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第十章 ゴンドワルナ大陸(平野艦長)
第206話 子爵一家をご招待
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ロイド子爵とその妻、そして末の子ハンスを乗せたSH-60L哨戒ヘリが、護衛艦ヴィルミアーシェの後甲板に着艦した。
ヘリから降り立ったロイド一家は、全員が顔面が真っ青になっていたものの、貴族としての威厳を損なうことなく、にこやかな笑顔で平野艦長の前に立って挨拶する。
とはいえロイド夫人と末っ子のハンスは、今にも倒れそうなほど疲れている様子だったので、平野は慌てて彼らを艦内に案内した。
「艦長の平野です! ようこそロイド子爵とご家族の皆様、まずは取り急ぎ艦長室へどうぞ!」
艦長室についたロイド一家は、ソファに腰を下ろすとようやく一息つくことができた。
「ロイド子爵様、奥方様、お坊ちゃん、お疲れ様ですん。お茶とお菓子をどうぞですん」
そう言って真九郎がお茶を差し出した後に、竜子が桃の水菓子をテーブルに置いていく。
「あぁ、キミは先日、我が家を訪れた鬼人族の……確か……」
「真九郎ですん! それでこちらが竜子ちゃんですん!」
「りゅ、竜子です。は、初めまして子爵様」
今日の客が貴族のエライ人だと聞かされていた竜子は、とても緊張していた。ルカに対してもそうだが、権力者には滅法弱い竜子なのであった。
「わぁ、これ綺麗だね? 食べられるの?」
末っ子のハンスが、目をキラキラさせて桃の水菓子を指差した。
「ハンス! 礼儀がなっていませんよ! でも本当に綺麗ね」
水まんじゅうの中に桃が入った水菓子の美しさに、ロイド夫人も感心していた。
「まずお話の前に、ぜひ我が帝国のお茶とお菓子をお楽しみください」
夫人と末っ子の期待に満ちた視線を受けたロイド子爵は、苦笑いしつつ平野に向かってうなずいた。
それからしばらくは、平野と真九郎とロイド夫人による、お菓子の話題に花が咲いた。
「まぁ、帝国にはそれほど多くのお菓子がございますの?」
「そうですよん! お菓子だけでなく、帝国人が食に懸ける情熱というのは、この世界の人からみたら尋常じゃないものがありますですん。この船で食べられるお菓子の種類だけでも、数百はありますからねん」
「あらあら、まぁまぁ! そんなに沢山のお菓子があるの!?」
と、盛り上がっている横で、末っ子のハンスは竜子と仲良くなっていた。竜子の持つスマホを眺めながら目をキラキラさせている。
「えっ!? なにこれ! 絵が動いてるよ! って、これ竜子ちゃんじゃない!?」
「ふふん。そうだよ。これ私のチャンネルで『きゅんきゅん♡ワイバーン』っていうの、ほら見て! このダンス動画なんて一カ月で1000PV(ページビュー)いったんだから!」
そのPVのうち半分は自分が見返したものであることを、竜子は黙っていた。
「すごい! 竜子ちゃんってとってもすごいんだね!」
竜子ファン第一号の誕生の瞬間であった。
そして――
「あなた、わたくし真九郎さんと帝国のスイーツを食べに行きたいわ」
「お父様! 竜子ちゃんがこの船を案内してくれるって! 行ってきてもいい?」
そんな二人に大きくため息を吐くロイド子爵。
「ロイド様、お二人にはそれぞれ南と坂上を付けますので、夕食まで艦内を散策していただくというのはいいかがでしょうか」
「我が妻と息子がご迷惑をかけて申し訳ない。二人のことはお任せする。その間に、我々は大事な話をするとしよう。では二人ともあまりはしゃぎすぎないようにな」
ロイド子爵の許可を得たロイド夫人とハンスは、大はしゃぎしながら真九郎や竜子の手を引いて、艦長室を出て行った。
「それでは、私たちがこの大陸に来た理由からご説明申し上げます」
