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case3 異国日本からの転移者
奥山のざまぁ~前菜~
しおりを挟む「はぁ、はぁあ、はあ……!」
100層。本当に辿り着いた。
全員の魔力をふんだんに使い、残り少ない体力を擦り減らし。
小部屋を次々と制圧し、地下深くへと潜り進んだ。
「100層には、協力なボスがいると聞く。最大限戦ってみるが、無理だと思ったらすぐに引き返す。それで構わないな、剣崎」
「ああ。俺達でボスを倒すんだ。そして……必ず奏を」
心身共に疲弊した剣崎。地上にいた時よりも勢いは削がれ、応答する声も弱弱しい。最前線で迫りくる魔物を押しのけ、ここまで仲間全員を連れて来た。
ドクンッッと聖剣が呼応する。
金色の閃光が迸る。
剣を突き、何とか上体のバランスを保つ。
「さあ、攻略するぞ」
「「「「「おおおおおぉぉぉぉおお!!!!!」」」」」
ボス部屋は今までとは違う大空間になっていた。
魔法で辺りを照らし、ボスの姿を探す。
地下特有のひんやりとした空気が、汗に濡れた身体を冷やす。
「どこだ……どこにいる」
その時、誰かが言った。
「上だ!」
上空から降り注ぐ弾丸の驟雨に顔を顰める。
「皆、私に集まって!」
『聖域』の『恩恵』を持つ女子が天に手を掲げた。
すると、不可視の障壁がクラスメイト全員を攻撃から守った。
どんどんと鳴り響く地響き。直撃すれば一たまりもなかっただろう。
砂埃が地面に落ちきり、視界がクリアになる。
ボスとなる魔物は、空中に浮いていた。
「な、何なんだよ……」
ボス部屋は上にもかなり開けていた。
天井高は五メートル程、吹抜二階分の高さぐらいある。
「ふざけんな、どうやって攻撃するってんだ!」
想像した魔物じゃなかったのは言うまでもない。
巨大なボスに、連撃を加えて倒す。そんなセオリーが通用しない。
クラスの連中は全員、電池が切れたように動きを止めていた。
「何か……攻略法を探すんだ。奴を倒す方法は必ずある」
クモのようだと思った。
長く鋭い脚が天井に張り付き、気門には先程放った弾丸が仕込まれている。『聖域』から外に出れば、蜂の巣にされるのは間違いない。
きっと勝てると確信していた皆は気後れしていた。
その姿を見て、さらに足がすくんだ。
「俺達は、ここで……死ぬ、のか」
剣崎は絶望した。
もう無理だと目を瞑った。
所詮は素人の集まり、100層ボスには届かない。
絶望に落とし込んだボスの名は、アンブルテルム。
「あーあ、だらしないな、剣崎」
一人の男が『聖域』から外に出た。
だめだ、死ぬぞ。声が掠れて音にならなかった。
光が蓄積されていき、アンブルテルムが弾丸を射出した。
血を抜いたように剣崎の顔がみるみる白くなった。
嗚呼、死んだ。
「この程度で、死ぬ? 笑わせんなよ剣崎」
その男は無傷だった。
砂塵に包まれた男は、無数の攻撃を鼻で笑った。
奥山だった。
「なんで……おま、え」
「なんだよその顔。傑作だな。スマホの待ち受けにしてやろうか?」
そんな軽口を叩きながら、剣崎が持っていた剣を握った。
『聖剣』の力が解けたそれを、無造作に空中に放り投げた。
外れた、皆がそう思った。
明後日の方向に飛んでいく剣。
放物線を描きながら、壁へぐさりと刺さった。
次の瞬間、アンブルテルムは地面に落ちてきた。
何が起こったかわからず、呆気にとられる。
「空中に浮いている様に見えたのは、ただの糸だ。僕は糸を切った」
その瞬間に理解した。
明後日の方向に投げた剣は、空中に張り巡らされた糸を次々と切断していき、アンブルテルムはその自重を支えきれずに地に落ちたのだ。
「正直」と奥山は語り始めた。
「100層まで辿り着けるとは思っていなかった」
ぱちぱちと手を叩いた。
エイハムを含めた皆を素直に称える奥山。
「だが、間違っても自分の実力だとは思うなよ。陰ながら、アンネがサポートをしていなかったらお前らは30層くらいで全滅していたぞ」
サポート?
