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#03: The flawless guy
Unrequited love 01
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麗らかな春の或る日。
本日は新年度恒例の身体測定。新入生から最上級生まで全校生徒がジャージ姿で保健室、体育館、視聴覚室と、校舎内を闊歩する毎春の行事。
私立荒菱館高等学校・保健室。
ジャージを着用した脩一と幸島、大鰐は、保健室の正面の壁に凭りかかっていた。
「身体測定なんてかったりぃよなァ?」
「そらま……普通は、なァ」
脩一の意見に幸島はすんなり同意した。
ふたりは保健室の前に群がるクラスメイトたちを冷静に眺めていた。
普段の体育の授業ですら着替えるのが億劫で、碌々出席しないのに、一年B組の諸君は何故かひとりの欠席者もなく保健室の前に集結。
保健室では内科検診が実施される。荒菱館高校では圧倒的に女子生徒の数が少ないので先に女子生徒を検診し、次に男子生徒を検診するのが慣例だ。男子生徒である彼らが廊下で待機中ということは、室内では女子生徒が検診中。つまり、禮が受診中なのである。
「コイツらアホやな」
大鰐は小馬鹿にして放言した。
保健室のドアは施錠され、窓という窓はカーテンで閉め切られている。それでもクラスメイトたちは、恥も外聞もなく保健室にわらわらと群がる。もしかしたら、カーテンにわずかに隙間でも空いていて、内部を覗き見できやしないかと期待しているのだ。
「お前は興味ねーの、大鰐」
脩一に尋ねられた大鰐は、ハッと鼻で笑った。
「ダッサイ学ジャ姿の女見て何が楽しいんや」
「知らねーの? 内科検診は女子はノーブラだぜ?」
「‼」
「だから虎徹も大樹も必死で扉に張りついてんだよ」
脩一は最前線でドアに張りつくふたりを親指で指差した。
大鰐は一瞬目をカッと見開いて明らかに耳はピクッと動いたが、しばらくしてからフッと余裕を含んだ笑みを零した。
「そんなんべつに見たくな……」
「ウソつけよ。今チラッと想像しただろ」
「してへん! あんな凶暴な女の胸なんかこれっぽっちも想像してへんッ」
大鰐は声を大きくしてムキになって否定した。ムキになればなるほど肯定と同義だというのに。
(コイツ、実は物凄く分かりやすいヤツなんじゃねーか?)
脩一は大鰐から、自分の隣に立っている幸島のほうへ視線を移動した。
「お前も禮に興味あるよな?」
「興味あれへんわけちゃうで。せやけどなー……」
幸島は眉間に皺を寄せて溜息を吐いた。
脩一と大鰐は頭上に「?」を浮かべて不思議そうに幸島を見る。
「さっき教官室の前通ったとき、チラッと身体測定の進行予定表見たんやけどな、俺らのクラスの次は三年B組や」
「だから?」と脩一。
「三年B組やったら何かマズイんか?」
大鰐から聞き返され、幸島は廊下の先へと視線を移した。大鰐は幸島の視線の先を辿り、そしてギクッと肩を跳ね上げた。
「マズイやろ」
「~~……ッ」
大鰐の額から汗がタラリと流れ落ちた。
「いやあ~、日頃からデカイデカイとは思てましたけど、まだ伸びてはるんですね。なに食べて生活してはるんですか」
美作は渋撥の記録カードを覗きこみながら廊下を並んで歩く。
「192なんかフツーなかなかいくもんちゃいまっせ。ガイジンの血ィでも入ってはるんちゃいますか」
渋撥は美作の質問など無視して無表情で廊下を突き進む。身体測定などという面倒臭い行事はサクサクと済ませてしまうに限ると考えているのだが、隣にいる金髪の男はよく喋る。
美作は顔を上げて進行方向正面に目を向けて「あ」と声を漏らした。
それにつられて渋撥もその方向を見ると、そこには保健室に群がる赤と黒のジャージの集団。
「お疲れ様です」
渋撥と美作が保健室に近づくと、殊勝にも新入生のほうから頭を垂れた。この学校でのヒエラルヒーをよく理解しているようだ。
「オマエの後輩か、美作」
渋撥に尋ねられ、美作は笑いながら手をパタパタと左右に振った。
「この子らァ、禮ちゃんのクラスの子らですやん」
渋撥は、挨拶をしてきた新入生たちの顔を一瞥したが、ピンと来なかった。わずかに顎を揺すっただけ。
「え。覚えてはらへんのでっか。可哀想な……」
美作は気の毒だなと思って苦笑した。
この暴君は、先日怒鳴り散らして自ら鉄拳制裁を下した相手すら記憶に留めていなかった。彼は人相と名前を覚えるのが、絶望的に不得手だった。
「近江さん、美作さん。俺は幸島言います。よろしくお願いします」
「遠別脩一でーす。ヨロシクお願いしゃーす」
「……大鰐平……デス」
幸島と脩一は、もう一度渋撥に対して頭を下げ、大鰐はできる限り目を逸らして控えめなボリュームで名乗った。
せっかく殊勝な新入生たちが自己紹介したというのに、渋撥は「ああそう」の一言も無しに保健室のドアのほうへ目を移した。彼が他人への関心が稀薄なの事実だが、今は奇妙な光景のほうが気になってしまうのは当然だった。
「これは何の騒ぎや」
美作は保健室を指差して幸島たちに尋ねた。
幸島は気まずそうに渋撥をチラッと見た。
先日の一件により、渋撥と禮が徒ならぬ仲であることは疑いようがない。保健室に男子生徒が群がっている理由を渋撥の前で口にしたくなかったが、先輩からの質問を無視するわけにもゆかない。
「保健室の中に禮がいてます」
美作はすぐにピンと来て、ああ~、と微妙な声を漏らした。内科検診がどのようなものであるか考えれば、男子高校生の動機などすぐに思い当たる。
察しのよい美作とは異なり、渋撥は特に何も考えず沈黙し、保健室に群がる男子生徒を眺めていた。よせばよいのに、大鰐が口を開いた。
「内科検診のときはノーブラやから、アホどもがサカリ付いてあの様ですわ」
わざわざ言わなくてもいいのに、と美作は内心苦笑した。
渋撥がスッと動き出し、ズンズンと保健室のドアへと近づいていった。美作が何をする気かと問い質す間もなく、拳を振りかぶった。
ガキィンッ!
