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第一章 護衛艦フワデラ
第43話 古代神殿の悪夢 Side:ミ=ゴ
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~ 古代神殿破壊、数時間前 ~
古代神殿の地下で雌伏の時を過ごしていた妾《わらわ》は、一昨日から侵入者がここへ近づいていることに気付いていた。
妾の前では目覚めた子どもたちが集って、花の蕾のような頭を微かに震わせておる。
「「偉大なるマザー! 我々に道をお示しください」」
子供たちが羽を振るわせて音を立てて妾の指示を仰ぐ。
「侵入者は全て生きたまま捕らえなさい。その脳を夢見る機械で十分に肥えさせた後に食餌とするのです」
妾の意志を受けた兵隊ミ=ゴたちが、羽音を立てながら侵入者たちのところへ向かっていく姿を妾は愛おしく思いつつ見送った。
久々に新鮮な脳を味わうことができる期待に、妾は頭部から涎が流れ出すのを止められない。
この星に取り残されたミ=ゴを率いてきた王たるドドミ=ゴが、何者かによって殺されて以降、我らはこの地下で雌伏の時を過ごしてきた。
魔族共を恐怖で縛り定期的に脳を献納させていたのだが、ドドミ=ゴの死はそれを途絶えさせることになった。
幸い魔鉱石が豊富なこの場所にいる限り、飢えて死ぬようなことはない。ただしそれだけだった。
今では地上階にある脳の精神汚染施設を動かすことさえできず、貴重な脳を腐らせてしまった。
この星の生物の脳を採集し、精神汚染によって発酵させた上で食する楽しみは断たれてしまっていた。
「あぁ口惜しい。あの、ゆうしゃとやらの爛れた精神……至高の味となっただろうに……」
唯一の希望は、茂木という勇者の存在だ。
「あの男は、妾に約束した。妾に大陸中の脳を好きなだけ喰わせると……」
その時は近い。
これまでずっと地上の動向など全く興味はなかったが、勇者の話を聞いてからは一変した。
勇者である茂木は魔族共を率いて人類を蹂躙するつもりだと言っていた。茂木たちが勝利するための鍵となるのが妾達であると。その時の茂木の顔が思い出される。
「家畜豚《ニンゲン》共は、この山脈で北と南に分断されてるんだ。北の連中は、まだ自分たちが戦火に巻き込まれると思ってねぇ。呑気なもんさ」
そのことについては妾も承知している。時折、無謀にも山脈越えを選択した旅人の脳から、そうした記憶を見たことがある。
北方の国々は、魔族と人類軍の衝突を半ば他人事のように観察しているようだった。少々の軍隊を派遣している北方国もあったようだが、それはアリバイ作りのためであることが明らかだ。
……それにしても、精神汚染施設が稼働していれば熟した脳を味わえたものを。直接、吸うのは妾の肥えた舌にはいまひとつ合わぬ。
「まぁ、そこでだ。あんたらミ=ゴ? は、時が来たら一斉に山から下りてここら辺の都市で暴れまわって欲しいわけよ。なに無茶は言わねぇよ。ビビらせるだけでいい。後は俺たちが蹂躙する」
そう言って勇者茂木は、これまで途絶えていた脳の供給を再開してくれた。
「必要な脳みそは魔族共に運ばせっからよ。それまで数を増やして蹂躙の時に備えておいてくれや」
妾は勇者茂木の言葉に従い、これまでずっとミ=ゴたちの数を増やし続けてきた。脳さえあれば文句はない。
精神汚染施設は稼働できなかったが、それは勇者茂木が約束を果たしてから、子供たちに修復に取り組ませれば良いだけのことだ。
来るべき祝福の日を待ち遠しく思いながら、妾は日々、新しい子どもたちを生み続けていた。
~ 古代神殿破壊直前 ~
「偉大なるマザー! 奴らが基地の内部へ侵入しました!」
不快……
不快じゃ!
侵入者を捉えに向った子供たちは誰一人として戻らなかった。
それだけではない。侵入者たちは、妾の子供たちを育ている地下広間までやってきおった。
今や妾が感知できる目の前まで到達している。
不快……
不快じゃ!