訳の分からない奥山の言葉に腹が立った。
「ずっと後ろで魔石を拾ってただけのお前が、偶然ボスの攻略法を見抜いただけで威張ってんじゃねえよ……ッ」
「確かに剣崎の言う通りだ。訂正しよう。僕は、奇襲を受けないように1層から『恩恵』を使って監視し続けていた。だから誰も甚大な被害に至らなかった」
「『恩恵』だぁ……? お前のは特別優秀じゃなかったはず」
「ああ。僕の『恩恵』は『追跡』だ」
決して強いと断言できる代物ではなかった。
後を追う、それが追跡。
『聖剣』とは比べ物にならない不遇『恩恵』のはずだった。
「はは、追跡ぃ? ストーカー野郎にはお似合いだな」
「何とでも言えよ、負け犬。今から僕の実力を見せてやるよ」
ふいっと、何もない空間に目配せする。
その瞬間、闇夜から姿を現したのは桃色の髪の少女だった。
エイハムだけがその実力を認めた。
あの少女は異常だ、凄まじい魔力を秘めている、と。
首元に付けられた隷属の首輪を見て、奴隷だと判断した。
そう、エイハムが監視した際に見た奴隷の少女だ。
「誰にも気取られずに……今までいたというのか」
「『追跡』の力をアンネに付与してやっていたのさ」
奥山はエイハムにネタ晴らしをする。
なるほど、ストーキングという本来の性質上、クラスメイトの全員から気づかれる事無くサポートするのはさして難しい話ではなかった。
「アンネ、謡え」
「ん」
天使の歌声が響き渡る。
傷ついた身体に染みわたるような奇跡の声。
無くなったはずの活力が沸いてくる。
【体力回復】【体力自動回復】【体力最大値上昇】【攻撃力上昇】【会心率上昇】
【魔力回復】【魔力自動回復】【魔力最大値上昇】【防御力上昇】【俊敏性上昇】
「さてと。片付けますか……『身体強化・戦闘形態』」
「白精魔法、しかもあれ程の練度……! 何者なのだ彼は」
一気に圧力が増すのを実感した。
だがこれで終わりではない。
たった一撃を以て敵を制する。
その最強の『恩恵』が発動する。
「『追跡』」
神速の動きでアンブルテルムの後ろに回る。
剣を振り下ろし、脳天に目掛け剣を振り下ろした。
抵抗なく、するすると入っていく剣先。
反撃すら許さず完封し、アンブルテルムは実体を失い爆散した。
「剣崎。僕は今、凄く幸せなんだ。ぬくぬくと王宮暮らしをして肥えた家畜と違って僕はこの一か月本気で戦い、力を手にした」
「そんな……訳が。俺を騙して、何が、楽しい……!」
「騙す? そんなボコボコな状態のお前の代わりに念願のボスを倒してやったんだぞ。命の恩人に対してありがとうも言えなくなっちゃったか」
「殺す……絶対に」
「あはは、面白すぎだろ。寝言は寝て言え、ばーか」
すたすたとアンネを連れて奥山は剣崎の横を歩く。
帰る気なのだろう、歩みを止めるつもりはない。
「ま、待て奥山。まさか最下層に俺達を置き去りにするのか」
エイハムは焦った。
アンネという少女が放つ歌声が様々な上昇効果を付与したのは間違いない。
なら、その加護なしに満身創痍の剣崎達が帰られる保証はない。
「ああ、だって僕を殺すんだろ。早く逃げなきゃ」
揶揄っているのは目に見えていた。
剣崎はわなわなと頭に血を上らせながらも、反論できなかった。
ここで置き去りにされれば死ぬ。
それは剣崎自身も理解していた。
「ね、ねえ奥山くん。私は連れてってくれるよね?」
女子達は既に自分だけでも助かろうと必死だ。
このビッチが、と罵るのを寸前で耐えた。
「僕が追放された時、庇わなかったお前達を連れて帰る理由はどこにある」
「そ、それは……私だって剣崎君を止めようとしてて」
「そうよ! でも直哉は私達を無視して無理矢理……」
「あっそ。じゃ、僕は行くから」
バッと剣崎が頭を地面に擦りつけた。
土下座だった。
「悪かった、奥山。お前の言う通り、俺達は限界だ」
「はあ……で、僕に何をして欲しいの」
「地上に連れて帰って欲しい」
「あはっ、剣崎が僕に土下座。あははっ、いいねえ」
ざまぁとはこの事か!
最高じゃないか代行屋。これが僕が見たかった光景だ!!
奥山は小さく肩を震わせ笑いをこらえた。
「いいよ。連れて帰ってあげる。散歩をせがむ犬みたいに、情けなく僕に縋りついて来なよ。じゃなきゃ助けてやらないぞ~?」
これで計画は半分終えた。
後、半分。全てを出し抜くのはこれからだ。
「さあて、メインディッシュの時間だな」
アンネは泣きそうな顔をしていた。
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