「痛ェッ」
「えッ? 何だ⁉」
バキッ ボドォッ!
「なッ……近江さん⁉」
「うぎゃーッ」
ドアに群がる新入生たちは、最後尾から順に渋撥から鉄槌を喰らわされ、蜘蛛の子を散らすように慌てて逃げ惑った。その様は阿鼻叫喚。大勢いるから食らわされる拳骨は一発ずつでも、その一発が大の男でも逃げ出すほどに重たくて痛かった。
「あ~あ……」
美作は何てことはないようにそう零しただけ。渋撥を止めようともしない。たかだか新入生の為などに巻きこまれるのは御免だ。
「ちょッ……ごめんなさいぃッ」
ついに最前線の虎徹と由仁も渋撥に掴まり、顔面蒼白で謝ったが、時すでに遅し。
バキャッドゴッ!
ふたりも渋撥に等しく一発ずつ拳を喰らわされ、泣く泣く脩一と幸島のほうへ逃げてきた。
「お前たちバッカじゃねーの。あははははッ」
脩一は声を上げて笑い、虎徹と由仁はその胸座を掴んで詰め寄った。
「オドレは! 気づいとんなら何で教えへんねん~ッ!」
「それでも友だちか! 薄情者ッ」
ガラッ。――保健室のドアが開いた。
ドアを開いた張本人・禮は驚いて目をパチクリさせる。保健室の扉を開けた途端、眼前には入室する時にはありもしなかった壁が聳え立っていたからだ。
禮はスーッと視線を上方へ移動させた。
「あ、ハッちゃん。ウチのクラスの次、ハッちゃんのクラスなん?」
禮はやや首を傾げて渋撥に尋ねた。
渋撥はそれに応えずジーッと禮を凝視する。この三白眼には禮がどのような恰好をしていても愛らしく映るのだが、本日は指が出るか出ないかという大きめのジャージがより一層愛らしさを際立たせている。
(俺の禮はジャージ姿でもカワイイ。セーラーのときと1ミリたりとも劣らずカワイイ。不動のカワイさ! サスガや、完璧や、何着てもいつ見てもカワイさしかあれへん。イヤ、今はそんなことやのォて)
渋撥は脳内の煩悩を振り払い、禮に向ける視線に少々力を入れた。
端から見れば睨んでいるようにしか見えないが、禮はケロリとしていた。
「禮。オマエな」
禮は渋撥に大きな黒い目を向けて「なぁに?」と応えた。
「今ノーブラてほんまか」
ピキンッ。――禮の顔面が瞬時に凍りついた。
渋撥は変わらず無表情だが、美作はやれやれと額を押さえた。
「近江さん。そういうことはこんなトコで訊かんほうが……」
ドッボォッ! ――美作の制止も一刻遅く、禮の拳が渋撥の腹部にめり込んだ。
「ハッちゃんのアホ!」
禮は真っ赤な顔でそう言い残し、その場から脱兎の如く駆け出した。
美作はあっという間に小さくなった背中を見送り、あ~あ、と零した。
普段はおっとりしている禮が、このような突飛な行動をするくらいには恥ずかしかったのだろうなと考えると、殴られた渋撥よりも禮のほうに同情した。
「近江さんハラ大丈夫でっか。さっきのは近江さんのほうが悪いでっせ。女のコに人前でノーブラか、はマズイでっしゃろ」
渋撥は腹部の鈍痛を堪え、今は諌言など聞きたくない。ブスッとして腹部を摩る。
「ミゾオチ入った」
「お大事に💧」
§ § §
身体測定の二日後、日曜日。
禮は高校進学に合わせ、この春からマンションで独り暮らしを始めた。休日ということで、渋撥は禮のマンションを訪れた。むしろ、可愛い恋人が独り暮らしをする部屋を、積極的に訪れないわけがなかった。
リビング中央には円形のカーペット、その上にひとり用のテーブル、ソファを置き、ソファの正面にテレビを配置。ソファからテレビを鑑賞することを想定した完璧な配置だ。
禮はリビングのソファの上にちょこんと座り、渋撥はソファを背凭れ代わりにしてカーペットの上に片膝を立てて座っていた。
「ハッちゃんが悪い」
後方からこう罵られるのはもう何度目だろうか。可愛い彼女はむくれて同じ言葉を繰り返す。
渋撥は黙ってテーブルの上のグラスに手を伸ばす。グラスを傾けてアイスコーヒーを口に含んだ。
「絶対絶対ハッちゃんが悪いもん」
禮はソファの上から渋撥の後頭部に向かって言い聞かせるように言う。
「あんなみんないてるトコであんなこと訊くなんて、絶対ハッちゃんが悪い」
渋撥は空になったグラスをコトンとテーブルの上に置き、首を回して禮のほうを振り返った。可愛い恋人から糾弾されるのはもう食傷気味だ。
「もう分かったて。ンな何遍も同じこと言うな」
禮は口を尖らせて渋撥の顔をじぃっと見る。
「ほんまに反省してる?」
「しとるしとる」
渋撥に軽くあしらわれ、禮は渋撥の頭にクッションを投げつけた。ボスッと、クッションは渋撥の頭で一跳ねして床に落ちた。
「もう一回あんなことしたらウチほんまに怒るからね」
「禮もう怒っとるやろ」
渋撥はそう言うと億劫そうに立ち上がった。ソファの上、禮の隣にドサッと腰かけ、横目で禮を見た。
「ほんま反省したさかいキゲン治せ」
「う、うん……」
「で、何センチやった。少しはでこォなってたか」
「去年より1センチくらい伸びてた」
急に禮の顔がぱああと明るくなった。
これが意図的なら渋撥は顔に似合わずなかなかの策士だが、彼はそういった類の人間ではない。
「身長の話ちゃう」
「?」
「胸」
今度は禮の顔がボッと真っ赤になった。
「何で胸の話⁉」
「身体の、測定、したんやろ」