彼奴らをどうやって狂い死にさせてやろうか!
一人ひとり、その仲間の目の前で脳髄を堪能してやろうか!
その無礼をどうやって恐怖と共に脳に刻み込んでやろうか!
そんなことを考えているとき、侵入者の一人が妾の魔鉱石に手を付けた。
「ギィィィィィィィ! この猿がぁぁぁぁ!」
妾が怒りのあまり羽を鳴らすと、子供たち全員が跳ね起きた。
「皆で食い散らかすがよい! 脳と言わず、身体と言わず、喰いつくすがよい!」
妾の言葉を受け、その場にる全てのミ=ゴが侵入者たちに襲い掛かる。
「撃ちます!」
侵入者のひとりがそんな音を発した。
次の瞬間、この地下広間のあちこちに巨大な爆発が発生した。
「何が起こったのじゃ!? 魔術!? 何故じゃ!? ここで魔術は使えないはず!」
この地下では、魔鉱石から無限に供給される魔力を駆使して、妾はスキル【沈黙の神殿】を展開し続けている。この影響範囲にいる者は誰であれ魔術を行使することはできないはずだ。
「魔力を使っていないのか? 魔術ではないのか?」
混乱の中、侵入者たちは撤退を始めている。
逃がしてなるものか!
だが魔力を使わない彼奴等の魔法が、激しい光と音を発しながら妾の子供たちを次々と大地へ沈めて行く。
侵入者たちが吹雪く山道の中へ消えたとき、妾はほとんどの子供たちを失っていた。
妾のバラの蕾のような頭部が真紅に染まる。
この恨み……晴らさずにおくべきものか。
大陸中の人間の脳を、彼奴等が最も苦しむ残酷な方法で吸い尽くしてやる!
妾は子どもたちの遺骸を集め、それを喰らいつつ慟哭する。
ひとまず満腹した、その時――
凄まじい衝撃が――
~ 護衛艦フワデラCIC ~
「全弾着弾!」
山形砲雷科長が平野副長に向って叫ぶ。
平野副長は受話器を手に取り、マルラナ山中にいる艦長に報告する。
「艦長、全弾着弾。目標を破壊しました」
古代神殿は跡形もなく破壊された。
古代神殿の地下で雌伏の時を過ごしていた妾《わらわ》は、一昨日から侵入者がここへ近づいていることに気付いていた。
妾の前では目覚めた子どもたちが集って、花の蕾のような頭を微かに震わせておる。
「「偉大なるマザー! 我々に道をお示しください」」
子供たちが羽を振るわせて音を立てて妾の指示を仰ぐ。
「侵入者は全て生きたまま捕らえなさい。その脳を夢見る機械で十分に肥えさせた後に食餌とするのです」
妾の意志を受けた兵隊ミ=ゴたちが、羽音を立てながら侵入者たちのところへ向かっていく姿を妾は愛おしく思いつつ見送った。
久々に新鮮な脳を味わうことができる期待に、妾は頭部から涎が流れ出すのを止められない。
この星に取り残されたミ=ゴを率いてきた王たるドドミ=ゴが、何者かによって殺されて以降、我らはこの地下で雌伏の時を過ごしてきた。
魔族共を恐怖で縛り定期的に脳を献納させていたのだが、ドドミ=ゴの死はそれを途絶えさせることになった。
幸い魔鉱石が豊富なこの場所にいる限り、飢えて死ぬようなことはない。ただしそれだけだった。
今では地上階にある脳の精神汚染施設を動かすことさえできず、貴重な脳を腐らせてしまった。
この星の生物の脳を採集し、精神汚染によって発酵させた上で食する楽しみは断たれてしまっていた。
「あぁ口惜しい。あの、ゆうしゃとやらの爛れた精神……至高の味となっただろうに……」
唯一の希望は、茂木という勇者の存在だ。
「あの男は、妾に約束した。妾に大陸中の脳を好きなだけ喰わせると……」
その時は近い。
これまでずっと地上の動向など全く興味はなかったが、勇者の話を聞いてからは一変した。
勇者である茂木は魔族共を率いて人類を蹂躙するつもりだと言っていた。茂木たちが勝利するための鍵となるのが妾達であると。その時の茂木の顔が思い出される。
