追放された冒険者を案内する『追放処理班』のギルド職員、裏で『ざまぁ代行屋』と呼ばれていた件。〜お望みのざまぁプランはこちらですか?〜

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case3 異国日本からの転移者

日本人による迷宮探索。

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 シードの迷宮攻略は順調だった。
 エイハムが想定した以上の力を発揮する異世界人。

 そして、人一倍頭角を現すのは剣崎直哉。

「直哉、そっちに行った!」

「任せろっ」

 彼が持つ剣が金色の光を放つ。
 薄暗い迷宮を照らしつける程の凄まじい光量、敵だけでなく味方までもがあまりの眩さに目を瞑る。高出力エネルギーを纏わせた一振りに、魔物達は一斉に蒸発した。

 反撃不可能、無慈悲なる一閃。
 大上段から振り下ろすだけの単調な一撃で、魔物は文字通り溶けた。

「この程度か。楽勝じゃないか」

 鞘に剣を戻して一息つく。
 エイハムは驚きを通り越して乾いて笑みを零す。

「凄まじいな、君の『恩恵スキル』は……」
「お世辞ならやめてくださいよ」

 剣崎は興味なさげに前を歩き始めた。
 エイハムはその後ろについていく。

「『聖剣』は、君が持つ武器全てを聖剣化する能力を持つ。例え、軍指定の鉄剣であろうと、君が使えばドラゴンをも殺せる伝説級の武具となる。勇者と呼ばれる日も近いな」

 そう言いつつも、エイハムには多少の懸念があった。
 剣崎の実力は確かだが、他の連中はそうはいかない。前衛に剣崎を置くせいで、先程から後衛職が丸で仕事をしていないのが気になった。

 そして最も恐れた奥山のいう危険因子はせっせと剣崎が倒した魔物の魔石をバックパックに集める仕事を熟している。

「ふう、剣崎。随分長い事迷宮にいるし、そろそろ帰らない?」

 クラスの女子が剣崎に声をかけた。
 周囲の意見を汲んだ形か、パッと安堵した様子が散見される。

「そうだな。これだけやっても迷宮に終わりが見えないとは……」

 その時、奥山が前に出た。

「へえ、僕が見た冒険者は楽々攻略して次の迷宮に向かってたけどな」
「なに……?」

 剣崎の鋭い視線が奥山に向く。
 奥山は意見を訂正する素振りはなかった。

「そのままの意味だよ。僕が別行動している間、色んな冒険者を見て来たけど、シードの迷宮は何でも初心者向けの迷宮だそうじゃないか。それもこんな大人数で攻略しているパーティーなんて見た事ない」

「奥山、勝手な事を言ってはいけない。迷宮を楽々攻略? 最深部に何があるともまだ知られていないのだぞ」

 エイハムはたまらず反論した。
 しかし今回はそれが逆効果に働いた。

「ほう、迷宮最深部……そこまでいけば俺達が帰る算段も付くわけか」

 剣崎に火が付いた。
 嗚呼、こうなったら止められない。

「皆、俺達はすぐにでも元の世界に変えるべきだ。今は辛いかもしれないが、急いで攻略した事実をきっとよかったと思える時が来るだろう。だから、力を貸してくれ」

 早く帰りたいのは、別の目的がある。
 クラスの全員がそう思った。

 初日に追放された奏も、元の世界に帰ればきっと幸せな日常に戻れる。
 休み時間に他愛ない話をして過ごす、そんな日常が待っている。

 剣崎は白雪奏に惚れていた。
 だから彼は、彼女の為に剣を振るう事を厭わない。

 カーストの頂点たる剣崎にノーを言える者はいなかった。

「行くぞ」
「待て、無謀だ……!」

 エイハムは剣崎の肩に手を置いた。
 それを瞬時に振り払った。剣崎の双眸には怒りが宿っている。

「なあ、あんたは俺達を飼っているつもりかもしれない。一か月もの間、毎日毎日修練を積み、着実に俺達が戦力となるよう育成してきた。だがな、俺はあんたに飼われた覚えはない。俺が身につけたこの力は、俺の為に使う。分かったなら俺に触れるな」

 剣崎は既に心ここにあらずといった風だった。

「分かった……」

 そこから、予定された死闘が始まった。


 シードの迷宮は小部屋が連なる迷宮である。
 それを一点突破、最深部だけを目指して突き進む剣崎達。

 掃討し損ねた魔物達は後方から剣崎達を追う。
 そして前方からは次々と魔物が姿を現した。

「後方から五体、キラーアント三体、ヘルモール、サンドワームだ!」

 前衛に固められたキラーアント。
 蟻を巨大化させた風貌のそれは、後ろから確実に逃げ道を塞ぐ。
 ヘルモールは小部屋という概念を無視して地面に穴を空ける。

 サンドワームも同様で、壁から突き抜けて攻撃を仕掛けて来た。

「く、くそ……! 魔法、《ファイアウォール》」

 火の壁を作る魔法で猛攻を防ぐクラスメイト。
 剣崎はちっと舌打ちした。

「おい、地下迷宮で空気の通りが悪いのに、火を使う馬鹿がいるか!? 俺達を一酸化中毒で全滅させる気なのか!」

「ご、ごめん……剣崎っ」

「使えねぇ……メイジ隊。早く回復呪文を!」

「ま、魔力が少なくて……これ以上使うと走れなくなるッ!」


 初めての迷宮攻略で最深部を目指す。それが無謀なのは百も承知だ。
 喉は乾くし、魔物も初見の個体が殆どだ。

 着実に魔物を倒しながら攻略するという先方から最深部だけを狙った強行突破作戦に切り替えた弊害で既に引くに引けない場所まで来ていた。

「全く。現在は85層。既に確認している人類の最高記録を突破している。このまま全力で突き進む他ないだろう。残りの回復薬をすべて使って、一気に突破してしまうぞ」

 エイハムは全員に希望を持たせた。
 懐に忍ばせていた予備の回復薬を疲弊した人から順に配る。

 こうなれば最後まで付き合うだけだ。
 国の戦力として刃を研ぐ作業をしていると思え。

 最深部に行ったところで、どうせ日本には帰れないのだから。

 エイハムは、口元を歪ませた。
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