渋撥は真顔を上半身ごと禮のほうに向けた。
禮の脳内は「?」でいっぱいだった。確かに身体測定はしたが、何故そのようなことを改まって問い質すのか分からなかった。
「身体測定っちゅうたら胸も測るやろ」
「え? 今まではなかったけど、女子校以外ではそうなん?」
「他のガッコのことは知らん。測ったか、測ってへんのか」
「そうなん? 測らへんかったよ……? 保健室のセンセもそんなん言わはらへんかったし」
チッ、と渋撥からは盛大な舌打ち。
禮は釈然としなかった。怒っていたのは自分のほうのはずなのに、いつの間にか渋撥のほうがやや不機嫌になるなんて。
突然、渋撥がガッと禮の両手首を掴まえた。
「しゃーない。俺が確かめたる」
「はッ⁉」
禮は驚いている内に、ソファに押し倒された。あれよあれよという間に、手首を押さえつけられ、跨がられてしまった。
「えッ⁉ ナイナイナイ! そんなん無理! ヤッ、ほんまに触ってるやんッ! イヤ! ハッちゃんセクハラー!」
禮はこの体勢からどうにか逃れられないかと足をばたつかせた。しかし如何せん、上から抑えこむ渋撥の腕力は禮ではどうにもできない。
ぐりっ。――下腹部辺りに硬い物が密着する感触。
必死に抵抗する間に、禮はとあることに気づいた。
「‼ ……ハッちゃん当たってる」
何が、とは明言しないが、布越しでも分かる、自分の体温よりも少々熱を持ったそれの正体は、いくら禮でも知っている。
「まー、嫌がられると余計にな」
渋撥は平然と放言したが、禮にとっては恥ずかしくて顔を覆いたかった。しかし、両手首を抑えこまれているのでそれも叶わない。
「禮がカワイすぎるのがあかんねん。俺の我慢も限界や、思春期やねんから」
「この情況でカワイイとか言うてもあかんッ」
大きな身体が覆い被さり、窓から入ってくる陽光も照明も遮られ、禮の上に影が降りかかった。急に視界が暗くなり、今が昼時分だと思い出させられる。
「今お昼やよ。まだ外明るいんやからね」
「時間なんか関係ない」
「ヤダヤダヤダっ! ほんまイヤなんやって~!💦」
「そんなハッキリ嫌言うな。傷つくで」
「傷ついてる顔してへん!」
渋撥は禮に指摘されて気づいたが、どうやら自分は今すこぶる機嫌がよろしいらしい。自覚すると愉快になってクッと笑みが零れた。
「俺も大概正直者やな」
渋撥の上機嫌に引き上がった口角を見て、ゾゾゾッと禮の背筋に悪寒のようなものが走った。
「あかん! 今日は絶対あかんのッ」
「何でや。あの日か?」
「ほんま怒るよッ💢」
「ああ、スマンスマン。もう言わんさかい怒るな」
渋撥は禮の抵抗を無視して首筋に顔を近づけた。
禮は首筋に渋撥の吐息を感じ、全身をビクッと撥ねさせた。生物が逃れられない危機感を察知すると示す、本能的な反射のひとつだ。
禮は指先から爪先まで力を入れ、キュッと瞼を閉じた。
「今日〝トラちゃん〟来るから!」
その名前を聞いた瞬間、渋撥の動きがピタッと停止した。
「…………。何でや」
「お父はんのお遣い……。家からお米持ってきてくれるん。昼過ぎには着く言うてたからもうすぐやよ」
渋撥はフゥンと独り言を零し、禮の隙を突いてその白い首筋に唇を押しつけた。
禮は肌に吸いつかれた感触に、ヒッと上擦った声を漏らした。
「ハッちゃんヤメッ……」
「嫌な名前出すさかい、余計やめられへんよになったやろが」
「ぇえッ⁉」
(米なんかでコロッとゴマカされよって、このド天然が💢 あのクサレメガネは口実作って禮の部屋に上がりこみたいだけに決もとるやろが)
渋撥は脳裏に〝クサレメガネ〟の人相がちらついたが、可愛い恋人の柔肌に触れれば不快感は消失した。憎らしさに占められてこの情況を楽しまないのは勿体ない。
禮は何の障害にもならない抵抗を止めようとはしないが、渋撥はお構いなしに禮の首筋や鎖骨に口づけを何度も繰り返した。
「無駄やで禮。オマエじゃ192は返されへんやろ」
「え? 192って何?」
「何でもあれへん」
禮は何の意味もないのに抵抗をやめようとはしない。渋撥にとってはその仕草が子どもの駄々のようで少し可笑しくなり、フッと笑みが零れた。
ピンポーン。―― 不意にチャイムが鳴り、禮の身体はビクッと撥ねた。
「トラちゃん、かな……」
渋撥は禮の口からその名が出るだけでも不愉快だった。だから聞かないことにした。
禮の服のボタンを片手で器用に外してゆく。禮が「あかんあかん」と繰り返してもその手を停めなかった。
「ハッちゃんほんまどいて。トラちゃんかもしれへんから早よ出たげなっ……」
「外で待たしとけ」
「なに言うてんの! そんなんでけるわけないやんっ」
渋撥は、何度も玄関でチャイムが鳴り響くのを頑なに無視し、禮の服のボタンを外し終わり、ついにレースの下着に守られた双丘に辿り着いた。下着の意匠を吟味する寸暇も惜しみ、色白の双丘に顔を埋めた。少しひんやりしたそれは、渋撥が期待したとおりの形容しがたい柔らかさ。内部からトクトクトクと早鐘が聞こえてくるのがまた愛らしい。
「やめてッ……! ハッちゃんほんまやめてぇて! ウチが出えへんでもトラちゃんはっ……」
ぬっ、と不意に視界が暗くなり、禮は天井のほうへ目を向けた。その瞬間、顔からサーと血の気が引いた。
ドゴォンッ!
