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第七章 悪魔勇者討伐作戦
第145話 困ったときの対処法
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月光基地の指揮所では、井上貴子少尉がルートリア連邦内に潜入中の坂上隊と連絡を取っていた。
指揮所に入った私は井上少尉に、そのまま通信を継続するように目で合図を送り、白狼族のヴィルフォローランから状況についての報告を受ける。
「ヒトゴーマルサンに、妖異軍と戦闘中の人類軍を発見しました。双月光分隊は隠密活動を継続していましたが、両軍が近くにあった魔族の村に戦場を移し、村人に犠牲者が出始めて……」
「おい……まさか……」
「カーラが……その……魔族の子供を助けるために飛び出してしまって……」
あの黒毛狼!
隠密行動だって散々言い聞かせていたのに!
と、一瞬は怒ったものの、当然ながらこんな事態は想定済みだ。
「なるほど、それで今は井上少尉がアラクネを遠隔操作して、坂上たちの戦闘支援を行っているわけか」
指揮所のモニタに映し出されている現地映像や井上少尉の通信から、妖異軍の殲滅が既に終了しつつあることが伝わってくる。
アラクネから送られてくる映像は村を俯瞰するものだった。アラクネは山中に潜伏したまま迫撃砲による支援を行っていたらしく、まだその存在は人類軍には気付かれていないようだ。
私に向って井上少尉が現在の状況を伝える。
「妖異の殲滅確認。後方に待機していた妖異軍の魔族が岩トロルを放棄して撤退を始めています。岩トロルを破壊しますか?」
まだ日が高い。夜の間しか行動することができない岩トロルは動けないだろう。
「岩トロルはそのままで。ただいつでも破壊できるようロックオンだけしておいてくれ」
「了! 人類軍部隊の隊長と思われる人物がアッシュに接近しています」
「通信を替わってくれ」
少尉が私のインカムに通信をリンクさせている間、私は指揮所の各モニタを確認し、現場の状況を把握することに務めた。
戦闘は魔族の村で行われていたということだが、モニタから見る限りただの深い森でしかない。
ただアラクネからの俯瞰映像を見ると、なんとなく集落が形成されていると言えなくもないような、人為的に手が加えられているようにも見える地形ではある。
あと村の存在を感じさせるものとしては、ヴィルミカーラの両手にしがみついている二人の子供。
尖った耳、金髪と青い目は、まるでエルフ……にしては小さくて丸っこい。
私自身は何度もエルフを見たことがある。グレイベア村にも何人かいたし、エルフの村に行ったこともある。
シンイチの身内が村長を務めているその村には、現在給油基地を設置させてもらっている。その関係で何度も村を訪れたことがあり、そこでエルフの子供たちを見たこともある。
私が出会ったエルフたちは子供からして美男美女、小さいながらにして身体のスタイルまで完成していた感がある。
だがヴィルミカーラの左右にいる子供はずんぐりむっくりしている。髪の毛も、エルフについてはストレートヘアしか見たことないが、彼らはかなりの癖毛。これはまるで……
井上貴子少尉のつぶやく声が耳に入って来た。
「まるでホビットみたいですね」
なるほどそれだ!
