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第十章 ゴンドワルナ大陸(平野艦長)
第205話 ミライのお仕事
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護衛艦フワデラに乗ってゴンドワルナ大陸に戻ってきた黒髪メイド少女のミライ。
その後、プラチナ冒険者であるガラムの口添えもあって、ロイド子爵家のメイドとして雇われることとなった。
ただロイド家は長男と次女が王都の学校に通っていて不在だったこともあって、邸宅内の仕事は減っている状況。ミライのすることはほとんどなかった。
そこでミライに与えられた新たな仕事が、冒険者ギルド内にある酒場での給仕であった。
このときのロイド子爵の指示は「冒険者ギルドに常駐して、内外の情報を集めること」と「ガラムが町に戻ってきたら報告すること、可能なら引っ張ってくること」の二つ。
ギルド内の酒場での給仕は、ロイド子爵の両方の指示を実行するのに最適な場所であったのだ。そうして酒場で働き始めた結果、今では美少女メイドのミライを目当てに、冒険者でもないのにギルドの酒場に出入りする客まで増え始めている。
そんなミライの外見は小柄で細い身体で黒髪黒目。この国の人々にとっては珍しい外見だ。それが美少女ともなれば良く目立つ。荒くれ者が集まる冒険者ギルドで、小柄な少女は、酔っぱらった客やガラの悪い客に絡まれやすい。
だがこのギルドにおいて、ミライに余計なちょっかいを掛けるものは誰一人としていない。いかにも小悪党な性格がその顔に滲み出ている連中でさえ、ミライに対しては礼儀正しく接するよう心掛けているように見えた。
それもそのはず。ミライは「メイド神拳」と呼ばれる武術の達人であり、本人は秘密にしているが「萌拳」と呼ばれる拳法の使い手でもあるからだ。
給仕を始めた当初こそは、色々な冒険者たちがミライに手を出そうとした。しかし、そのことごとくを、ミライは「メイド神拳」によって一撃で沈めていったのだ。
今ではミライがロイド子爵家で雇用されているメイドであることと、プラチナ冒険者のガラムが後見人という話が知れ渡っているため、ミライに対しては無礼を働く者はいなくなっていたのだ。
それどころか、ミライはその明るい性格で冒険者たちの心を掴み、ちょっとしたアイドル扱いになっていた。
そんなミライが大喜びで迎えた三人の人物に、酒場にいる全員の注目が集まった。
「ミライちゃん、そこの三人は同郷の人かい?」
「黒髪の美人が二人も!」
美人と呼ばれた坂上大尉はさっと顔を伏せる。真九郎といえばニッコリと笑顔で手を振っていた。ちょっと鼻が上に向いている。
「あの娘、鬼人族じゃないか? なんかどっかで見たことがあるよ」
「勇者ナインだよ! 大聖堂の絵に描かれている勇者の姿にそっくりだ!」
勇者ナインは、数百年前にこの大陸を魔王の脅威から救った英雄である。この大陸の者であれば、知らぬものはないほど有名であるにも拘わらず、その種族や性別については曖昧な伝承しか残っていない。
大聖堂に飾られている「魔王討伐絵図」で描かれている勇者ナインの姿は、人にも鬼人族にも、男性にも女性にも見えるように描かれていた。
勇者ナインの話題になって、盛り上がった冒険者たち。真九郎を指差しながら、それぞれの勇者ナインに関する持論を語り始めた。
だがそんな冒険者たちは知らない。
彼らの目の前にいる真九郎こそが、勇者ナインその人であることを。この不破寺真九郎、女神の強引な要請で、数百年前のこの大陸に転移させられたことがある。
勇者として魔王を倒した後、元の世界に戻されたのだが、勇者ナインというのは真九郎の帰還後に王から与えられた名前なので、当人は誰のことか気付かないでいた。
「勇者様に似てるとか、何だかこそばゆいですん!」
自分のこととは露知らず照れる真九郎。
「わたしも、大聖堂で勇者様の絵を見たことがありますが、確かに真九郎さんに似てたような気がします!」
その勇者ナインが目の前にいることを知らず、ただ真九郎のご機嫌を取りたくて適当なことを言うミライだった。
黒髪美人ともてはやされる坂上とミライ、勇者ナインの再来だと褒めちぎられる真九郎を横目に、そこに居ないかのようにスルーされた南大尉が、真面目に任務を遂行することに決めた。決して不貞腐れたわけではない。
「ミライちゃん、俺たちの艦長がロイド子爵と話したいって言うんだけど、何とかならない?」
南大尉の言葉を聞いて、ミライが何かを思い出したように手を叩いた。
「そうでした! ロイド様からは、もしフワデラの方がいらっしゃるようなことがあれば、ご案内するようにと仰せつかっておりました!」
こうして南大尉たちは、ミライの案内でロイド子爵家へ向かった。