渋撥の後頭部に固くて重たい鉛玉のような衝撃が走った。
渋撥に鉄鎚を喰らわせた男は、額に青筋をクッキリと浮かべ、顔面の筋肉をヒクッヒクッと痙攣させ、その様はまるで米袋を肩に担いだ仁王。
渋撥は直ぐさま禮の胸から顔を上げてその男を睨み上げた。
「ジャリトラァッ💢 どうやって部屋の中に入ッ……」
ガッチャンッ! ――男は渋撥が言い終わるのを待たず、顔面に硬い物を投げつけた。
それから、渋撥の問いかけは無視して禮へと目線を移した。呆気にとられている禮に、自分の鎖骨辺りをトントンと指で叩いて見せた。
禮はその仕草でハッとして、渋撥に引き剥がされた服を慌てて引き上げた。
「禮ちゃん。米、どこ置く?」
男の声は何事もなかったかのように、何も見なかったかのように、ひたすらに平静だった。まるで感情の無いマシンのようだ。
禮は咄嗟には言葉が出てこず無言でキッチンを指差した。
物言う仁王像が米を抱えてキッチンのほうへ歩いていったあとで、渋撥は自分の投げつけられた硬い物を拾い上げた。その正体を知り、ブスッとして禮に突きつけた。
「何でアイツが禮の部屋の合鍵持ってんねん」
「ウチがもし部屋いてへんかったらあかんから、今日トラちゃんに鍵持たしとくてお父はん言うてた。せやさかいあかん言うたのに、ハッちゃんのアホ」
禮は渋撥の側頭部をぺしんっと叩いた。
禮が親しみを持って「トラちゃん」と呼び、渋撥が忌々しげに「ジャリトラ」と呼ぶその男は、禮の父から託された米を届けるという目的を完遂してもいまだ渋撥の視界に居座り続けた。
能登 虎宗[ノト タケムネ]――――
渋撥に及ばないまでも長身であり、がっちりした体格のよい男で、よく鍛え上げられた腕が半袖の下から覗く。特徴は坊主頭に眼鏡。一見して真面目そうな外見だが、目付きは鋭い。温和な人柄という印象は受けない。
禮とは再従兄妹の関係に当たる。子どもの頃に両親を亡くして相模家に引き取られた。禮の父からの信頼は厚く、禮自身も幼い頃から寝食を共にし、本当の兄妹のように育った。
禮は虎宗と渋撥に同じようにアイスコーヒーをグラスに注いで差し出した。しかし、ふたりはそれには手を付けず、小さなテーブルを挟んで睨み合ったまま動かなかった。
禮は居心地悪そうにソファの上で膝を抱えてグラスを口に運んだ。
「米」
渋撥のほうから口を開き、禮は目だけ動かして渋撥を見た。
「届けたんなら早よ帰れや」
「せっかく禮ちゃんに飲み物出してもろたさかいな。飲まな帰られへん」
「せやったら早よ飲んで帰れ!」
渋撥に咆えられ、虎宗はハッと鼻で笑った。
「さっさと俺追い返して続きやるつもりか。腕力に物言わして女ァ押し倒して恥ずかしくないんか、腐れ外道が」
「俺が、俺のオンナと、いつ、どこで、何発ヤろうが、オドレには関係ないやろがッ💢」
「ハッちゃんっ」
禮は頬を赤らめて非難の声を上げた。
渋撥は無視して虎宗と対峙し続ける。
「オドレのツラ見たらヤル気も失せる。これ以上しょーもない説教なんか聞きたないねん。とっとと帰れ、時代遅れクッソ化石頭」
「へぇ、もう治まったんか。万年発情期の節操なしかと思たが、動物よりは少しはマシみたいやな」
ガシィッ! ――渋撥と虎宗はほぼ同時に胸座を掴み合った。
ふたりは額がぶつかりそうなほど至近距離で睨み合い、拳を握って仇敵のように睨み合った。
「あかん!」
禮の一喝で、ふたりの動きはピタッと停止した。
「ケンカするならふたりとも外に出て。部屋のなかで暴れるんやったらウチ怒るよ」
渋撥と虎宗は、睨み合いを続けながらもお互いの胸座から手を放した。無言で元いた位置まで引き下がって胡座を掻いて座った。
お互いに、禮とふたりきりにしたら何をしでかすか分からないという疑心があり、いま部屋から出てゆくわけにはいかなかった。
禮はひとまずホッと息を吐き、虎宗のほうへ顔を向けた。
「あ、あんね……トラちゃん」
「何や、禮ちゃん」
虎宗は視線を渋撥に固定したままで返事をした。
「このこと……お父はんには、黙っといて……くれる?」
「…………。……うん」
渋撥は盛大に「チィッ!」と舌打ちした。
――うん? うんだと? 大の男が可愛らしくもない。
自分には何が何でも刃向かってくるくせに、禮にだけは従順なところも心底忌々しい。
虎宗は口約束でも決して反故にしない篤実な性情だ。禮は安心しきってほーっと胸を撫で下ろした。
渋撥と虎宗――――恋人と兄との不仲は、禮を悩ませるもののひとつではあるが、自分にはどうにかできるものではないから、半ば諦めていた。実際に掴み合いになったりすれば止めには入るが、無理矢理に打ち解けさせようというのは土台無理な話だ。
禮ちゃん、と虎宗から呼ばれ、禮はそちらへ顔を向けた。
「禮ちゃん優しいさかい躊躇しとるんか知らんけど、こんなヤツ、手加減せんで本気でブチのめしてええんやで」
虎宗は渋撥を睨みつけて言った。
禮は虎宗の発言をすぐさまアハハハと笑い飛ばした。
「ん~~、無理やよ。ハッちゃん、ウチより全然強いし」
禮は渋撥よりも一回りも二回りも小さな躯をした、紛れもなく少女だ。しかし、自分よりも一回りも二回りも大柄な屈強な男を屈服させる可能性を秘めた少女だ。
禮の父は武術道場を構えている。その父も、その前の父も、数世代前から続く武人の家系だ。禮も物心ついた頃より父から武術を教わり、他の門弟同様に自己の研鑽に励んだ。今では並大抵の男には引けを取らないまでの実力となった。否、一対一ならばその実力は道場筆頭に数えられる。
虎宗は禮のほうへ目を移し、少々驚いた顔をした。
「どうしたん?」
「イヤ、禮ちゃんがそんなこと言うようになるとはな」
虎宗は冗談を言わない質だから極めて本気で言ったのだ、禮に渋撥を斃せと。
「オドレどんだけ俺と禮をモメさせたいねん。クサレメガネェ💢」
虎宗は渋撥を親指で指差した。
「倒せへんでも思いきりドツき回したくならんか? こんな口も態度も悪い男」
「俺がオドレドツき回したらァッ」
「待った待った待った! もうほんまケンカせんといてってば!」
渋撥が虎宗の胸座に掴みかかろうとし、禮は慌てて間に入った。
