追放された冒険者を案内する『追放処理班』のギルド職員、裏で『ざまぁ代行屋』と呼ばれていた件。〜お望みのざまぁプランはこちらですか?〜

TGI:yuzu

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case3 異国日本からの転移者

新たなる恋の行方。

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 奥山は今日、目的を果たしに行ってしまった。
 一か月の集大成、迷宮探索に剣崎達と出向くのである。

 これらは全て俺の提案だった。
 弱いふりをしてパーティーに同行、迷宮深くまで彼らを誘導する。引き際を見誤り、強大な魔物に倒されそうになった所で奥山の躍進が始まる。

 奴隷達をこれ見よがしに見せつけ、追放された側の人間がより幸せかつ強力であるという事実を突き付ける。典型的かつ清々しい程に真っ直ぐなざまぁ展開。

 俺は、傭兵達に頼んで遠征日程や動向を探らせた。
 奥山がピンポイントで迷宮探索初日に合流しに行ったのもそれが原因だ。俺は事前に入念な準備を済ませ、代行業としての役割の果たしたのである。

「悠里、頼まれてた魔物討伐の作成資料、そこに机に置いておいたから」

「ああ、ありがとう」

 奏はいそいそと部屋の奥へ入っていく。
 奏にはこの1ヶ月、資料作成や依頼の仕分け、倉庫整理なんかの雑務を中心にギルドで働いて貰っている。

 表舞台に出る事を奏はそこまで望んでいなかった。
 万一奥山に出くわす危険性もある、奏にはなるべく人目につかない場所でも作業できる業務を中心に渡した。

「奏ちゃん、すごい働きぶりですね!」

 アイシャもご満悦だ。
 俺とアイシャの家を交代でルームシェア。勿論俺はアイシャの家には行かないが、何故かアイシャは奏が俺の家に泊まる時に限ってやって来る。

 おかげで以前より随分仲良くなってしまった。

 俺とアイシャはくすくすと笑う。

「ええ、魔物等と直接戦闘するよりはこうして三人でのんびり仕事している方が彼女の性に合っていたんでしょう」

 突然の異世界転移。
 冒険がいざ始まるかと思いきや、冒険者ギルド勤務。

 奏としてはどう思っているのか気になる。

 にしても、あれだ。今日は暇だ。
 一向に誰も来そうにない。

 アイシャもそれを分かってか俺に話しかけて来た。

「奏ちゃんとは、何年の付き合いになるんですか?」

「えーっと、六歳くらいからなんで八年になるんですかね」

「ははは、八年もあればそれだけ仲良さげなのも当然ですね」

 近所なので、小学校や中学校は一緒だった。
 学校に行く金は、バイトと貯金で何とかしていた。

 時々上機嫌な親が諭吉をばら撒くもんで、俺もその恩恵に預かった。今思えばその金は人を騙して得た金だったが今から謝って返す事は出来ない。

「奏ちゃんの事……好きだったんですか?」

 俺は思わず隣の席にいる同僚の顔を見た。
 耳まで赤らめてそっぽを向いていた。

「まあ、昔は」

「……今は好きじゃないと?」

「あの時程の熱は冷めたっていうか、奏としか女性と話す機会が無かったですからね。ここで務めるようになって、色んな人と関わって……だから、今の今まで、そういった色恋に現を抜かす様な事はありませんでした」

「そう、なんですか」

 時に異性に好きな人がいるか、と聞くのは気があるからと考えるのは早計だろうか。考えすぎ、単なる勘違い。男性はよくその手の悩みに惑わされると聞く。

「あの、ベリアルさんっ」

 突然、アイシャが俺の手を掴んだ。
 上擦った声に周囲の同僚達が訝しむ目で見てくる。

 はわっ、とアイシャは口元を押さえた。
 俺にだけ聞こえる程度の小声で、

「今度の休日、もしよければ……一緒にどこか行きませんか。その、二人きりで」

 二人。つまりデートの誘い……。

 何も問題ないはずだ。
 俺は奏と付き合っていない。
 今では好きかどうかと判断できるまでに至っていない。

 なら、アイシャと二人でお出かけしても。

「大事な……お話もありますし」

 仕事の? なんてボケが通じる訳が無かった。
 三年も色恋にご無沙汰な俺でも分かった。

 前髪を手櫛で整えながら、アイシャはちらりと一瞥する。


 昔、奏と俺は両想いだった……と思う。
 それが勘違いではなかったとして、奏は俺と離れて三年の間に別の恋でもしたんだろうか。激動の一か月、落ち着いて話す機会もなかった。

 どうなんだろ。

 過去に固執するか、それとも今を見つめるか。
 俺も、そろそろ新しく始めるべきなのかもしれない。

「分かりました」

「本当ですかっ」

「はい、その日は予定を開けておきます」

 こうして俺とアイシャの秘密の約束が交わされた。

 その後はふわふわと、落ち着かない日になった。
 何も聞いても上の空で情報がまるで頭に入ってこない。

 アイシャもそれは同じようで、普段はしないようなミスを多発していた。こんな話を昼間からするべきじゃなかった。そこは俺も反省だ。



 今日も長かった一日が終わる。夜もすっかり暮れた。
 片付けを始める同僚達を脇目に俺も席を立った。

 その時、たまたま横の酒場で見知った奴隷がいるのが見えた。
 奥山の奴隷だ。確かアンネの次に買った二人だな。

「奥山は……一人で向かったのか? アンネはどこ行った?」

 何を考えているのか分からない。
 ざまぁとはその時々、自分に合ったシチュエーションで実行される。
 奥山が今、何を望んでいるのか。

 奴隷を見せつけるんじゃなかったのか。
 もしかしたら、アンネだけを連れて行ったのかもしれない。

 だが今日が決行日で朝から攻略が始まっているなら、今日の終わりにはざまぁを終えているだろう。帰りを迎えに来たって話なら、ギルドにいるのは不自然だ。行くべきは王宮のはず。

「悠里、帰ろ~って、どうしたの?」

「ああいや、大した事じゃないんだけど」

 万一、奥山がここに来るなら奏の姿を見せるのは危険すぎる。
 居場所を特定される前に、早々にここを発とう。

「奏、急ぐぞ。腹が減った」

「ええ~! ちょっと、引っ張らないでってばー!」


 その日は商店街で出来合いだけ買って帰った。
 アイシャを置いてきてしまったが、すぐ来るはずだ。

 今日は、奏が俺の家に泊まる日。アイシャも俺の家に来る。
 慣れた様子で玄関から家に入る。

 それから、十分、二十分。一時間経っても帰ってこない。

「何か用事かな」

「ギルド長と話し込んでいるのかもしれない。先に頂くか」

 少し冷めてしまった料理を魔法を使って温める。
 久々の二人きりでの食事。昼間、アイシャと話していた事が脳裏をちらつく。奏に今好きな人がいるかを聞くのは容易だ。でも、決定的に雰囲気が壊れるのは間違いなかった。

 休日まで幸いにしてまだ数日ある。
 その時にまた聞こう、そうしよう。


 結局アイシャはその日、俺の家に来なかった。
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