「家畜豚《ニンゲン》共は、この山脈で北と南に分断されてるんだ。北の連中は、まだ自分たちが戦火に巻き込まれると思ってねぇ。呑気なもんさ」
そのことについては妾も承知している。時折、無謀にも山脈越えを選択した旅人の脳から、そうした記憶を見たことがある。
北方の国々は、魔族と人類軍の衝突を半ば他人事のように観察しているようだった。少々の軍隊を派遣している北方国もあったようだが、それはアリバイ作りのためであることが明らかだ。
……それにしても、精神汚染施設が稼働していれば熟した脳を味わえたものを。直接、吸うのは妾の肥えた舌にはいまひとつ合わぬ。
「まぁ、そこでだ。あんたらミ=ゴ? は、時が来たら一斉に山から下りてここら辺の都市で暴れまわって欲しいわけよ。なに無茶は言わねぇよ。ビビらせるだけでいい。後は俺たちが蹂躙する」
そう言って勇者茂木は、これまで途絶えていた脳の供給を再開してくれた。
「必要な脳みそは魔族共に運ばせっからよ。それまで数を増やして蹂躙の時に備えておいてくれや」
妾は勇者茂木の言葉に従い、これまでずっとミ=ゴたちの数を増やし続けてきた。脳さえあれば文句はない。
精神汚染施設は稼働できなかったが、それは勇者茂木が約束を果たしてから、子供たちに修復に取り組ませれば良いだけのことだ。
来るべき祝福の日を待ち遠しく思いながら、妾は日々、新しい子どもたちを生み続けていた。
~ 古代神殿破壊直前 ~
「偉大なるマザー! 奴らが基地の内部へ侵入しました!」
不快……
不快じゃ!
侵入者を捉えに向った子供たちは誰一人として戻らなかった。
それだけではない。侵入者たちは、妾の子供たちを育ている地下広間までやってきおった。
今や妾が感知できる目の前まで到達している。
不快……
不快じゃ!
彼奴らをどうやって狂い死にさせてやろうか!
一人ひとり、その仲間の目の前で脳髄を堪能してやろうか!
その無礼をどうやって恐怖と共に脳に刻み込んでやろうか!
そんなことを考えているとき、侵入者の一人が妾の魔鉱石に手を付けた。
「ギィィィィィィィ! この猿がぁぁぁぁ!」
妾が怒りのあまり羽を鳴らすと、子供たち全員が跳ね起きた。
「皆で食い散らかすがよい! 脳と言わず、身体と言わず、喰いつくすがよい!」
妾の言葉を受け、その場にる全てのミ=ゴが侵入者たちに襲い掛かる。
「撃ちます!」
侵入者のひとりがそんな音を発した。
次の瞬間、この地下広間のあちこちに巨大な爆発が発生した。
「何が起こったのじゃ!? 魔術!? 何故じゃ!? ここで魔術は使えないはず!」
この地下では、魔鉱石から無限に供給される魔力を駆使して、妾はスキル【沈黙の神殿】を展開し続けている。この影響範囲にいる者は誰であれ魔術を行使することはできないはずだ。
「魔力を使っていないのか? 魔術ではないのか?」
混乱の中、侵入者たちは撤退を始めている。
逃がしてなるものか!
だが魔力を使わない彼奴等の魔法が、激しい光と音を発しながら妾の子供たちを次々と大地へ沈めて行く。
侵入者たちが吹雪く山道の中へ消えたとき、妾はほとんどの子供たちを失っていた。
妾のバラの蕾のような頭部が真紅に染まる。
この恨み……晴らさずにおくべきものか。
大陸中の人間の脳を、彼奴等が最も苦しむ残酷な方法で吸い尽くしてやる!
妾は子どもたちの遺骸を集め、それを喰らいつつ慟哭する。
ひとまず満腹した、その時――
凄まじい衝撃が――
~ 護衛艦フワデラCIC ~
「全弾着弾!」
山形砲雷科長が平野副長に向って叫ぶ。
平野副長は受話器を手に取り、マルラナ山中にいる艦長に報告する。
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古代神殿は跡形もなく破壊された。
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