――ハッちゃんとトラちゃん、取り返しつかんくらい仲悪くなってしもたなあ。
このふたりがこんなに仲悪なったのにはそれなりに事情があるからな~。出会い頭に決定的にねじれてしもたから、今更どうにもでけへん……。
熒閂の最新話はクロスフォリオにて先行公開( https://xfolio.jp/portfolio/ke1sen/series/1023833 )
本日は新年度恒例の身体測定。新入生から最上級生まで全校生徒がジャージ姿で保健室、体育館、視聴覚室と、校舎内を闊歩する毎春の行事。
私立荒菱館高等学校・保健室。
ジャージを着用した脩一と幸島、大鰐は、保健室の正面の壁に凭りかかっていた。
「身体測定なんてかったりぃよなァ?」
「そらま……普通は、なァ」
脩一の意見に幸島はすんなり同意した。
ふたりは保健室の前に群がるクラスメイトたちを冷静に眺めていた。
普段の体育の授業ですら着替えるのが億劫で、碌々出席しないのに、一年B組の諸君は何故かひとりの欠席者もなく保健室の前に集結。
保健室では内科検診が実施される。荒菱館高校では圧倒的に女子生徒の数が少ないので先に女子生徒を検診し、次に男子生徒を検診するのが慣例だ。男子生徒である彼らが廊下で待機中ということは、室内では女子生徒が検診中。つまり、禮が受診中なのである。
「コイツらアホやな」
大鰐は小馬鹿にして放言した。
保健室のドアは施錠され、窓という窓はカーテンで閉め切られている。それでもクラスメイトたちは、恥も外聞もなく保健室にわらわらと群がる。もしかしたら、カーテンにわずかに隙間でも空いていて、内部を覗き見できやしないかと期待しているのだ。
「お前は興味ねーの、大鰐」
脩一に尋ねられた大鰐は、ハッと鼻で笑った。
「ダッサイ学ジャ姿の女見て何が楽しいんや」
「知らねーの? 内科検診は女子はノーブラだぜ?」
「‼」
「だから虎徹も大樹も必死で扉に張りついてんだよ」
脩一は最前線でドアに張りつくふたりを親指で指差した。
大鰐は一瞬目をカッと見開いて明らかに耳はピクッと動いたが、しばらくしてからフッと余裕を含んだ笑みを零した。
「そんなんべつに見たくな……」
「ウソつけよ。今チラッと想像しただろ」
「してへん! あんな凶暴な女の胸なんかこれっぽっちも想像してへんッ」
大鰐は声を大きくしてムキになって否定した。ムキになればなるほど肯定と同義だというのに。
(コイツ、実は物凄く分かりやすいヤツなんじゃねーか?)
脩一は大鰐から、自分の隣に立っている幸島のほうへ視線を移動した。
「お前も禮に興味あるよな?」
「興味あれへんわけちゃうで。せやけどなー……」
幸島は眉間に皺を寄せて溜息を吐いた。
脩一と大鰐は頭上に「?」を浮かべて不思議そうに幸島を見る。
「さっき教官室の前通ったとき、チラッと身体測定の進行予定表見たんやけどな、俺らのクラスの次は三年B組や」
「だから?」と脩一。
「三年B組やったら何かマズイんか?」
大鰐から聞き返され、幸島は廊下の先へと視線を移した。大鰐は幸島の視線の先を辿り、そしてギクッと肩を跳ね上げた。
「マズイやろ」
「~~……ッ」
大鰐の額から汗がタラリと流れ落ちた。
「いやあ~、日頃からデカイデカイとは思てましたけど、まだ伸びてはるんですね。なに食べて生活してはるんですか」
美作は渋撥の記録カードを覗きこみながら廊下を並んで歩く。
「192なんかフツーなかなかいくもんちゃいまっせ。ガイジンの血ィでも入ってはるんちゃいますか」
渋撥は美作の質問など無視して無表情で廊下を突き進む。身体測定などという面倒臭い行事はサクサクと済ませてしまうに限ると考えているのだが、隣にいる金髪の男はよく喋る。
美作は顔を上げて進行方向正面に目を向けて「あ」と声を漏らした。
それにつられて渋撥もその方向を見ると、そこには保健室に群がる赤と黒のジャージの集団。
「お疲れ様です」
渋撥と美作が保健室に近づくと、殊勝にも新入生のほうから頭を垂れた。この学校でのヒエラルヒーをよく理解しているようだ。
「オマエの後輩か、美作」
渋撥に尋ねられ、美作は笑いながら手をパタパタと左右に振った。
「この子らァ、禮ちゃんのクラスの子らですやん」
渋撥は、挨拶をしてきた新入生たちの顔を一瞥したが、ピンと来なかった。わずかに顎を揺すっただけ。
「え。覚えてはらへんのでっか。可哀想な……」
美作は気の毒だなと思って苦笑した。
この暴君は、先日怒鳴り散らして自ら鉄拳制裁を下した相手すら記憶に留めていなかった。彼は人相と名前を覚えるのが、絶望的に不得手だった。
「近江さん、美作さん。俺は幸島言います。よろしくお願いします」
「遠別脩一でーす。ヨロシクお願いしゃーす」
「……大鰐平……デス」
幸島と脩一は、もう一度渋撥に対して頭を下げ、大鰐はできる限り目を逸らして控えめなボリュームで名乗った。
せっかく殊勝な新入生たちが自己紹介したというのに、渋撥は「ああそう」の一言も無しに保健室のドアのほうへ目を移した。彼が他人への関心が稀薄なの事実だが、今は奇妙な光景のほうが気になってしまうのは当然だった。
「これは何の騒ぎや」
美作は保健室を指差して幸島たちに尋ねた。
幸島は気まずそうに渋撥をチラッと見た。
先日の一件により、渋撥と禮が徒ならぬ仲であることは疑いようがない。保健室に男子生徒が群がっている理由を渋撥の前で口にしたくなかったが、先輩からの質問を無視するわけにもゆかない。
「保健室の中に禮がいてます」
美作はすぐにピンと来て、ああ~、と微妙な声を漏らした。内科検診がどのようなものであるか考えれば、男子高校生の動機などすぐに思い当たる。
察しのよい美作とは異なり、渋撥は特に何も考えず沈黙し、保健室に群がる男子生徒を眺めていた。よせばよいのに、大鰐が口を開いた。
「内科検診のときはノーブラやから、アホどもがサカリ付いてあの様ですわ」
わざわざ言わなくてもいいのに、と美作は内心苦笑した。
渋撥がスッと動き出し、ズンズンと保健室のドアへと近づいていった。美作が何をする気かと問い質す間もなく、拳を振りかぶった。
ガキィンッ!
