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帝国妖異対策局
第2話 アンドロイド、その扱いに物申す
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帝国撫子型アンドロイドであるハチは、自分の扱いについて常々不満を持っていた。
といってもそれは帝国妖異対策局内のことではない。局長や鬼娘の真九郎はハチをただのアンドロイドではなく家族の一員のように接してくれているからだ。
ただそれが非常に例外的であることはハチだって十分に理解している。所詮、アンドロイドも人為的に作られた存在、ほとんどの人々にとって車や冷蔵庫と一緒、あるいは目の前に浮かんでいるドローンと同じような位置づけでしかない。
旧鵲宮邸の庭に突然現れた2mもの巨大なこけしを前にして、ハチはつらつらとそんなことを考えていた。
今朝、旧鵲宮邸の解体工事に入った業者が巨大なこけしに襲われた。帝都警視庁から帝国妖異対策局への協力要請が入り、今は現場にハチが派遣されている。
本来の目的からすれば、明らかにこの妖異案件は帝国妖異対策局が対応すべきものだ。
だが全メンバーが三人という半官半民の弱小組織。表向きは何の公権力も持たない、はっきり言えば個人の探偵事務所と何の変りもなかった。
そのため基本的には今回のように、妖異絡みの事件があった際は官庁からの協力要請に応じるという形で現場に出るのが常だった。
弱小とは言え、対妖異の実績は認められているので、様々な組織からお呼びがかかる。
旧鵲宮邸の入り口付近には何人もの捜査員が腰を屈めて、庭にある巨大なこけしの様子を伺っていた。
こけしの周囲には首が奇妙な方向にねじ曲がった三人の作業員の遺体が転がっている。さらに少し手前側には作業員と捜査員が仰向けになって倒れていた。二人とも呼吸をしており、まだ生きているようだった。
到着したハチに捜査員がこれまでの状況を説明する。
「やつに近寄ろうとすると急に動き出して、次の瞬間には吹っ飛ばされていました」
倒れている捜査員が、生存している作業員を回収しようとしたとき、あの巨大なこけしが動いたらしい。
その図体からは想像できないスピードに他の捜査員たちは腰が引けて現在の膠着状態が続いているようだった。
ハチに説明している捜査員を始め、その場にいる全ての人間がハチに対してチラチラと視線を向けていた。
「まずは至急、対策局さんには生きている二人の回収をお願いしたいのですが」
「わかりました」
これは妖異対策のプロに対する信頼からくる依頼なのだろうか。
同じような現場で同じ様な状況をハチは何度も見てきた。
ただ今のような状況で局長が前に出ようとすると、たいていの場合、彼らは「女の子にそんなことはさせられない」と引き留める。
見た目からしていかにも強そうな鬼娘に対しても「いくら鬼だからって、さすがに女の子にやらせるなんてなぁ……」と躊躇する。
そんな彼らもハチに限っては彼女を最前線に送り出すことに何の抵抗も感じていないようだった。それどころかハチの背中を押して盾代わりにしかねない空気さえある。いつだってそうだ。なぜなら……
(なぜならわたしはアンドロイドだから)
(確かにその通りなので反論のしようがないのだけれど)
(あえて希望を述べさせていただけるのなら)
(少しくらい女性として扱って欲しい……)
毎回、同じことを思うのだが、ハチはそれを表情にはおくびにも出さず捜査員に指示を出す。
「それではわたしが反対側から対象に近づいて引きつけますので、その間に倒れているお二人を回収してください」
「了解!」
(躊躇なく「了解」ですか。いつものことですが……)
(少しは心配するフリくらいしてくれてもよくないですか?)