艦長室に残されたロイド子爵と平野は、お互いに真剣な表情で向き合った。
平野から悪魔勇者捜索の話を聞いたロイド子爵は、すぐにその重要性を理解した。悪魔勇者の召喚は、この大陸においても重い禁忌であるとされていたからだ。
炎王と呼ばれた前王ウルスなどは、悪魔勇者召喚を行おうとしたタイタス王国を滅ぼしている。
ウルス王は、歴史の彼方の出来事と埋もれつつあった魔王の襲来を、現実のものとして受け止めていた。そして魔王の誕生そのものを防ぐために、悪魔勇者召喚を行おうとするものを徹底的に弾圧している。
さらには勇者支援学校エ・ダジーマを設立し、勇者が現れた際の万全の支援ができるよう力を注いでいた。ちなみに、ロイド伯の長男と次女が現在この学校に通っている。
ロイド子爵は、この魔王が誰であるかについて、自分なりに考えを持っていた。
「今から10年ほど昔は、ヨルンの鬼人王ヴェルクレイオスが魔王なのではないかと考えていた。だが彼は暗殺されてしまった。今、ヨルンを統べている者がいるのかは判然としないが、私は間違いなく存在していると考えている」
ヨルンは、ゴンドワルナ大陸の北方に位置する地域の名称であり、そこには数多くの魔族が部族を率いて争い合っていた。
それを統一して魔族の国を作り上げつつあったのが、ヴェルクレイオスであった。当時の彼は、ヨルンの中でも最強の戦士であり、多くの魔族が彼こそが次代の魔王であると信じていた。
その彼が殺されてしまった。
しかし、本来ならそこでバラバラとなって、互いに争いあうはずの魔族は、なぜか一つにまとまり、その後、ヨルンはゆるやかな魔族連合を成立させていた。
そして今は、ヨルンと国境を接するサマワール帝国やカナン王国にたびたび攻め入っている。
「明らかに、ヨルンの魔族たちをまとめている誰かがいて、今、この大陸に戦火を広げようとしているのは確かです。おそらくその誰かが……」
そこで黙り込んでしまったロイド伯の言葉を、平野が続けた。
「悪魔勇者……ですね」
二人の間に重い沈黙が訪れた。
ヘリから降り立ったロイド一家は、全員が顔面が真っ青になっていたものの、貴族としての威厳を損なうことなく、にこやかな笑顔で平野艦長の前に立って挨拶する。
とはいえロイド夫人と末っ子のハンスは、今にも倒れそうなほど疲れている様子だったので、平野は慌てて彼らを艦内に案内した。
「艦長の平野です! ようこそロイド子爵とご家族の皆様、まずは取り急ぎ艦長室へどうぞ!」
艦長室についたロイド一家は、ソファに腰を下ろすとようやく一息つくことができた。
「ロイド子爵様、奥方様、お坊ちゃん、お疲れ様ですん。お茶とお菓子をどうぞですん」
そう言って真九郎がお茶を差し出した後に、竜子が桃の水菓子をテーブルに置いていく。
「あぁ、キミは先日、我が家を訪れた鬼人族の……確か……」
「真九郎ですん! それでこちらが竜子ちゃんですん!」
「りゅ、竜子です。は、初めまして子爵様」
今日の客が貴族のエライ人だと聞かされていた竜子は、とても緊張していた。ルカに対してもそうだが、権力者には滅法弱い竜子なのであった。
「わぁ、これ綺麗だね? 食べられるの?」
末っ子のハンスが、目をキラキラさせて桃の水菓子を指差した。
「ハンス! 礼儀がなっていませんよ! でも本当に綺麗ね」
水まんじゅうの中に桃が入った水菓子の美しさに、ロイド夫人も感心していた。
「まずお話の前に、ぜひ我が帝国のお茶とお菓子をお楽しみください」
夫人と末っ子の期待に満ちた視線を受けたロイド子爵は、苦笑いしつつ平野に向かってうなずいた。
それからしばらくは、平野と真九郎とロイド夫人による、お菓子の話題に花が咲いた。
「まぁ、帝国にはそれほど多くのお菓子がございますの?」