「痛ェッ」
「えッ? 何だ⁉」
バキッ ボドォッ!
「なッ……近江さん⁉」
「うぎゃーッ」
ドアに群がる新入生たちは、最後尾から順に渋撥から鉄槌を喰らわされ、蜘蛛の子を散らすように慌てて逃げ惑った。その様は阿鼻叫喚。大勢いるから食らわされる拳骨は一発ずつでも、その一発が大の男でも逃げ出すほどに重たくて痛かった。
「あ~あ……」
美作は何てことはないようにそう零しただけ。渋撥を止めようともしない。たかだか新入生の為などに巻きこまれるのは御免だ。
「ちょッ……ごめんなさいぃッ」
ついに最前線の虎徹と由仁も渋撥に掴まり、顔面蒼白で謝ったが、時すでに遅し。
バキャッドゴッ!
ふたりも渋撥に等しく一発ずつ拳を喰らわされ、泣く泣く脩一と幸島のほうへ逃げてきた。
「お前たちバッカじゃねーの。あははははッ」
脩一は声を上げて笑い、虎徹と由仁はその胸座を掴んで詰め寄った。
「オドレは! 気づいとんなら何で教えへんねん~ッ!」
「それでも友だちか! 薄情者ッ」
ガラッ。――保健室のドアが開いた。
ドアを開いた張本人・禮は驚いて目をパチクリさせる。保健室の扉を開けた途端、眼前には入室する時にはありもしなかった壁が聳え立っていたからだ。
禮はスーッと視線を上方へ移動させた。
「あ、ハッちゃん。ウチのクラスの次、ハッちゃんのクラスなん?」
禮はやや首を傾げて渋撥に尋ねた。
渋撥はそれに応えずジーッと禮を凝視する。この三白眼には禮がどのような恰好をしていても愛らしく映るのだが、本日は指が出るか出ないかという大きめのジャージがより一層愛らしさを際立たせている。
(俺の禮はジャージ姿でもカワイイ。セーラーのときと1ミリたりとも劣らずカワイイ。不動のカワイさ! サスガや、完璧や、何着てもいつ見てもカワイさしかあれへん。イヤ、今はそんなことやのォて)
渋撥は脳内の煩悩を振り払い、禮に向ける視線に少々力を入れた。
端から見れば睨んでいるようにしか見えないが、禮はケロリとしていた。
「禮。オマエな」
禮は渋撥に大きな黒い目を向けて「なぁに?」と応えた。
「今ノーブラてほんまか」
ピキンッ。――禮の顔面が瞬時に凍りついた。
渋撥は変わらず無表情だが、美作はやれやれと額を押さえた。
「近江さん。そういうことはこんなトコで訊かんほうが……」
ドッボォッ! ――美作の制止も一刻遅く、禮の拳が渋撥の腹部にめり込んだ。
「ハッちゃんのアホ!」
禮は真っ赤な顔でそう言い残し、その場から脱兎の如く駆け出した。
美作はあっという間に小さくなった背中を見送り、あ~あ、と零した。
普段はおっとりしている禮が、このような突飛な行動をするくらいには恥ずかしかったのだろうなと考えると、殴られた渋撥よりも禮のほうに同情した。
「近江さんハラ大丈夫でっか。さっきのは近江さんのほうが悪いでっせ。女のコに人前でノーブラか、はマズイでっしゃろ」
渋撥は腹部の鈍痛を堪え、今は諌言など聞きたくない。ブスッとして腹部を摩る。
「ミゾオチ入った」
「お大事に💧」
§ § §
身体測定の二日後、日曜日。
禮は高校進学に合わせ、この春からマンションで独り暮らしを始めた。休日ということで、渋撥は禮のマンションを訪れた。むしろ、可愛い恋人が独り暮らしをする部屋を、積極的に訪れないわけがなかった。
リビング中央には円形のカーペット、その上にひとり用のテーブル、ソファを置き、ソファの正面にテレビを配置。ソファからテレビを鑑賞することを想定した完璧な配置だ。
禮はリビングのソファの上にちょこんと座り、渋撥はソファを背凭れ代わりにしてカーペットの上に片膝を立てて座っていた。
「ハッちゃんが悪い」
後方からこう罵られるのはもう何度目だろうか。可愛い彼女はむくれて同じ言葉を繰り返す。
渋撥は黙ってテーブルの上のグラスに手を伸ばす。グラスを傾けてアイスコーヒーを口に含んだ。
「絶対絶対ハッちゃんが悪いもん」
禮はソファの上から渋撥の後頭部に向かって言い聞かせるように言う。
「あんなみんないてるトコであんなこと訊くなんて、絶対ハッちゃんが悪い」
渋撥は空になったグラスをコトンとテーブルの上に置き、首を回して禮のほうを振り返った。可愛い恋人から糾弾されるのはもう食傷気味だ。
「もう分かったて。ンな何遍も同じこと言うな」
禮は口を尖らせて渋撥の顔をじぃっと見る。
「ほんまに反省してる?」
「しとるしとる」
渋撥に軽くあしらわれ、禮は渋撥の頭にクッションを投げつけた。ボスッと、クッションは渋撥の頭で一跳ねして床に落ちた。
「もう一回あんなことしたらウチほんまに怒るからね」
「禮もう怒っとるやろ」
渋撥はそう言うと億劫そうに立ち上がった。ソファの上、禮の隣にドサッと腰かけ、横目で禮を見た。
「ほんま反省したさかいキゲン治せ」
「う、うん……」
「で、何センチやった。少しはでこォなってたか」
「去年より1センチくらい伸びてた」
急に禮の顔がぱああと明るくなった。
これが意図的なら渋撥は顔に似合わずなかなかの策士だが、彼はそういった類の人間ではない。
「身長の話ちゃう」
「?」
「胸」
今度は禮の顔がボッと真っ赤になった。
「何で胸の話⁉」
「身体の、測定、したんやろ」