酒場の片隅で一連の騒ぎの様子をじっと見ていたローブ姿の男が、南大尉たちの後を追うように外へ出て行った。
その後、プラチナ冒険者であるガラムの口添えもあって、ロイド子爵家のメイドとして雇われることとなった。
ただロイド家は長男と次女が王都の学校に通っていて不在だったこともあって、邸宅内の仕事は減っている状況。ミライのすることはほとんどなかった。
そこでミライに与えられた新たな仕事が、冒険者ギルド内にある酒場での給仕であった。
このときのロイド子爵の指示は「冒険者ギルドに常駐して、内外の情報を集めること」と「ガラムが町に戻ってきたら報告すること、可能なら引っ張ってくること」の二つ。
ギルド内の酒場での給仕は、ロイド子爵の両方の指示を実行するのに最適な場所であったのだ。そうして酒場で働き始めた結果、今では美少女メイドのミライを目当てに、冒険者でもないのにギルドの酒場に出入りする客まで増え始めている。
そんなミライの外見は小柄で細い身体で黒髪黒目。この国の人々にとっては珍しい外見だ。それが美少女ともなれば良く目立つ。荒くれ者が集まる冒険者ギルドで、小柄な少女は、酔っぱらった客やガラの悪い客に絡まれやすい。
だがこのギルドにおいて、ミライに余計なちょっかいを掛けるものは誰一人としていない。いかにも小悪党な性格がその顔に滲み出ている連中でさえ、ミライに対しては礼儀正しく接するよう心掛けているように見えた。
それもそのはず。ミライは「メイド神拳」と呼ばれる武術の達人であり、本人は秘密にしているが「萌拳」と呼ばれる拳法の使い手でもあるからだ。
給仕を始めた当初こそは、色々な冒険者たちがミライに手を出そうとした。しかし、そのことごとくを、ミライは「メイド神拳」によって一撃で沈めていったのだ。
今ではミライがロイド子爵家で雇用されているメイドであることと、プラチナ冒険者のガラムが後見人という話が知れ渡っているため、ミライに対しては無礼を働く者はいなくなっていたのだ。
それどころか、ミライはその明るい性格で冒険者たちの心を掴み、ちょっとしたアイドル扱いになっていた。
そんなミライが大喜びで迎えた三人の人物に、酒場にいる全員の注目が集まった。
「ミライちゃん、そこの三人は同郷の人かい?」
「黒髪の美人が二人も!」
美人と呼ばれた坂上大尉はさっと顔を伏せる。真九郎といえばニッコリと笑顔で手を振っていた。ちょっと鼻が上に向いている。
「あの娘、鬼人族じゃないか? なんかどっかで見たことがあるよ」
「勇者ナインだよ! 大聖堂の絵に描かれている勇者の姿にそっくりだ!」
勇者ナインは、数百年前にこの大陸を魔王の脅威から救った英雄である。この大陸の者であれば、知らぬものはないほど有名であるにも拘わらず、その種族や性別については曖昧な伝承しか残っていない。
大聖堂に飾られている「魔王討伐絵図」で描かれている勇者ナインの姿は、人にも鬼人族にも、男性にも女性にも見えるように描かれていた。
勇者ナインの話題になって、盛り上がった冒険者たち。真九郎を指差しながら、それぞれの勇者ナインに関する持論を語り始めた。
だがそんな冒険者たちは知らない。
彼らの目の前にいる真九郎こそが、勇者ナインその人であることを。この不破寺真九郎、女神の強引な要請で、数百年前のこの大陸に転移させられたことがある。
勇者として魔王を倒した後、元の世界に戻されたのだが、勇者ナインというのは真九郎の帰還後に王から与えられた名前なので、当人は誰のことか気付かないでいた。
「勇者様に似てるとか、何だかこそばゆいですん!」
自分のこととは露知らず照れる真九郎。
「わたしも、大聖堂で勇者様の絵を見たことがありますが、確かに真九郎さんに似てたような気がします!」
その勇者ナインが目の前にいることを知らず、ただ真九郎のご機嫌を取りたくて適当なことを言うミライだった。
黒髪美人ともてはやされる坂上とミライ、勇者ナインの再来だと褒めちぎられる真九郎を横目に、そこに居ないかのようにスルーされた南大尉が、真面目に任務を遂行することに決めた。決して不貞腐れたわけではない。
「ミライちゃん、俺たちの艦長がロイド子爵と話したいって言うんだけど、何とかならない?」
南大尉の言葉を聞いて、ミライが何かを思い出したように手を叩いた。
「そうでした! ロイド様からは、もしフワデラの方がいらっしゃるようなことがあれば、ご案内するようにと仰せつかっておりました!」
こうして南大尉たちは、ミライの案内でロイド子爵家へ向かった。
酒場の片隅で一連の騒ぎの様子をじっと見ていたローブ姿の男が、南大尉たちの後を追うように外へ出て行った。
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