合点した私が手を打ったとき、アッシュから小声で通信が入ってきた。
『艦長、隊長らしき男が話しているのはルートリア共通語のようです。私はルートリア共通語をほとんどしゃべれません』
ヴィルフォアッシュの声に若干の焦りが感じられた。
彼の少し後方に立っている南大尉のカメラ映像から、人類軍隊長が愛想笑いを浮かべつつ近づいてくるのが見えた。
坂上隊の参戦によって、不利な状況にあった人類軍は一気に形勢逆転したことから、その愛想笑いの意味を想像するのはたやすい。
少なくとも好意的な接触からスタートすることができるのは間違いない。
私はヴィルフォアッシュに落ち着くように言い、こういう事態になったときの対処を厳正に行うように伝えた。
『わ、わかりました……やってみます』
ヴィルフォアッシュが話始めると、隊長の顔がだんだんと険しい感じに変わっていった。
表情や態度から察するに、どうやらヴィルフォアッシュを怪しんでいるというよりは、どうも軽蔑しているように思える。
想像だが、ルートリア共通語を話せない者を、蛮族とか田舎者とか見下すような風潮があるのだろう。
だんだんと隊長の態度が横柄になってくるのは見ていて腹立たしかったが、それでも警戒されるよりはよほどマシだ。
一生懸命にヴィルフォアッシュは、
『わたしたち、ぼうけんしゃ、はくろうぞく、ぼうけんしゃ』※ルートリア共通語
「誰かに見つかったときは冒険者で通せ!」という、やぶれかぶれな対処法をひたすら貫き通していた。
『ようい、てき、たおす、おかね、はいる、ぼうけんしゃ』※ルートリア共通語
ヴィルフォアッシュが話せば話すほど隊長の顔がどんどんと険しくなっていく。だが私の伝えた情報をヴィルフォアッシュが口にした途端、隊長の顔が一瞬で真っ青に染まる。
『岩トロル! あっち! 岩トロル!』※ルートリア共通語
隊長は大慌てで騎馬兵に何やら指示を出すと、騎馬兵はヴィルフォアッシュが指差した方向へ馬を飛ぶように走らせた。
10分もしないうちに騎馬兵が戻ってきて、隊長に向って何事か叫んでいた。
言葉はさっぱりわからないが、間違いなく岩トロルの存在を確認したという報告だろう。
目をひん剥いて驚いている隊長に、ヴィルフォアッシュが空を指差す。
『よる! くる! 岩トロル! あるく!』 ※ルートリア共通語
空は赤く染まり始めており、急速に夜が迫りつつあった。
『はやく! にげる! いっしょ! にげる!』 ※ルートリア共通語
ヴィルフォアッシュの必死の訴えを振り払い――
人類軍は速やかに撤退して行った。
~ それから30分後 ~
「艦長、岩トロルの振動を検知。間もなく動き始めます!」
「撃て」
「了!」
ドドーン!
ドドーン!
アラクネに搭載されている96式40ミリ自動擲弾によって岩トロルは粉々に粉砕された。
こうして妖異軍と人類軍は去り、
岩トロルは魔鉱石へと姿を変え、
夜が訪れた。
指揮所に入った私は井上少尉に、そのまま通信を継続するように目で合図を送り、白狼族のヴィルフォローランから状況についての報告を受ける。
「ヒトゴーマルサンに、妖異軍と戦闘中の人類軍を発見しました。双月光分隊は隠密活動を継続していましたが、両軍が近くにあった魔族の村に戦場を移し、村人に犠牲者が出始めて……」
「おい……まさか……」
「カーラが……その……魔族の子供を助けるために飛び出してしまって……」
あの黒毛狼!
隠密行動だって散々言い聞かせていたのに!
と、一瞬は怒ったものの、当然ながらこんな事態は想定済みだ。
「なるほど、それで今は井上少尉がアラクネを遠隔操作して、坂上たちの戦闘支援を行っているわけか」
指揮所のモニタに映し出されている現地映像や井上少尉の通信から、妖異軍の殲滅が既に終了しつつあることが伝わってくる。
アラクネから送られてくる映像は村を俯瞰するものだった。アラクネは山中に潜伏したまま迫撃砲による支援を行っていたらしく、まだその存在は人類軍には気付かれていないようだ。
私に向って井上少尉が現在の状況を伝える。
「妖異の殲滅確認。後方に待機していた妖異軍の魔族が岩トロルを放棄して撤退を始めています。岩トロルを破壊しますか?」
まだ日が高い。夜の間しか行動することができない岩トロルは動けないだろう。
「岩トロルはそのままで。ただいつでも破壊できるようロックオンだけしておいてくれ」
「了! 人類軍部隊の隊長と思われる人物がアッシュに接近しています」
「通信を替わってくれ」
少尉が私のインカムに通信をリンクさせている間、私は指揮所の各モニタを確認し、現場の状況を把握することに務めた。
戦闘は魔族の村で行われていたということだが、モニタから見る限りただの深い森でしかない。
ただアラクネからの俯瞰映像を見ると、なんとなく集落が形成されていると言えなくもないような、人為的に手が加えられているようにも見える地形ではある。
あと村の存在を感じさせるものとしては、ヴィルミカーラの両手にしがみついている二人の子供。
尖った耳、金髪と青い目は、まるでエルフ……にしては小さくて丸っこい。
私自身は何度もエルフを見たことがある。グレイベア村にも何人かいたし、エルフの村に行ったこともある。
シンイチの身内が村長を務めているその村には、現在給油基地を設置させてもらっている。その関係で何度も村を訪れたことがあり、そこでエルフの子供たちを見たこともある。
私が出会ったエルフたちは子供からして美男美女、小さいながらにして身体のスタイルまで完成していた感がある。
だがヴィルミカーラの左右にいる子供はずんぐりむっくりしている。髪の毛も、エルフについてはストレートヘアしか見たことないが、彼らはかなりの癖毛。これはまるで……
井上貴子少尉のつぶやく声が耳に入って来た。
「まるでホビットみたいですね」
なるほどそれだ!