渋撥は真顔を上半身ごと禮のほうに向けた。
禮の脳内は「?」でいっぱいだった。確かに身体測定はしたが、何故そのようなことを改まって問い質すのか分からなかった。
「身体測定っちゅうたら胸も測るやろ」
「え? 今まではなかったけど、女子校以外ではそうなん?」
「他のガッコのことは知らん。測ったか、測ってへんのか」
「そうなん? 測らへんかったよ……? 保健室のセンセもそんなん言わはらへんかったし」
チッ、と渋撥からは盛大な舌打ち。
禮は釈然としなかった。怒っていたのは自分のほうのはずなのに、いつの間にか渋撥のほうがやや不機嫌になるなんて。
突然、渋撥がガッと禮の両手首を掴まえた。
「しゃーない。俺が確かめたる」
「はッ⁉」
禮は驚いている内に、ソファに押し倒された。あれよあれよという間に、手首を押さえつけられ、跨がられてしまった。
「えッ⁉ ナイナイナイ! そんなん無理! ヤッ、ほんまに触ってるやんッ! イヤ! ハッちゃんセクハラー!」
禮はこの体勢からどうにか逃れられないかと足をばたつかせた。しかし如何せん、上から抑えこむ渋撥の腕力は禮ではどうにもできない。
ぐりっ。――下腹部辺りに硬い物が密着する感触。
必死に抵抗する間に、禮はとあることに気づいた。
「‼ ……ハッちゃん当たってる」
何が、とは明言しないが、布越しでも分かる、自分の体温よりも少々熱を持ったそれの正体は、いくら禮でも知っている。
「まー、嫌がられると余計にな」
渋撥は平然と放言したが、禮にとっては恥ずかしくて顔を覆いたかった。しかし、両手首を抑えこまれているのでそれも叶わない。
「禮がカワイすぎるのがあかんねん。俺の我慢も限界や、思春期やねんから」
「この情況でカワイイとか言うてもあかんッ」
大きな身体が覆い被さり、窓から入ってくる陽光も照明も遮られ、禮の上に影が降りかかった。急に視界が暗くなり、今が昼時分だと思い出させられる。
「今お昼やよ。まだ外明るいんやからね」
「時間なんか関係ない」
「ヤダヤダヤダっ! ほんまイヤなんやって~!💦」
「そんなハッキリ嫌言うな。傷つくで」
「傷ついてる顔してへん!」
渋撥は禮に指摘されて気づいたが、どうやら自分は今すこぶる機嫌がよろしいらしい。自覚すると愉快になってクッと笑みが零れた。
「俺も大概正直者やな」
渋撥の上機嫌に引き上がった口角を見て、ゾゾゾッと禮の背筋に悪寒のようなものが走った。
「あかん! 今日は絶対あかんのッ」
「何でや。あの日か?」
「ほんま怒るよッ💢」
「ああ、スマンスマン。もう言わんさかい怒るな」
渋撥は禮の抵抗を無視して首筋に顔を近づけた。
禮は首筋に渋撥の吐息を感じ、全身をビクッと撥ねさせた。生物が逃れられない危機感を察知すると示す、本能的な反射のひとつだ。
禮は指先から爪先まで力を入れ、キュッと瞼を閉じた。
「今日〝トラちゃん〟来るから!」
その名前を聞いた瞬間、渋撥の動きがピタッと停止した。
「…………。何でや」
「お父はんのお遣い……。家からお米持ってきてくれるん。昼過ぎには着く言うてたからもうすぐやよ」
渋撥はフゥンと独り言を零し、禮の隙を突いてその白い首筋に唇を押しつけた。
禮は肌に吸いつかれた感触に、ヒッと上擦った声を漏らした。
「ハッちゃんヤメッ……」
「嫌な名前出すさかい、余計やめられへんよになったやろが」
「ぇえッ⁉」
(米なんかでコロッとゴマカされよって、このド天然が💢 あのクサレメガネは口実作って禮の部屋に上がりこみたいだけに決もとるやろが)
渋撥は脳裏に〝クサレメガネ〟の人相がちらついたが、可愛い恋人の柔肌に触れれば不快感は消失した。憎らしさに占められてこの情況を楽しまないのは勿体ない。
禮は何の障害にもならない抵抗を止めようとはしないが、渋撥はお構いなしに禮の首筋や鎖骨に口づけを何度も繰り返した。
「無駄やで禮。オマエじゃ192は返されへんやろ」
「え? 192って何?」
「何でもあれへん」
禮は何の意味もないのに抵抗をやめようとはしない。渋撥にとってはその仕草が子どもの駄々のようで少し可笑しくなり、フッと笑みが零れた。
ピンポーン。―― 不意にチャイムが鳴り、禮の身体はビクッと撥ねた。
「トラちゃん、かな……」
渋撥は禮の口からその名が出るだけでも不愉快だった。だから聞かないことにした。
禮の服のボタンを片手で器用に外してゆく。禮が「あかんあかん」と繰り返してもその手を停めなかった。
「ハッちゃんほんまどいて。トラちゃんかもしれへんから早よ出たげなっ……」
「外で待たしとけ」
「なに言うてんの! そんなんでけるわけないやんっ」
渋撥は、何度も玄関でチャイムが鳴り響くのを頑なに無視し、禮の服のボタンを外し終わり、ついにレースの下着に守られた双丘に辿り着いた。下着の意匠を吟味する寸暇も惜しみ、色白の双丘に顔を埋めた。少しひんやりしたそれは、渋撥が期待したとおりの形容しがたい柔らかさ。内部からトクトクトクと早鐘が聞こえてくるのがまた愛らしい。
「やめてッ……! ハッちゃんほんまやめてぇて! ウチが出えへんでもトラちゃんはっ……」
ぬっ、と不意に視界が暗くなり、禮は天井のほうへ目を向けた。その瞬間、顔からサーと血の気が引いた。
ドゴォンッ!