小さくため息をついてハチは屋敷の裏手から庭に入ってこけしの後ろに回る。
ハチが近づくと、まず首の部分だけがハチの方向に回転する。
もう一歩近づくと身体が回転し始めた。
「3……2……1……」
ハチの視界の端に複数の捜査員が倒れている二人に向かってダッシュの姿勢を取っているのが見える。
「ゼロ!」
ハチはこけしに向かって一気にダッシュする。同時に巨大こけしもハチに向かって突進してきた。
胴体部分から腕のような棒状の突起物が現れ、急速に回転を始める。おそらく作業員はこれで首を折られたのであろう。
巨大こけしの移動も回転も一切の音がないのが不気味だった。モーター音でも聞こえてくればもう少し早めに警戒することができただろう。
素早い腕の回転を身体を低くして躱し、右肘をこけしの胴体に叩きこむ。もしかすると自分の腕にダメージを受けるかもしれないと考えていたが、予想に反してハチの肘はこけしの胴体に深く沈み込んでいった。
「ふごぉぉぉ」
巨大なこけしは肘の入った方向に身体を折り曲げる。木製だと推測していたこけしの身体は、意外なことに皮と肉で出来ているようだった。
こけしの後方にハチが意識を向けると、そこでは急ぎ作業員と捜査員の回収が行われているのが見えた。
そのままハチは右の抜き手でこけしの胴体を貫く。この程度の固さであれば、局長の零術に頼るまでもなかった。
「ここじゃない!」
こけしの体内に目当てのものが見つからず、ハチは素早く右手を抜き、今度はこけしの眉間を貫いた。手の先で核体の存在を確認し、それを握りつぶす。
「!」
こけしは一瞬大きく全身を震わせると、その後一切の活動を停止した。
~ 帝国妖異対策局 ~
「……本件についての報告は以上です」
「お疲れ様、ハチ」
「ハチさん、お疲れ様でしたん!」
「まぁ、ハチの愚痴は記録からは削除しておくけどね」
「危険な状況の対応を任せられること自体に不満はないのです。ただ……」
「女性として扱って欲しいと」
「そういうことです。何と言ってもわたしは撫子型アンドロイドなんですよ? 撫子なんですから」
「はいはい」
「ですんですん!」
局長と真九郎にいつものように軽く流され、いつものように口をとがらせながら、いつものようにハチは二人にお茶を入れるのだった。
といってもそれは帝国妖異対策局内のことではない。局長や鬼娘の真九郎はハチをただのアンドロイドではなく家族の一員のように接してくれているからだ。
ただそれが非常に例外的であることはハチだって十分に理解している。所詮、アンドロイドも人為的に作られた存在、ほとんどの人々にとって車や冷蔵庫と一緒、あるいは目の前に浮かんでいるドローンと同じような位置づけでしかない。
旧鵲宮邸の庭に突然現れた2mもの巨大なこけしを前にして、ハチはつらつらとそんなことを考えていた。
今朝、旧鵲宮邸の解体工事に入った業者が巨大なこけしに襲われた。帝都警視庁から帝国妖異対策局への協力要請が入り、今は現場にハチが派遣されている。
本来の目的からすれば、明らかにこの妖異案件は帝国妖異対策局が対応すべきものだ。
だが全メンバーが三人という半官半民の弱小組織。表向きは何の公権力も持たない、はっきり言えば個人の探偵事務所と何の変りもなかった。
そのため基本的には今回のように、妖異絡みの事件があった際は官庁からの協力要請に応じるという形で現場に出るのが常だった。
弱小とは言え、対妖異の実績は認められているので、様々な組織からお呼びがかかる。
旧鵲宮邸の入り口付近には何人もの捜査員が腰を屈めて、庭にある巨大なこけしの様子を伺っていた。
こけしの周囲には首が奇妙な方向にねじ曲がった三人の作業員の遺体が転がっている。さらに少し手前側には作業員と捜査員が仰向けになって倒れていた。二人とも呼吸をしており、まだ生きているようだった。
到着したハチに捜査員がこれまでの状況を説明する。
「やつに近寄ろうとすると急に動き出して、次の瞬間には吹っ飛ばされていました」
倒れている捜査員が、生存している作業員を回収しようとしたとき、あの巨大なこけしが動いたらしい。