「そうですよん! お菓子だけでなく、帝国人が食に懸ける情熱というのは、この世界の人からみたら尋常じゃないものがありますですん。この船で食べられるお菓子の種類だけでも、数百はありますからねん」
「あらあら、まぁまぁ! そんなに沢山のお菓子があるの!?」
と、盛り上がっている横で、末っ子のハンスは竜子と仲良くなっていた。竜子の持つスマホを眺めながら目をキラキラさせている。
「えっ!? なにこれ! 絵が動いてるよ! って、これ竜子ちゃんじゃない!?」
「ふふん。そうだよ。これ私のチャンネルで『きゅんきゅん♡ワイバーン』っていうの、ほら見て! このダンス動画なんて一カ月で1000PV(ページビュー)いったんだから!」
そのPVのうち半分は自分が見返したものであることを、竜子は黙っていた。
「すごい! 竜子ちゃんってとってもすごいんだね!」
竜子ファン第一号の誕生の瞬間であった。
そして――
「あなた、わたくし真九郎さんと帝国のスイーツを食べに行きたいわ」
「お父様! 竜子ちゃんがこの船を案内してくれるって! 行ってきてもいい?」
そんな二人に大きくため息を吐くロイド子爵。
「ロイド様、お二人にはそれぞれ南と坂上を付けますので、夕食まで艦内を散策していただくというのはいいかがでしょうか」
「我が妻と息子がご迷惑をかけて申し訳ない。二人のことはお任せする。その間に、我々は大事な話をするとしよう。では二人ともあまりはしゃぎすぎないようにな」
ロイド子爵の許可を得たロイド夫人とハンスは、大はしゃぎしながら真九郎や竜子の手を引いて、艦長室を出て行った。
「それでは、私たちがこの大陸に来た理由からご説明申し上げます」
艦長室に残されたロイド子爵と平野は、お互いに真剣な表情で向き合った。
平野から悪魔勇者捜索の話を聞いたロイド子爵は、すぐにその重要性を理解した。悪魔勇者の召喚は、この大陸においても重い禁忌であるとされていたからだ。
炎王と呼ばれた前王ウルスなどは、悪魔勇者召喚を行おうとしたタイタス王国を滅ぼしている。
ウルス王は、歴史の彼方の出来事と埋もれつつあった魔王の襲来を、現実のものとして受け止めていた。そして魔王の誕生そのものを防ぐために、悪魔勇者召喚を行おうとするものを徹底的に弾圧している。
さらには勇者支援学校エ・ダジーマを設立し、勇者が現れた際の万全の支援ができるよう力を注いでいた。ちなみに、ロイド伯の長男と次女が現在この学校に通っている。
ロイド子爵は、この魔王が誰であるかについて、自分なりに考えを持っていた。
「今から10年ほど昔は、ヨルンの鬼人王ヴェルクレイオスが魔王なのではないかと考えていた。だが彼は暗殺されてしまった。今、ヨルンを統べている者がいるのかは判然としないが、私は間違いなく存在していると考えている」
ヨルンは、ゴンドワルナ大陸の北方に位置する地域の名称であり、そこには数多くの魔族が部族を率いて争い合っていた。
それを統一して魔族の国を作り上げつつあったのが、ヴェルクレイオスであった。当時の彼は、ヨルンの中でも最強の戦士であり、多くの魔族が彼こそが次代の魔王であると信じていた。
その彼が殺されてしまった。
しかし、本来ならそこでバラバラとなって、互いに争いあうはずの魔族は、なぜか一つにまとまり、その後、ヨルンはゆるやかな魔族連合を成立させていた。
そして今は、ヨルンと国境を接するサマワール帝国やカナン王国にたびたび攻め入っている。
「明らかに、ヨルンの魔族たちをまとめている誰かがいて、今、この大陸に戦火を広げようとしているのは確かです。おそらくその誰かが……」
そこで黙り込んでしまったロイド伯の言葉を、平野が続けた。
「悪魔勇者……ですね」
二人の間に重い沈黙が訪れた。
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