渋撥の後頭部に固くて重たい鉛玉のような衝撃が走った。
渋撥に鉄鎚を喰らわせた男は、額に青筋をクッキリと浮かべ、顔面の筋肉をヒクッヒクッと痙攣させ、その様はまるで米袋を肩に担いだ仁王。
渋撥は直ぐさま禮の胸から顔を上げてその男を睨み上げた。
「ジャリトラァッ💢 どうやって部屋の中に入ッ……」
ガッチャンッ! ――男は渋撥が言い終わるのを待たず、顔面に硬い物を投げつけた。
それから、渋撥の問いかけは無視して禮へと目線を移した。呆気にとられている禮に、自分の鎖骨辺りをトントンと指で叩いて見せた。
禮はその仕草でハッとして、渋撥に引き剥がされた服を慌てて引き上げた。
「禮ちゃん。米、どこ置く?」
男の声は何事もなかったかのように、何も見なかったかのように、ひたすらに平静だった。まるで感情の無いマシンのようだ。
禮は咄嗟には言葉が出てこず無言でキッチンを指差した。
物言う仁王像が米を抱えてキッチンのほうへ歩いていったあとで、渋撥は自分の投げつけられた硬い物を拾い上げた。その正体を知り、ブスッとして禮に突きつけた。
「何でアイツが禮の部屋の合鍵持ってんねん」
「ウチがもし部屋いてへんかったらあかんから、今日トラちゃんに鍵持たしとくてお父はん言うてた。せやさかいあかん言うたのに、ハッちゃんのアホ」
禮は渋撥の側頭部をぺしんっと叩いた。
禮が親しみを持って「トラちゃん」と呼び、渋撥が忌々しげに「ジャリトラ」と呼ぶその男は、禮の父から託された米を届けるという目的を完遂してもいまだ渋撥の視界に居座り続けた。
能登 虎宗[ノト タケムネ]――――
渋撥に及ばないまでも長身であり、がっちりした体格のよい男で、よく鍛え上げられた腕が半袖の下から覗く。特徴は坊主頭に眼鏡。一見して真面目そうな外見だが、目付きは鋭い。温和な人柄という印象は受けない。
禮とは再従兄妹の関係に当たる。子どもの頃に両親を亡くして相模家に引き取られた。禮の父からの信頼は厚く、禮自身も幼い頃から寝食を共にし、本当の兄妹のように育った。
禮は虎宗と渋撥に同じようにアイスコーヒーをグラスに注いで差し出した。しかし、ふたりはそれには手を付けず、小さなテーブルを挟んで睨み合ったまま動かなかった。
禮は居心地悪そうにソファの上で膝を抱えてグラスを口に運んだ。
「米」
渋撥のほうから口を開き、禮は目だけ動かして渋撥を見た。
「届けたんなら早よ帰れや」
「せっかく禮ちゃんに飲み物出してもろたさかいな。飲まな帰られへん」
「せやったら早よ飲んで帰れ!」
渋撥に咆えられ、虎宗はハッと鼻で笑った。
「さっさと俺追い返して続きやるつもりか。腕力に物言わして女ァ押し倒して恥ずかしくないんか、腐れ外道が」
「俺が、俺のオンナと、いつ、どこで、何発ヤろうが、オドレには関係ないやろがッ💢」
「ハッちゃんっ」
禮は頬を赤らめて非難の声を上げた。
渋撥は無視して虎宗と対峙し続ける。
「オドレのツラ見たらヤル気も失せる。これ以上しょーもない説教なんか聞きたないねん。とっとと帰れ、時代遅れクッソ化石頭」
「へぇ、もう治まったんか。万年発情期の節操なしかと思たが、動物よりは少しはマシみたいやな」
ガシィッ! ――渋撥と虎宗はほぼ同時に胸座を掴み合った。
ふたりは額がぶつかりそうなほど至近距離で睨み合い、拳を握って仇敵のように睨み合った。
「あかん!」
禮の一喝で、ふたりの動きはピタッと停止した。
「ケンカするならふたりとも外に出て。部屋のなかで暴れるんやったらウチ怒るよ」
渋撥と虎宗は、睨み合いを続けながらもお互いの胸座から手を放した。無言で元いた位置まで引き下がって胡座を掻いて座った。
お互いに、禮とふたりきりにしたら何をしでかすか分からないという疑心があり、いま部屋から出てゆくわけにはいかなかった。
禮はひとまずホッと息を吐き、虎宗のほうへ顔を向けた。
「あ、あんね……トラちゃん」
「何や、禮ちゃん」
虎宗は視線を渋撥に固定したままで返事をした。
「このこと……お父はんには、黙っといて……くれる?」
「…………。……うん」
渋撥は盛大に「チィッ!」と舌打ちした。
――うん? うんだと? 大の男が可愛らしくもない。
自分には何が何でも刃向かってくるくせに、禮にだけは従順なところも心底忌々しい。
虎宗は口約束でも決して反故にしない篤実な性情だ。禮は安心しきってほーっと胸を撫で下ろした。
渋撥と虎宗――――恋人と兄との不仲は、禮を悩ませるもののひとつではあるが、自分にはどうにかできるものではないから、半ば諦めていた。実際に掴み合いになったりすれば止めには入るが、無理矢理に打ち解けさせようというのは土台無理な話だ。
禮ちゃん、と虎宗から呼ばれ、禮はそちらへ顔を向けた。
「禮ちゃん優しいさかい躊躇しとるんか知らんけど、こんなヤツ、手加減せんで本気でブチのめしてええんやで」
虎宗は渋撥を睨みつけて言った。
禮は虎宗の発言をすぐさまアハハハと笑い飛ばした。
「ん~~、無理やよ。ハッちゃん、ウチより全然強いし」
禮は渋撥よりも一回りも二回りも小さな躯をした、紛れもなく少女だ。しかし、自分よりも一回りも二回りも大柄な屈強な男を屈服させる可能性を秘めた少女だ。
禮の父は武術道場を構えている。その父も、その前の父も、数世代前から続く武人の家系だ。禮も物心ついた頃より父から武術を教わり、他の門弟同様に自己の研鑽に励んだ。今では並大抵の男には引けを取らないまでの実力となった。否、一対一ならばその実力は道場筆頭に数えられる。
虎宗は禮のほうへ目を移し、少々驚いた顔をした。
「どうしたん?」
「イヤ、禮ちゃんがそんなこと言うようになるとはな」
虎宗は冗談を言わない質だから極めて本気で言ったのだ、禮に渋撥を斃せと。
「オドレどんだけ俺と禮をモメさせたいねん。クサレメガネェ💢」
虎宗は渋撥を親指で指差した。
「倒せへんでも思いきりドツき回したくならんか? こんな口も態度も悪い男」
「俺がオドレドツき回したらァッ」
「待った待った待った! もうほんまケンカせんといてってば!」
渋撥が虎宗の胸座に掴みかかろうとし、禮は慌てて間に入った。
――ハッちゃんとトラちゃん、取り返しつかんくらい仲悪くなってしもたなあ。
このふたりがこんなに仲悪なったのにはそれなりに事情があるからな~。出会い頭に決定的にねじれてしもたから、今更どうにもでけへん……。
熒閂の最新話はクロスフォリオにて先行公開( https://xfolio.jp/portfolio/ke1sen/series/1023833 )
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