その図体からは想像できないスピードに他の捜査員たちは腰が引けて現在の膠着状態が続いているようだった。
ハチに説明している捜査員を始め、その場にいる全ての人間がハチに対してチラチラと視線を向けていた。
「まずは至急、対策局さんには生きている二人の回収をお願いしたいのですが」
「わかりました」
これは妖異対策のプロに対する信頼からくる依頼なのだろうか。
同じような現場で同じ様な状況をハチは何度も見てきた。
ただ今のような状況で局長が前に出ようとすると、たいていの場合、彼らは「女の子にそんなことはさせられない」と引き留める。
見た目からしていかにも強そうな鬼娘に対しても「いくら鬼だからって、さすがに女の子にやらせるなんてなぁ……」と躊躇する。
そんな彼らもハチに限っては彼女を最前線に送り出すことに何の抵抗も感じていないようだった。それどころかハチの背中を押して盾代わりにしかねない空気さえある。いつだってそうだ。なぜなら……
(なぜならわたしはアンドロイドだから)
(確かにその通りなので反論のしようがないのだけれど)
(あえて希望を述べさせていただけるのなら)
(少しくらい女性として扱って欲しい……)
毎回、同じことを思うのだが、ハチはそれを表情にはおくびにも出さず捜査員に指示を出す。
「それではわたしが反対側から対象に近づいて引きつけますので、その間に倒れているお二人を回収してください」
「了解!」
(躊躇なく「了解」ですか。いつものことですが……)
(少しは心配するフリくらいしてくれてもよくないですか?)
小さくため息をついてハチは屋敷の裏手から庭に入ってこけしの後ろに回る。
ハチが近づくと、まず首の部分だけがハチの方向に回転する。
もう一歩近づくと身体が回転し始めた。
「3……2……1……」
ハチの視界の端に複数の捜査員が倒れている二人に向かってダッシュの姿勢を取っているのが見える。
「ゼロ!」
ハチはこけしに向かって一気にダッシュする。同時に巨大こけしもハチに向かって突進してきた。
胴体部分から腕のような棒状の突起物が現れ、急速に回転を始める。おそらく作業員はこれで首を折られたのであろう。
巨大こけしの移動も回転も一切の音がないのが不気味だった。モーター音でも聞こえてくればもう少し早めに警戒することができただろう。
素早い腕の回転を身体を低くして躱し、右肘をこけしの胴体に叩きこむ。もしかすると自分の腕にダメージを受けるかもしれないと考えていたが、予想に反してハチの肘はこけしの胴体に深く沈み込んでいった。
「ふごぉぉぉ」
巨大なこけしは肘の入った方向に身体を折り曲げる。木製だと推測していたこけしの身体は、意外なことに皮と肉で出来ているようだった。
こけしの後方にハチが意識を向けると、そこでは急ぎ作業員と捜査員の回収が行われているのが見えた。
そのままハチは右の抜き手でこけしの胴体を貫く。この程度の固さであれば、局長の零術に頼るまでもなかった。
「ここじゃない!」
こけしの体内に目当てのものが見つからず、ハチは素早く右手を抜き、今度はこけしの眉間を貫いた。手の先で核体の存在を確認し、それを握りつぶす。
「!」
こけしは一瞬大きく全身を震わせると、その後一切の活動を停止した。
~ 帝国妖異対策局 ~
「……本件についての報告は以上です」
「お疲れ様、ハチ」
「ハチさん、お疲れ様でしたん!」
「まぁ、ハチの愚痴は記録からは削除しておくけどね」
「危険な状況の対応を任せられること自体に不満はないのです。ただ……」
「女性として扱って欲しいと」
「そういうことです。何と言ってもわたしは撫子型アンドロイドなんですよ? 撫子なんですから」
「はいはい」
「ですんですん!」
局長と真九郎にいつものように軽く流され、いつものように口をとがらせながら、いつものようにハチは二人にお茶を入れるのだった。
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