追放された冒険者を案内する『追放処理班』のギルド職員、裏で『ざまぁ代行屋』と呼ばれていた件。〜お望みのざまぁプランはこちらですか?〜

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case3 異国日本からの転移者

消えたアイシャ。

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 俺は、僅かに怯えながらギルドに出勤した。
 到着するや否や、アイシャの姿を探す。

 まだ出勤していなかった。

「はあ……」

 俺がここまで気分を落としているのは他でもないアイシャの事。
 昨晩、丁度終業時間を迎える頃、奥山の奴隷仲間がギルドに姿を見せていた為に、俺は奏を連れて早々にギルドから離れた。

 アイシャも後から追いついてくれると高を括っていた。
 思えば昨日甘酸っぱい雰囲気を醸していたのに、奏と一緒に帰ったのがまずかった。緊急事態だったと今更言い訳するのも格好悪いし……。

「ううん……」

「悠里、まだ気にしてるの? 昨日のは別に悪くないよ。奏を助ける為に動いてくれたんだもん。もしそれでアイシャさんが怒ってたら奏から謝るから」

 奏はそう言ってフォローする構えだ。
 その好意に甘えるのは簡単だ、だがこれは俺から話すべきだろう。

 それが、アイシャの気持ちに応える、俺なりの責任の取り方だ。

「ねえ、悠里。そろそろギルド始まっちゃうけど……」

「た、確かにな。ここ三年で、一度も遅刻した所見たことないな」

 もしかしたら、俺がいるからここにはもう来たくないと?
 俺がどれほど無神経だったか、思い知らされる。

 悪い妄想だけが募る。
 定刻だ。奏は奥の部屋へと逃げ込んだ。
 奥山や他のクラスメイトと接触しない為だ。

 アイシャは来ない。
 昨日から、正確には昨日の夜から顔を見ていない。

 もし。

 もし、この事態が、アイシャの独断ではなくて……。
 何らかの事件に巻き込まれていたならどうだ。

 アイシャは昨晩、何者かに連れ去られた。
 そして今この瞬間もどこかに隔離されていて出勤できない。

 都合が良すぎ、だろうか。

 無言で首を振って思考を搔き消した。

「冒険者ギルドへようこそ!」


 その日はやはりちょっとした話題になった。
 受付嬢の中でも、特に人気の高いアイシャがいない事には、冒険者にもすぐにバレた。何度か探す様子を見せて、諦めて聞いてくる。

「今日、アイシャちゃんは?」

「今日はお休みを頂いております、申し訳ありません」

「そっかー残念」

 アイシャ目当てで訪れる人も少なくない。
 指定された休養日以外は、誰より熱心に働いていた。


 やはり、おかしい。
 俺はそう結論付けた。

 俺のせいではない、偶然にも何らかの事情があって来れていない。
 来る事が出来ない程の事情……それは。

「ちょっと、君」

 同僚の一人に呼ばれた。
 アイシャとも仲のいい別の受付嬢さんだ。

「何か知らないわけ? あの子が休むって相当よ」

「いえ、分かりません。どうして俺に聞くんですか?」

「最近仲良さそうだったから、何となくね。君も知らないってなると、昨日のアレが原因なのかな」

「昨日のアレ?」

 彼女は神妙に頷いた。昨日の晩の事なんだけどさ、と切り出す。

「女性冒険者二人がアイシャに言い寄ってるのを見たんだよね。そう、丁度君が帰った直後くらいに。別段もめている様子は無かったんだけど、何かあったんじゃない?」

 女性冒険者……?
 俺の心に黒い雲が広がっていくのを感じた。

「それでその人達と一緒に外に出て行ったのを見たんだけど」

「その二人ってのは、エルフと獣人ではなかったですか?」

「あーそうそう、確かそうだったかも。ああ~どこかで見かけたと思ったら、確か君の担当冒険者の奴隷さんか」

 奥山。アイシャに対して何らかのアプローチを仕掛けたのか。
 何の目的だ、分からない。

 だが、あそこに奴隷を配置したのは、奏ではなくアイシャ狙いだった。
 明確にアイシャに対してコンタクトを取る予定だったのだ。

 何故アイシャなんだ。
 奥山とアイシャには特に接点は無かったはずだ。

 俺に隠れて密会していたなら別だが、プライベートな想像はあまりしたくない。何より、そんな事実が露呈したら他ならぬ俺が傷つくからだ。

 こほん。

 俺の推理が間違った方向に進んでいないと信じて、今度は別のアプローチから考える。つまり、何故昨日アイシャに対して接触したのか、だ。

 今までにもアイシャに対して接触する機会は幾らでもあった。
 よりによって昨日、剣崎達へざまぁを仕掛けるといったタイミングで、わざわざ奴隷を別行動させてまでアイシャに関わらなければならなかった理由。

「あーだめだ。行き詰まった!」

 俺一人じゃここが限界だ。
 奥山は何考えているか分からない。
 奴隷達も奥山の味方をしている。

 なら、唯一頼りになる存在と言えば……。







 その瞬間、冒険者ギルドの扉が開いた。
 桃色の長髪をたなびかせ、その少女は勢いをそのままに入り込む。
 俺の存在を見つけては、涙を浮かべながらタックルしてきた。

 何という、偶然か。否、これが偶然である訳がない。
 これは、一連の事件が導いた必然。

 俺と彼女は引き合わされる運命にあった。

「ご主人様ぁあああ~~!!!」

「アンネ。どうした、何があったんだ」

 アンネは俺の胸元に顔を埋め、泣きじゃくった。
 小刻みに肩を震わせ恐怖を吐き出していた。

 ぎゅうう、と俺の息が苦しくなるくらいの抱擁だ。
 取り敢えず落ち着かせるのが先だ。俺は頭を撫でてやる。

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 アンネはしきりに謝っていた。
 あまりの号泣に、俺達は注目の的になっていた。

 視線が集まっているのを悟って、俺は個室へと引き摺る。
 だが、アンネは成長し俺の力じゃどうにも動かせられなかった。

 ギルド勤務も長く、今の俺に全盛期程の力はないのだ。

「落ち着けアンネ。怒らないから、一言で教えてくれ」

 アンネはぶるぶると顔を震わせながら、俺の顔を覗き込んだ。
 俺は無言で首を縦に振る。

 意を決したように、アンネは口を開いた。
 それは、俺にとっての絶望の宣告でもあった。




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