』も意味がない。
 それに、戦闘において唖者あしゃは大きなハンデだ。

 室内は暗く、全貌を見る事は出来ないが、桃色の長髪に妖精の如き華奢で儚げな体躯。女性らしい大きな膨らみを持った胸元は身を包む麻の服の上からでも分かる。

 手足や顔に目立った外傷なし。太腿やその他肉付きも及第点。
 最近加入した奴隷なのか、消耗も比較的少ないな。

「この子にしよう。代金はここで払う」

「畏まりました。では契約に移らせて頂きます」


 金貨一枚は冗談として、五枚で買い取れたのは幸運だ。
 檻から放たれた少女を連れて、元の部屋へと戻った。


「奥山様。奴隷が決まりましたよ」

 さて。新たな物語を紡ぐ時だ奥山。
 クラスで日陰者だったお前は今日から主人公になる。

「見てろ剣崎、絶対に驚かせてやるからな」

 実は俺も楽しみだったりする。


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