合点した私が手を打ったとき、アッシュから小声で通信が入ってきた。
『艦長、隊長らしき男が話しているのはルートリア共通語のようです。私はルートリア共通語をほとんどしゃべれません』
ヴィルフォアッシュの声に若干の焦りが感じられた。
彼の少し後方に立っている南大尉のカメラ映像から、人類軍隊長が愛想笑いを浮かべつつ近づいてくるのが見えた。
坂上隊の参戦によって、不利な状況にあった人類軍は一気に形勢逆転したことから、その愛想笑いの意味を想像するのはたやすい。
少なくとも好意的な接触からスタートすることができるのは間違いない。
私はヴィルフォアッシュに落ち着くように言い、こういう事態になったときの対処を厳正に行うように伝えた。
『わ、わかりました……やってみます』
ヴィルフォアッシュが話始めると、隊長の顔がだんだんと険しい感じに変わっていった。
表情や態度から察するに、どうやらヴィルフォアッシュを怪しんでいるというよりは、どうも軽蔑しているように思える。
想像だが、ルートリア共通語を話せない者を、蛮族とか田舎者とか見下すような風潮があるのだろう。
だんだんと隊長の態度が横柄になってくるのは見ていて腹立たしかったが、それでも警戒されるよりはよほどマシだ。
一生懸命にヴィルフォアッシュは、
『わたしたち、ぼうけんしゃ、はくろうぞく、ぼうけんしゃ』※ルートリア共通語
「誰かに見つかったときは冒険者で通せ!」という、やぶれかぶれな対処法をひたすら貫き通していた。
『ようい、てき、たおす、おかね、はいる、ぼうけんしゃ』※ルートリア共通語
ヴィルフォアッシュが話せば話すほど隊長の顔がどんどんと険しくなっていく。だが私の伝えた情報をヴィルフォアッシュが口にした途端、隊長の顔が一瞬で真っ青に染まる。
『岩トロル! あっち! 岩トロル!』※ルートリア共通語
隊長は大慌てで騎馬兵に何やら指示を出すと、騎馬兵はヴィルフォアッシュが指差した方向へ馬を飛ぶように走らせた。
10分もしないうちに騎馬兵が戻ってきて、隊長に向って何事か叫んでいた。
言葉はさっぱりわからないが、間違いなく岩トロルの存在を確認したという報告だろう。
目をひん剥いて驚いている隊長に、ヴィルフォアッシュが空を指差す。
『よる! くる! 岩トロル! あるく!』 ※ルートリア共通語
空は赤く染まり始めており、急速に夜が迫りつつあった。
『はやく! にげる! いっしょ! にげる!』 ※ルートリア共通語
ヴィルフォアッシュの必死の訴えを振り払い――
人類軍は速やかに撤退して行った。
~ それから30分後 ~
「艦長、岩トロルの振動を検知。間もなく動き始めます!」
「撃て」
「了!」
ドドーン!
ドドーン!
アラクネに搭載されている96式40ミリ自動擲弾によって岩トロルは粉々に粉砕された。
こうして妖異軍と人類軍は去り、
岩トロルは魔鉱石へと姿を変え、
夜が訪れた。
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